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第18章:朝

エラは微かな鳥のさえずりで目を覚ました。


眠ったはずなのに、なんとなく身体がだるい。

疲れていたとはいえ、やはり緊張していたのだろう。


のろのろと身を起こし、隣室へと視線を送る。

扉の向こう――セイランの気配は静かだ。

彼はまだ眠っているのだろう。


音を立てぬように足元に注意しながら、ベッドから降りる。

手早く着替えを済ませ、鏡の前に立つ。

肌に薄く粉を叩き、色味を整えた。


今までは素顔で過ごす日々だった。

けれど、これからは「妻」として身だしなみを整えなくては。

とはいっても、もともと化粧道具などないに等しいので化粧も必要最低限ではあるけれど。



 ◇ ◇ ◇



台所に降り立ち、火を熾す。

水を鍋に張り、昨日馬車で持ってきた食材を手際よく処理していく。


焼き直したパンを薄く切り、スモークされた豚肉と熟成チーズを添える。


牛乳をゆっくりと煮込み、塩とナツメグで調味する。


湯を沸かし、乾燥させておいたローズヒップとカモミールの葉をティーポットに入れた。

朝の空気に似た、すっきりとした香りが広がっていく。


湯気と香りのなかにいると、心もほどけていくようだった。


と、扉の方で気配が動いた。



「おはよう」



少し掠れた声。


振り向くとセイランが立っていた。


きちんとした襟元のリネンシャツに、足元は柔らかな革靴。

ラフな格好だと、普段よりも若く見える。



「おはようございます」



少し緊張しつつ、答える。



「もうすぐ朝食ができます。座ってお待ちください」



セイランは頷き、顔と手を洗い、歯磨きをしてから席に着いた。

その間にエラがテーブルの上を整えていく。



「どうぞ」



一礼したセイランは、ナイフとフォークを取り、音を立てずに食事を口に運ぶ。


エラよりも随分大きな体で静かに食べるその様子に、



(なんだか大型獣に餌付けしているみたい)



ふとエラはそう思って、それはセイランに失礼だわと慌てて思考を消し去った。




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