みんなの歌
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見渡す限りの平原、飛行場を建てても余るぐらいの広さを前に集団の最後方に並ぶ。引率の教官が近くにいて同じように初めて戦場に参加する者達と一緒だった。あきらかに着なれていない甲冑姿で気恥ずかしさを感じる。
前の方でざわめきが起こり、何かあったのかと見ようにも背の低い僕には味方の甲冑姿しか見えない。周りを見渡すと少し離れるが、大きな岩があった『ヴィントシュティレ』他に聞こえないように魔法を唱えて移動する。
岩の上に登り、身を屈めて前を見ると遠くに小さな点が見えた。小さな点は近づいてきていて、次第に人の形をした集団だと分かる。
亜人。誰がそう呼んだかは知らけど、笑わせる。亜とは二番目とか準ずるものって意味になる。例えば旅客機は亜音速、音速に満たない速度で巡航する。亜はそういう風に使われる言葉だ。何が言いたいのかというと、亜人とは人未満の存在を指す言葉だということ。
「あれが亜人...」
誰かの呟きが聞こえる。何もそんなに驚くものではない、僕たちと似たような甲冑を纏っていて、ここからでは人か亜人かなんて見分けがつかない。
戦いがいつ始まるのかと辺りを窺っていると、彼方の亜人軍の中から一人出てきて、此方の王国軍からも一人が前に出る。
「やぁやぁ王国の諸君、今日はいい日だ。そう思わないかね?」
「ようよう連合国の諸君、ああその通り。まったくいい日に違いない」
「「ああ。死ぬにはいい日だが、勿体ないな!!」」
妙に芝居がかった言い草だった。この世界の決まりなのだろうか、前世では中世の戦いの際に大将同士が話し合ったり、一騎討ちの前には名乗りがあったりしたらしいけど。殺し合いに作法とは皮肉が効いているというか、矛盾を抱えた人間の業がよく出ている。
ふつふつと沸く怒りや憎しみが、思考を暗く染めていく。ラッパの音が鳴り、歌が聞こえてくる。誰がというわけではなく僕以外の全員が歌を唄い出した。見るものが見れば感動的だろうが、異様な光景だ。
前日、訓練校の教官から渡された歌詞付きの楽譜を渡された時の事を思い出す。受け取った時に国家なのかと尋ねたのだが「みんなの歌だ」と曖昧に返された理由が分かった。これから戦い殺し合うというのに共に同じ歌を唄うなんて馬鹿馬鹿しくて、正気だとは思えない。
これも神様のお告げなのだろうか、だとしたらあのゼーエンという神は何とも悪趣味で度しがたい奴だ。
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目が覚めると光がある
変わらないものだと信じている
呼吸をして動く体
続くものだと信じている
私たちは同じではない 鏡の世界には誰もいない
私たちには形がある 全てのものに用意されている
さあこの声を届けよう
ひとりではないから
さあこの声を繋げよう
ひとりではないから
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口ずさめるほどになった歌、今となってはこの歌の捉え方が変わっている「大人になれば分かるようになる」誰が言ったかも知らない、どこででも聞くような言葉が頭にちらつく。好きになれそうにはない言葉だ。
分からなければ大人ではないという傲慢さが鼻につく、勝手に分断されたみたいで腹が立つ。実際に分かるようになっても大人になったなんて思わない。
ものわかりが良い事にして妥協しているだけだ。
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歌声が止み、怒号が挙がる。一斉に放たれる声は地鳴りを錯覚させる。その迫力に岩に思わずしがみついてしまう。緊張が解けて顔を上げると平原の景色は一変していた。
矢のように放たれる魔法が化学反応を起こしては多様な現象を引き起こしていた。火と火がぶつかれば更に大きな火になり勢いを増し、風が混ざれば火柱があがり、水に触れれば爆発を起こす。もっとも凄まじいのは雷と合わさった時、放電し炎が意思を持ったかのように揺れ動いた。
剣戟の音も尋常ではなかった。何らかの魔法の力が働いているのだろう、金属の削り合う音が響き近くにいれば音だけでも疲弊してしまいそうだ。
見ているだけではいけない。岩から飛び降りて戦火の激しいところに魔法を放つ。
『ヴィント・ベーエ』
ひときわ巨大な火柱が相手側へと向けて、その偉容のまま倒れ込んでいく。
『シュトゥルム・ベーエ』
全てを掻き消すような風が吹き、巨大な火柱を霧散させる。残って見えたのは溶解した甲冑と動かない亜人達だった。
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つづく




