自転車
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何もしなくても時は過ぎていく、時間は止まらない。神様、ゼーエン様のいる空間以外では。
だから僕は急いで、自転車を作っている。前世で見たテレビの特番、翼人間コンテストや、あの映画でだって自転車を改造したものをプロペラ飛行機にしていた。
この世界にだって自転車はある。あるけど、自分で作るのがロマンと言うもの。何も鋳造からしよう言う訳ではないから、それほど大袈裟なものではない。
そう。大袈裟なものでもなく、既に存在していて想像しやすいのもあるのか、リン達の反応も良い。自分達の分も欲しいと、一緒に作ってくれている。ようやく憧れへ一歩進むことができた。
「ライト兄ちゃん、ボーっとしてないで、車輪を固定して」
「そうよ、ライト、変な顔をしてないで」
「ライトにい、変態?」
「なっダイヤ、どこでそんな言葉を覚えたの?」
「へんたい」
ニコも真似して言うんじゃない。ニコが生まれてからもう3年が過ぎ、僕はもうすぐ11歳になろうとしていた。以前は皆の尊敬を集めていた僕だったが、今や見る影もない。だけど、これでいい、いやこれがいい。
断っておくが変態と呼ばれて喜ぶような、どこぞの紳士様とは違う。上下関係なく、対等な関係での仲間が僕の理想だからだ。
「ねぇ変態ライト、この部品はどこに使うの?」
「リン、変な形容詞を付けないでくれたまえ。それは、ここだね」
僕の転生生活は順調である。
「変態兄ちゃん、これは?」
「おお、トルクよく見つけた。でも僕はライトだよ」
もうすぐ自転車も完成しそうで、何の問題もない。
「ライト変態にい、嬉しそうだね」
「ダイヤ、後ろに付ければいいと言うものではない」
大丈夫。この自転車にプロペラ機構を付けて、試運転する日も近い。
「へんたいさん」
「ニコ、兄さんと呼びたまえ」
ニコ、ママがいない時にオムツを替えていたのは僕だよ。このタイミングで言うと本当に変態っぽくなるので言わないけど。と、こんな風に僕は与えられた時間を家の手伝いをしたり、皆と過ごしたりした。時間が経つにつれて皆との絆も深まっていく、前世では絆なんてものを感じたことも無かった。
ねぇ?ずっと欲しかったものを手に入れた感覚を味わった事はあるかい?
ジグソーパズルの最後のピースが埋まった時の100倍、サイコロを5つ振ったら同じ目が揃った時の1000倍、信号機が進行に合わせて青に変わった時の10000倍の幸せを僕は感じていたんだ。幸せというものが目に見えた気がして、ずっとこのままで居られると思っていた。
忘れていたんだ、ゼーエン様がこの世界を救って欲しいと言っていた事。ずっと忘れたままで良かったのに、記憶はいつだって外的な刺激によって呼び覚まされる。
自転車が完成してお披露目の日、見慣れない人たちが僕達の村にやって来た。
彼らは見たことのない馬車に乗り、颯爽と村に降り立った。見たことのないと言うのは、僕自身が馬車を見たことがないという事もあるけど、馬車の形、それを引いている動物も見たことがない形をしていた。
「な、なんだ」
「大丈夫、ライト。あれはベフェル、人を運ぶように品種改良された馬だよ」
見慣れない人たちは、ベフェルに引かれた馬車、ベフェル車とでも呼ぶのだろうか。それから降りて来た人は皆一様に制服のような装いをしており、リン達、子どもは親たち以外の大人を初めて見て、怯えているようだった。
「ははっ、怯えさせてしまったね。おや、君は胆が座っているのかな」
髭をたくわえた精悍な男が一歩前に出てきて僕らを一瞥すると、そう述べた。僕は何も答える事は出来ずに、そのまま男はパパ達男性陣と共にデュモンさんの家へと入っていった。
僕を含む子ども達はママ達女性陣と一緒に、僕の家で待つことになった。その間、制服を着た大人達が農場や牧場を見て回っていた。勝手に入るな、と制空権を侵害されたような、憤りを感じたけど、何かできる訳でもなく黙って見ているしかなかった。
「ライトちゃん、彼らは悪い人ではないわ」
ママが僕の頭を撫でて言った。そうこうする内にパパ達がデュモンさんの家から出てきて、髭をたくわえた精悍な男はパパ達に深く礼をして、制服を着た人達もそれに続いて礼をした。
その後、デュモンさんの家でどんな話し合いがあったのかは分からないが、制服を着た人たちは村が備蓄していた食料品をベフェル車に積み始めた。
作業は速やかに行われ、積み終えると、彼らはもう一度礼をして村から去っていく。備蓄倉庫には今日お披露目するはずだった自転車が残された。
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つづく




