ずれていく螺旋
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何も知ろうとしなかった。
違う、そうじゃない。踏み込んでいいのか分からなかったんだ。前世の記憶がある僕はどうしたって人との関わりに壁を感じてしまうし、前世の体験が踏み込むことを戸惑わせた。
父さん、母さん、ニコと暮らせて幸せだった。
これも違う。幸せだと思い込むようにしていたんだ、前世で欲しかったものが与えられていたから。幸せだと思わないといけないと義務のように感じていたんだ。
憧れを実現して、欲しかったものは絆だと思い直した。
違う、違う、違う。前世で欲しかったものは前世で手に入れなくちゃ意味がないんだ。
じゃあ、僕が転生して得たのは何だ?
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父さんの死は僕に変化をもたらした。大切な家族の死について何も感じない人なんかいない、前の世界の僕ならともかく、この世界の僕が家族を殺されて怒りを感じない理由はない。別れを済ませ村を後にした僕は王都に着くなり、訓練校にかけ込んだ。
「僕を戦場に出してください!」
「ノックもせずに急に何だね、ここは訓練生が勝手に入っていい場所ではない」
校長室の机の前で丸眼鏡を掛けた男が僕を値踏みするような目で見る。どうすればこの怒りを消化することが出来るのか考えた結果、復讐が頭に浮かんだ。キースさんが居れば早かったのだが、見当たらずここまで来たのだ。
相変わらず値踏みをするような視線は続いている、応接用のソファーセットが間にあり近付くことを戸惑わせる。言葉を続ける事ができずにいると丸眼鏡を掛けた男は深く息を吐く。
「父親の復讐か?」
急に問われて逡巡する思考「復讐は何も生まない」前世で聞いた言葉が頭に浮かぶ。壁に掛けられた時計の針が音をカチ、カチと鳴らして回っている。
「違います」
そう言うべきだ。僕が出した答えは戦場に出るためのもので、本心ではない。父が殺されて復讐したいと思わない者などいないのだから。冷静に下した判断に間違いはないはずで、望む結果が得られると前を向く。
つまらないものを見たという顔がそこにはあった。
「何を不思議そうな顔をしている?私憤に駆られないお前を評価して欲しかったのか?」
「...」
「今度は誰の思考をなぞるのだ?」
「っ!なぞってなんかいません!!」
予想に反する反応をされ、無遠慮に踏み込まれた被害者意識が声を大きくさせた。丸眼鏡の奥の目を睨み付け、これ以上は踏み込ませないように威嚇をする。初対面で何も知らない者に何か分かる筈もない。
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初対面で何も知らない人に何を言われても動じなければ良いだけなのに、何に成ろうとしていたのだろう?勇者、模範的な息子?
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「勇者の称号を持っているのだろう?ならそれを言えばいいのだ。我々は皆、神に従う敬虔な信徒なのだだから『自分は勇者だから』と言われたら誰も反対などしないと言うのに」
「何なのですか!?さっきから!」
「いやはや小賢しいというか、子どもでもなく大人でもない...それが勇者というものなのか?初めて見るから分からんものだな、そういや初めましてだったな」
自己紹介を始めだす丸眼鏡を掛けた男。好き勝手に言われて僕の内心はそれどころではない。かろうじて耳に残ったのはトレメイン大佐という名前、生まれて初めて二度と会いたくないと思わせた人だった。前世を含めてもそんな人はいなかった。両親は一度も会ったことがないから二度とではなく、会いたくもない存在だから。
トレメイン大佐は僕を追い出すと、扉に鍵を掛けて廊下の向こうへと消えていく。残された僕は立ち尽くすしかなかった。
そんな水を差すような出来事もあったが僕の考えが変わる事はなく、戦場に出られるようになる。
モヤモヤを抱えたまま数日が過ぎたある日、いつものように訓練をしているとキースさんが僕を訪ねてきた。父の死後会うのは初めてだったので、様子を伺いに来たのだろう。渡りに船と僕はキースさんに訓練の状況を
踏まえた上で戦場に出たい一応「勇者だから」と付け加えて申し出た。
訓練の状況が良かったのだ。それを見たキースさんはこれならと頷いて、軍本部に持ち帰ってくれた。
冬が去る前の空の下、僕は戦場に立ったんだ。
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つづく




