3歳で知る世界①
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朝早く、目が覚める。隣では両親がまだ寝息を立てている。前世の幼少期では隣で人が寝ているのが嫌だった記憶しかない。グズグズと泣き出す子どもの声、歯ぎしりの音。孤独と不安が部屋の中に満ちていて、常夜灯が眩しかった。
この世界には常夜灯というものは無いのか、夜眠る時はは真っ暗。眠る前に母親が「暗くても大丈夫、隣に居るからね」と言ってくるのが少しむず痒いけど、真っ暗の方が眠りやすい。
既に3年僕が転生してから過ぎていて、歩けるようになってからは1年以上が経つ。眠る時間は成長に伴い、正常に近づいていた。
僕はそっとベッドから抜け出してカーテンの中に入る。外はまだ薄暗いけど、そのうち東の空から光が指すだろう。
「眠くないの?」
カーテンの中にいた僕が、今度は母親の腕の中。引き寄せられるように背中を預ける、ぬくもりという言葉が頭の中に浮かぶ、僕はコクりと頷いて母親の質問に答える。本当はもっと喋れるけど、変に思われるかも知れないから、今は口数の少ない子ども。
そのまま僕は首を横に向けてから、顎を上に向ける。
「ん?アレク?パパはまだ夢の中でいいわ。今は私とふたりだけの時間」
いたずら気に微笑む母親の顔に光が射す、だんだんと色づいていく世界。窓から見える田畑が露になる、僕の家は農業を営んでいる。稲穂が風に揺れて波を打ち、その奥で流れる川には太陽の光が反射し始めている。どこか懐かしい、前世で見た北欧の田園風景を思い出させる。
太陽の顔が半分以上見え始め、もうそろそろ家畜たちの鳴き声も聞こえ始めるだろう。僕の家は小さな集落の中にあった。養豚、養鶏場や野菜畑などがあって、4軒の家がそれぞれで分担している。
遠くには市場らしきものもあり、時折、父親が籠を担いで買い出しに行く。母親と一緒に見送ったけど、淡い光を帯びた父親が人間離れした速度で走っていく姿にはまだ慣れない、というより魔法がある生活に慣れていない、前世での感覚や常識に囚われてしまう。
ふだん無口な子どもの変わった反応が面白いのか、父親は事ある毎に魔法を見せてきた。火を出したり、水を出したり、くるくる回っては華麗に飛んだりもする。まるでサーカスのショーみたい。思わず拍手すると、それを見ていた母親も参加して、ショーはとても派手になる。次々と繰り出される魔法は航空ショーにだって引けを取らない。ご近所さんも見に来るくらい。
「おはよう、ふたりとも」
「もう起きたの?」
「なんだい、僕が起きたらまずい事でもあるのかい?」
父親はそう言って、僕の肩を持って引き寄せる。少しバランスを崩しそうになった、支えられて目が合うと、おどけた様に笑う。隣からは大きく息を吐く音が聞こえてくる。
「そうね、現にまずい事が起きているわ。私からライトちゃんが離れて、とっても面白くないもの」
「おや、それは災難だね。でもライトは僕のところにいるから安心して」
慣れないこの世界でも分かってきたこともある。このいがみ合いのようにみえるやり取りも、今では、じゃれ合っているのだと分かる。
「お腹空いた、朝ごはん食べたい」
ふたりの手を取って、もっといいじゃれ合い方の提案をする。乱気流より上昇気流の方が機体は安定しやすい。
「そうね、じゃあ私はベーコンと卵を焼くから、あなたはトーストとサラダをお願い」
「うん、任せて」
「僕も、手伝う」
「ありがとう。それじゃあライトちゃんには、お皿を選んでもらおうかしら」
僕たちは揃ってキッチンへと向かう、決まった場所で補給をするハイドラント方式。補給のあとは両親は農作業、僕は留守番の予定。
部屋を出る前に、振り替えってベッドを見る。もしもあのベッドが無くなったらと想像する、込み上げてくる気持ちは何というものだろう。記憶の中の常夜灯が、少し和らいだ気がする。
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つづく