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第19章:森の昼餉


「君は、今日は何をするんだ?」


食後のティーカップを手にしたまま、セイランが問いかける。


エラは少し考えながら答えた。



「王都から依頼されている薬を作るため、森へ薬草を採りに行こうと思います」



「……そこに、私も一緒に行っていいだろうか」



不意に向けられた申し出に、エラは少しだけ目を見開いた。



「いいですけれど……体に無理はかかりませんか?」



セイランは頷き、わずかに口元を緩めた。



「休んでばかりでは、かえって鈍ってしまう」




 ◇ ◇ ◇




食後の片付けを終え、エラは戸棚から採取用の籠と小刀を手に取り、日差し避けの帽子を被った。


セイランも身軽な旅装へと着替え、ふたりは並んで森へ向かった。


木々の間を縫うように差し込む柔らかな陽射しが、足元の葉にきらめきを与える。


苔むす地面には朝露が残り、踏みしめるたびに草と湿土の香りがふわりと立ちのぼった。


エラは慣れた手つきで、小さな刃を使い、丁寧に薬草を摘んでいく。


それぞれの色合いや香りを確かめながら、籠へとそっと収めていく。


傍らで見守るセイランは、ほとんど言葉を発しない。

けれど、時折身を屈めて葉を観察するその眼差しは、まるで幼い子どものような好奇心に満ちていた。



「これは消化を助ける草です。匂いが強いので、少量だけ。こちらは切り傷に効きます」



自然とこぼれた説明に、セイランは静かに頷く。


静かに耳を傾けてくれる人がいる――


それがこんなにも心地よいものなのかと、長くひとりだったエラはふと思った。




 ◇ ◇ ◇




昼も近くなり、ふたりは木漏れ日の差す大きな木の下に腰を下ろした。


エラは籠から包みを取り出し、薄く切ったパンにハムとチーズ、刻んだハーブを挟んだものをセイランに差し出す。



「……いつの間に?」



「朝食を作るときに一緒に用意しておいたんです。セイラン様の分は朝食後に。簡単なものなのですぐできます」



続けて、布で包んだ小瓶とカップを取り出し、ハーブティーを注いで差し出した。



「ハーブティーです。疲れも取れますよ」



「ありがとう」



セイランはそれを受け取り、静かに口をつけた。


具を挟んだパンにかぶりついたその口元から、ぽつりと一言。



「……うまい」



その言葉に、エラは少し驚いて、それからそっと笑みをこぼす。


自然に漏れたようなその声が、なぜか胸に温かく染み込んできた。



「よかったです」



森の中を風が渡り、鳥のさえずりがどこか遠くで響く。


ふたりは言葉少なに、けれど穏やかに、昼を取った。


静けさに包まれながら、互いの存在をそっと確かめるように。




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