空を自由に飛んでみたいと思わないかい?②
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空を自由に飛びたい、今までどれだけの人が願っただろうか。見上げるとそこにある空、重力という煩わしいものから解き放たれて、その中を思いのまま。現実逃避のひとつなのかも知れないけど、それはとても気分が良さそうに思えた。
だから今の世界でも、この思いは伝わるはず。
「空を自由に飛んでみたいと思わないかい?」
ダンスにでも誘うかのように、僕は手をみんなの前に差し出す。これが感動的な映画のシーンなら、ひとり、またひとりと僕の手の上に手を重ねていく場面。
ポプラの広場には風が吹いて、一瞬の静寂の後「うーん?そんなに思わないかな?」予想外の言葉が僕の耳に届いた。
「え?」
聞き間違えたのだろうかと受け入れる事ができずに発した声は間抜けな調子、空港で念入りにチェックした筈なのに金属探知機のゲートに引っ掛かってしまったかのよう。
「それより魔法を早く使いたいな。出来れば水の属性だったらいいなと思っているの」
「水属性?姉ちゃん、どうして?」
「お父さん達の仕事を手伝いたいからね」
「そっか、じゃあ僕は風の属性で草刈りしたいな」
差し出していた手が急に重くなる、血の流れが肩から先へは止まったような感覚がして、冷たくなっていく。家の事を話す二人が遠くに見えて、彼らとの違いを見せつけられて気付く。僕にとって、この世界は神様から与えられたようなもので、憧れを叶える為に用意された舞台だと心の何処で思っていたという事に。
力なく下ろす手、諦めではなく過ちを犯した罪の意識がそうさせる。そこに、ちいさな抵抗、触れるものがあった。ダイヤがプロペラ棒を持って僕の手に押し付けていた。
「そらをとべるの?」
「うん、そうだよ」
「くるくるまわって?」
「いや違うよ、こういう感じの乗り物で空を飛ぶんだ」
僕は言葉のまま地面に、プロペラ飛行機の絵を描く。前世の頃から何度も描いている形、上主翼と下主翼のついた複葉機。二人乗る形だけど、一人でだって操縦できる。前方に大きな車輪をつけて、尾翼も描いて完成。夢にも思い描いたプロペラ飛行機には、ゴーグルをつけた僕、その後ろには成功を祈り飛び立つのを後押ししてくれる人達がいる。
「とりさんみたい」
「そうだね、鳥も揚力で空を飛んでいるんだよ」
「へ~、ヨウリョクってすごいんだね」
「ねぇライト、それで本当に飛べるの?」
家の話から戻ってきた、トルクとリンが僕の描いた絵をまじまじと見て言う。さっきの二人の言葉に目を覚まされた僕は、少しぎこちない「う、うん」と返して、絵の詳細を説明し始める。翼の角度を変えることで上昇させたり、下降させたり出来る事、離陸や着陸の時には滑走路と言って平坦な道が必要な事も。
そうやって言葉で埋め尽くして、さっき僕の中に出来た罪悪感が外に出ないように、見つからないように、後で心の格納庫にしまえるようにする。
結局、僕はみんなに空を飛ぶことの魅力を伝えられなかった。ましてや「一緒にプロペラ飛行機をつくろう」なんて言い出すことも出来なかった。情けないけど人付き合いの経験が少なく、僕は誰かを誘うという行為をした事がない、食事にも、遊びにも。成熟した精神を持っていても経験や知識が無い事の前では、誰だって現在の空を見て3日後の天気を予想するようなもの、事によっては1週間後の天気かも知れない。
帰宅した僕は罪悪感を抱えたまま、夕飯の手伝いをする。
「ライトちゃん、何かあったの?」
「え?」
ママが僕を見る。何て言えばいいのか、心配そうな見透かしたような目で。だから何度も言うけど、誰も現在の天気から3日後の天気はわからないのだから。だから急に雨が降ってもおかしくないだろう。
その後は、あまり思い出したくない。雨は熱帯の雨のように降り注いで、気がつくとパパもすぐ傍にいて、激しさを増した気がする。
「フフフフッ、ライトちゃんの目、フフフ、ねぇフフ」
「ハッハハッハハハハ、どうした、グフ、んだいライト?目が変だぞ、ハッハァ」
翌朝、腫れた目を見て大笑いをするママとパパ。どれだけ笑うんだと呆れると同時に、抱いていた気恥ずかしい気持ちもどこかへ行ってしまう。
顔を洗って、昨日の罪悪感を心の格納庫に仕舞おうとしたけど、もう僕の中には見当たらなかった。それどころか心の格納庫の中は、いつの間にか空きスペースがあって、残っているのは長く収納しすぎて、よく分からなくなったものだけになっていたんだ。
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つづく




