別れと出会い
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王都の訓練校に入学した日、校舎に入る僕に向けて父さんはこう言った。
「大丈夫、終わらせるから」
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家の前に見慣れた顔が並んでいる。王都へ向かう日の朝、僕の出発を見送るために皆が集まっていた。すでに荷物は馬車の中に載っていて、その中には皆からの贈り物もあった。
ザックさんとマーセルさんからは、丈夫な服を。二人は自分の力の無さを悔やんでいたけど、人にはそれぞれ役割があるだけだ、マーセルさんとザックさんが戦場に出たら、お腹が空いて動くことも出来なくなる人も現れる。
ザックさんの奥さんリエットさんと、マーセルさんの奥さんカーミラさんからは手袋を。そんなに話したことはないけど、ニコが生まれた時は母さんを助けてくれた。
デュモン夫妻からは薬箱を。デュモン夫妻は皆のお医者さんで、いつだって僕らを見守っていてくれた。
リン、トルク、ダイヤ、ニコからはガラス瓶と袋に入った2つのポプリを。共に育った欠けがえのない仲間。ダイヤが泣きながら「みんあじっといっしょになるなる」と変な呪文を唱えていて、トルクが慰めている。リンが意を決したように近づいてきて僕の頬に顔を寄せた、周りが囃し立てる中「ちゃんと戻ってくるのよ」と赤くする。
そして母さんからはマフラーと便箋セットを。
たくさんの身に余るものを抱いて、お返しがしたくなる。首に巻いていたマフラーを腰に着けて「プロペラッ」をした。
「「....」」「ヒヒーン」
長閑な山村に、ベフェルの鳴き声。いい天気だった。別れとは別の涙が出そうになった。
「プロペラッ」
ニコが僕の隣で髪の毛を回しはじめた「プロペラッ」僕も負けじとマフラーを回す。兄のピンチを助けに入る妹、それはもう妹ですか?と疑問を呈さなくてならないが、皆が笑い始めて救われてしまったのなら仕方ない。
「ニコ...」
憧れと尊敬の眼差しを向けて見ると「手紙書きなさいよ」とただ一言。どこまで格好いいんだ妹よ。僕は勇者だけど、僕の勇者はニコだった。
「立派に勇者の役割を果たしてきます。暫く留守にしますが、どうかお元気で」
頭を下げて、馬車に乗り込む。
「もういいのかい?」
「はい」
「そうか...王都で君の父さんが待っている」
王国軍の人が出発を告げて馬車が動き出して、僕は馬車の窓から身を乗り出して手を振る。遠くに離れていく皆の中で、一人先に母さんが家の中に入っていくのが見えた。
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この時の僕は母さんが一人先に帰るのを不思議に思ったけど、今ならその理由が分かる。ただ耐えられなくなったのを誰にも見せたくなかっただけだと。
この世界の大人達は、ずっと耐えていた。
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訓練校に通う間、僕は軍の寄宿舎で暮らす事になった。そこでの生活はどこか前世の施設での生活を思い出させた。起床時間から食事、入浴の時間、そして消灯の時間も決まっている規則正しい生活。
自由は減るけど、その代わりに得られるものもある。
「どうだ?ここでの生活は慣れたか?」
髭もじゃの男が歯磨きをしている僕の背中を叩いて、豪快に顔を洗い始める。慌てて歯磨きを終わらした僕は水しぶきが跳ねる前に「ヴィント」と唱えて防御する。
「ん?なんだ気が利くな、俺の髭を乾かしてくれるとは将来大物になるぞ」
「ビアードさん、彼は勇者ですよ。将来大物も何も既に大物です」
「あ?なんだグラスか、俺の名前はビアードじゃねぇ、レセティックリアンだ」
「長いですし、似合わないんですよ。それに呼び方についてはあなたに言われたくありません、ねぇライト君?」
「はい、ピアンテさん」
「リトルが、言うようになったじゃねぇか」
髭の手入れをし始めたレセティックリアンさんが、歯を見せて笑う。その横でピアンテさんがメガネを掛け直している。二人は僕のルームメイトだ。出身地も年齢も性格も見た目も違う僕達3人、生活を共に送る内に絆が生まれていた。
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つづく




