憧れていたもの
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与えられた一年を僕はどう過ごすべきだったのだろう。ああしとけばよかった、こうしておけばよかったと悔やんで、後にあの時はああするしかなかったんだと言い訳をするばかり。
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父さんが帰ってきた、土煙をあげて。どれだけの早さと力で地面を蹴りあげれば、あれほどの土煙を巻き起こせるのか。魔法を使っているのだろうけど、過剰演出にも程がある。土煙が家の手前で止まり、煙の中から父さんの声が聞こえる。
「ぺっ、うわっ土を食べちゃったよ」
土煙は当然僕たちにも掛かっていて、ヘアメイクをした母さんの髪は土埃でぐちゃぐちゃだ。ニコはいつの間にか僕の後ろに隠れていて被害を最小に抑えていた、盾に成れてお兄ちゃんは満足だ。
「愛しのマインアレス、帰ってきたよ」
煙が晴れて土にまみれた父さんが何か言っている、あなたの全てが土で汚れているのですが。母さんがさっきから肩を震わせている、再会お喜びで震えているわけではなさそうだ。一歩二歩と父さんが近づくのに合わせて、僕とニコが離れる、母さんの髪はゆらゆらと揺れて持ち上がっていた。
「リラ・ストーム!」
紫の光が瞼を刺激する、薄目を開けて隣を見るとニコはサングラスを着用し、何かをメモをしている。そのサングラスどこで手に入れたの?何を学習しているのか分からないけど、君の将来が不安だよ。きっととんでもない称号が与えられるんだろうね、今から楽しみだ。
母さんの怒りが収まってのか光も収まって、前を見ると父さんが出来上がっていた。土をまぶされて焦げがアクセントになった姿焼き「イライザ、君と出逢った時を思い出すね」なんて甘い言葉をささやく、食べたら胸焼け間違いなしだ。
「あらやだ、あの時はもっと手加減したわよ?」
「いや、どんな出会い方!」
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思わずを叫んでしまった事を思い出して、口がにやけてしまう。賑やかな家族だった、何時でも何処でも全力で、感情のままに楽しもうとしていた。まぁ感情がいき過ぎて酷い目に父さんが遭っていたけど、それでも笑っていた。いや、笑おうとしていたんだね。
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父さんの滞在期間は10日間で3日も経てば、いつもの日常が戻ってきたように感じた、4人家族が4人揃っている、そんな当たり前の日常。それが今は特別な出来事になってしまった、この10日が過ぎれば今度はいつ父さんに会えるか分からない。だから、この機会に父さん達にプロペラ飛行機のお披露目をしようと思い至った。
父さんが戦場に出てから、そんな事をしている場合じゃないと止めたプロペラ飛行機の製作。何度も僕の気分ひとつで進んだり止まったりしている。
ポプラの木の広場を抜けて、隠したままの試作機の状態を確認しに行く。半年以上も放っておいたから、状態によっては間に合わないかもしれない。不安と後悔を抱えたまま着くと、想像以上のものが目に入った。最後に見た時とほとんど変わらない状態の試作機、雨避けのテントには縫い直された跡があって、周りの草もきれいに刈られていた。
近づいて見ると、機体には僕の知らない傷がついていて、その全てが補修されていた。
「驚きましたか?」
「うん」
驚いてる時に驚く事が追い付かなくて、ニコの声にそのまま返事をした。
「兄さんはまた戻ってくるからってニコちゃんが言うから手伝ってあげたのよ」
「ちょっ姉さん、それ内緒」
「やば~ニコの顔が」
リン、トルク、ダイヤの姿もあった。3人の顔を順に見る、久し振りに見た気がした。僕からの言葉を待っているような顔で笑顔を見せてくる。
「ごめん」
「おっほん。いいえ、兄さん。こういう場合は“ごめん”よりも“ありがとう”ですよ」
頭を下げる僕の横で、どこかで聞いたような使い古された台詞を自慢げな様子で言うニコ。兄より優秀な妹は存在するのかも知れない。僕は試作機の状態よりも、もっと大切なものを見た気がした。
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あの映画のワンシーンのように仲間とプロペラ飛行機を作って飛ぶことに憧れていた。転生して、映画をなぞるように仲間を集めてプロペラ飛行機を作ろうとした。
憧れていたのは、プロペラ飛行機で空を飛ぶこと。
そう思っていたのに。
そうじゃなかった。
憧れていたのは、何の変哲もない陳腐なもの。
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つづく




