白い稲光
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過去に見た、ある映画のワンシーンが忘れられないなんて事はないかな?。聞いといて先に答えるのはマナー違反だけど、言わせてもらうと僕にはあるんだ。子どもの頃、僕は訳あって施設暮らしだったんだけど、その施設にあった一枚のDVDを隙があれば、ひとりで見ていたんだ。もちろん同世代の奴らと見ることもあったけど、落ち着きのない奴も居てせっかくのシーンを邪魔される事がほとんどだったからね。
まぁ何が言いたいかっていうと、それほど僕はその映画のあるシーンが大好きだったてこと。
え?どうしてそんな話をするのかって、それは人は自分でした選択が正しいかどうか不安な時、自分が何故そうしたのか明確な理由が欲しくなるからさ。
何を選択したのか?気になる?欲しがりさんだね、もう二つ目の質問だよ。大体これはモノローグなんだから質問してくる事自体、おかしいのに...うん...おかしいのは僕だね。
待って、聞いて。おかしいのは重々承知の上だけど、自分の置かれた状況を整理するためにも自問自答は必要だと思うんだ。
どうしてこうなったのか。
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あれは仕事終わり、職場の飛行場が見える土手に座っている時だった。前髪を揺らすぐらいの風が吹いていて、滑走路には一台の飛行機が入ってくるのが見えた。
「今の世界では憧れは現実にならない。何処かまだ制空権がない世界にでも生まれ変わらない限り...」
何もない空に、自分達が作った飛行機が飛んでいく姿を想像する。仲間と共に苦労を乗り越え、成功へと至った喜びを分かち合う。
「フィクションなんだ」
架空の世界の出来事、そんなものに憧れるのは馬鹿げている。進路や就職を考える際に何度もそう自分に言い聞かせてきた。だけど、それでも、どうしようもなく輝いて見えてしまう。
大きな音を立てて飛行場からジェット機が飛んでいく。その姿に圧倒されるけど、何の感慨も湧かない。強い風が吹いて、雑誌の切れはしが飛んできた。漫画雑誌の一部で“ようこそ異世界の物語の世界へ”と書かれていた。
「異世界か...俺も異世界に転生できたらな」
呟いた瞬間、白い稲光が僕を貫いた。
気がつくと真っ白な世界。目の前には神様っぽい、ギリシャ神話に出てくるような長い髪に白い衣を着ている人が座り込んだままの僕を、にこにこしながら見ていた。
「初めまして、大橋頼人。あなたにお願いがあります、私の管理する世界を救って欲しいのです」
急な展開は久しぶりに会った同級生に誘われたら、何だか分からない商品、幸せになる石鹸の話をされた時の事を思い出させる。辺りを見回すけど、あの時と同じく僕の頭は潰れたネジみたいに回らなかった。
「言葉が分からない?おかしいですね」
「!?」
さっきまで前にいたのにいつの間にか横に来ていて、面を食らった僕はとても陳腐なものだった。
「あ、あなたは一体?」
「おお、言葉に間違いないようですね、言語選択を間違えたのかと思いました。私?私はそうですね、あなた方が信仰している神と言ったところですが、ゼーエンと呼ばれています」
「神?では僕は死んだのですか?」
「いいえ、死んでなどいません。あなたにお願いがあって、此処にお呼びしたのです」
「此処とは?」
陳腐な質問は僕の頭が回り始めるまで続いて、ゼーエン様は一つ一つ丁寧に答えてくれた。僕はそれで、ゼーエン様が神様なんだと理解した。なにを馬鹿なと思うけど、見た目は僕ら人間と変わらない背格好で話し方も特別なものではないのだけど、アンティーク風とアンティークには違いがあるように僕とゼーエン様では存在そのものが違うという印象を受けたんだ。
だから、幸せになる石鹸を勧められた時と違って僕はすっかりゼーエン様の言うことを信じた。そして状況を理解し始めた僕にゼーエン様はこう切り出したんだ「転生する気はないか」と。
それを聞いた僕はまた驚いたけど、今度の頭はしっかりと言葉を噛んで歯車を回転させる。異世界転生、地球とは別の惑星なのかパラレルワールドなのかは分からないけど、僕が認識していた世界とは別の世界へ、魂はそのままで生まれ変わる。
僕は輪廻転生を信じていた訳ではなかったけど、後になって分かった事だけど、現実に起きてしまったんだ。でもこの時、僕が考えていたのは別の事だった。
「神様、」
「ゼーエンと呼んでください」
「ゼーエン様、その転生する世界に飛行機はありますか?」
「ありません、残念ながら。そしてそれこそが大橋頼人、あなたを此処に呼んだ理由です」
「ぅえ?」
飛行機がないと聞いて喜びそうになったけど、続いた言葉に喉がつっかえた。喉が滑走路で声が飛行機だったら離陸失敗だ。恥ずかしい思いを心の格納庫に閉まって前を見ると、見透かしたような笑顔でまたゼーエン様が僕を見ていた。
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つづく
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