パパとママと特訓
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「もっとさらけ出して」
「はい!」
いま僕は一心不乱に踊っている。ダイヤ達の期待に応えられず、無様をさらした日から、この特訓は始まった。
憧れを叶えに来たのではないのか、勇者になる存在が小さな事を気にしてどうする。そんな葛藤もあった、だけど、だからこそ僕はいま踊る。小さな子達の期待に応えられなくて、何が憧れを叶えるだ、何が勇者だ。
「ライトちゃん、どうしてそこで格好つけるの!?」
「うっ」
脳裏にリン達の憐れみの目が浮かぶ。ずっと頼れるお兄ちゃん的なポジションを取っていた、あんなガッカリさせたままでいる事は僕の沽券に関わる。
「ライト、狙いすぎだ」
「くっ」
両親の指導は厳しい、相談した時も思った以上に真剣に取り合ってくれた「ライトちゃん、よく相談してくれたわ」「ああ、親冥利につきるな」と転生して前世の記憶を持っていることを告白したんじゃないかと思うほど。こうして特訓をするのは今日で3日目になる。
僕らは、はじめ面白い踊りとはどういうものかと考えた。
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「ア、アレク、それは顔が変なだけよ、ぷっ、ちょっと止めて、あはは」
「ッパパ、フフッその顔は、ハハハは、んそくだよっ」
パパは踊りよりも、顔を面白くする事で面白い踊りというものを表現して見せた。
「イラ、ふはっ、イライザ、卑怯だぞ、無表情で顔の位置を固定したまま踊るのは、くっはは」
「ママ、ちょっハハ、そのっくふう、うごきどうやって?」
ママは踊りだけで、いや逆に顔が踊りを面白いものに見せているように思えるのだが、表現して見せた。僕はふたりを参考にして踊る。
「ライトちゃん...」
「ライト...」
おかしい。パパの面白い顔とママの面白い動きを合わせてやっているのに反応が悪い、まるであの日の焼き回し、憐れみの目が僕を見つめる。
「パパ、ママ...」
自負していた成熟した精神は今は見る影もない、きっと後でみっともないと嘆くだろう。だけど、転生することを選んだ時には思いもしなかったんだ、こんな風になるなんて。
僕は溢れた感情を拭い、前に一歩踏み出す。運が良いことに、表札にはパパとママと僕の名前がある。
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それでわかった事は、どうやら僕には面白さという才能はないらしいという事。あれからもパパのように変な顔をしたり、ママのように無表情で踊ったりしたけど、上手くいかなかった。どうしても気恥ずかしさや、格好をつけようとする面が出てしまうせいらしい。パパとママが言うには、そういうものが少しでも見えると醒めてしまうそうだ。
それでも僕らは諦めない。僕だけだったら諦めていただろう、けど応援してくれるパパとママがいる限りそこに至ることはない。
「あざといわ、ライトちゃん」
「今のウィンクは良かったよ、ライト」
特訓を続けながら、どうしてそれ程までに拘るのかと自問する。面白い踊りをしたいのは、リン、トルク、ダイヤの期待に応えたい為。期待に応えたいのは自尊心を守る理由もあるけど、リン達を笑わせたいから。それに僕は勇者になるように言われて転生した。
人々を笑顔にするのは勇者の役目だ。
「ライト、どや顔出てるよ」
「ライトちゃん、するならもっとハジケて」
農具置き場の空きスペースで僕らは過ごす、夕食前の1時間はきっと特別な時間。太陽が地平線へと向かうにつれて僕らの影を伸ばしていく、ずっとずっと長く。
特訓を終えて、パパとお風呂に入る。まだひとつも面白い踊りが出来ていない、面白さという才能がなく、向いていないのだとしても少しぐらい笑わせることは出来るはず。
ぐるぐると思考を巡らせて頭を洗う、そして思い付く。
「パパ、見て」
「ぶはっ、ラ、ライト、ははッは、そ、それは何、いや何だか分からないけど、ぶふっおもしろ」
僕は立ち上がり、腰をグルグルと回す。オ○ン○ンも同時にクルクルと回して「プロペラッ」僕は勢いのままそう言ってピョンピョン跳ねた。パパはお腹を抱えて笑っている、有頂天になった僕は体も拭かずにママの元へと急ぐ、頭の泡もついたまま。
「ママ、見て。プロペラッ」
「ぷふっ、ライトちゃん。そんな格好で、ふふふっ、ダメよ風邪をひくわ、ふふっ」
さっきよりも早めに腰を回して、クルクルクルっとオ○ン○ンを回す。鼻唄混じりにテーブルを拭いていたママは驚いて、目を見開いてから顔を隠すように笑った。
その後で少し叱られたけど、僕は満ち足りた気持ちになった。人を笑わせることが、こんなに嬉しく感じるものとは知らなかった、転生してきた事も前世の事も置き去りにしてしまう程に。
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つづく