第二話 爆破
「大都会」
第二話「爆破」
1985年8月、少々、秋の気配が漂い始めた東京。
首相官邸では、日米首脳会談の準備が進められていた。
「警備の確認は終わったな?」桑原平部長刑事が、警備計画書に目を通しながら署長室で打ち合わせをしていた。
その時、刑事課に一本の不審な電話が入る。
「俺は『赤い九月』だ。72時間以内に、全ての政治犯を釈放しろ。さもなければ、首相官邸を吹き飛ばす」
電話を受けた長島真が眉をひそめる。
「本部、通話を追跡してくれ」
しかし、発信位置の特定には失敗。組織的なプロの犯行だった。
「また面倒な事件が来ましたね」河添千郷が、ハーレーのキーを手に取りながら呟く。
本堂隆治がパソコンのキーボードを叩く。「『赤い九月』...1970年代に欧州で活動していた極左テロ組織の名前だ」
「まさか、日本に?」長島が立ち上がる。
その時、警ら課の中井源樹が情報を持って飛び込んでくる。
「団長!二週間前、成田空港で不審な貨物が通関していました。申告は電子機器でしたが、税関のX線検査で不自然な影が」
「爆薬か?」本堂が鋭く指摘する。
「可能性が高い。通関者は架空会社でした」
桑原はサングラスを外し、目を細める。「河添、本堂。貨物の行き先を追え。長島は極左組織の情報を集めろ」
「はい!」
一同が動き出したその時、警ら課の堀内俊吾がポテトチップスを食べながら走り込んでくる。
「大変です!国会議事堂前で不審な外国人を確認!」
現場に急行した河添と本堂。警ら課の海老野正太郎と宮本隆も合流する。
不審者は黒革のジャケット姿の男。河添が職務質問しようとした瞬間、男は素早く身を翻し、人混みに紛れ込んだ。
「追うぞ!」
河添がハーレーで追跡を開始。本堂と海老野は黒のクラウンで続く。
国会議事堂前の車道を疾走するハーレー。不審者は黒のポルシェ911に飛び乗った。
「本部!黒のポルシェ911を追跡中!ナンバーは...」
エンジン音が轟く中、カーチェイスが始まった。赤坂見附から青山通りへ。スピードを上げるポルシェを、河添のハーレーと本堂たちのクラウンが追う。
その時、ポルシェから機関銃が火を噴いた。
「伏せろ!」
本堂が叫ぶ。銃弾が車体を貫く中、パトカーのサイレンが街に響き渡る。
交通課のパトカーから、劔持清織と山崎愛里が合流。
「前方、環状線に入ります!」
カーラジオから長谷川一平巡査の声。そこへ、桑原の冷静な指示が入る。
「前方は工事中。環状線を封鎖しろ。奴らを永田町方面に追い込め」
緊迫した空気が街を包む中、ポルシェは永田町に向けて疾走。その先には、爆薬を仕掛けられているかもしれない首相官邸が待っていた。
永田町の街路を疾走するポルシェ911。河添のハーレーと本堂のクラウンが猛追する。
「くそっ!」
ポルシェの後部座席から再び機関銃が火を噴く。本堂は咄嗟にハンドルを切り、銃弾をかわす。
その時、無線が鳴る。
「本部から緊急通信!首相官邸の地下駐車場で不審物を発見!」
長島の声に、全員が緊張する。
「爆発物処理班の到着まで、あと15分!」
桑原の声が響く。「了解。私たちでなんとかする」
首相官邸に向かうポルシェ。
その時、横道から黒塗りのクラウンが現れ、ポルシェの進路を遮る。
運転席から降りたのは、中井源樹。強面に汗が光る。
「行かせるか!」
ポルシェが方向転換を図った瞬間、反対側から劔持清織と山崎愛里のパトカーが出現。完全包囲の態勢が整う。
「観念しろ!」
本堂がM1911を構える中、ポルシェの運転手が不敵な笑みを浮かべた。
「まだだ!」
運転手が取り出したのは、小型の爆破装置。その瞬間、首相官邸の地下駐車場で爆発が起きた。
「なに!?」
しかし桑原の声が無線から響く。「心配するな。爆発は小規模だ。本物の爆弾はまだ別にある」
その言葉に河添が気付く。「ポルシェだ!車体に仕掛けられている!」
本堂が銃を構え直す。「降りろ!」
しかし犯人たちは降車を拒否。その時、狙撃の名手・海老野が高所から一発の弾丸を放つ。
ポルシェのエンジンルームを貫いた弾丸が、車を完全に停止させた。
「くそっ!」
運転手が発信機を取り出した瞬間、本堂の放った弾丸がそれを粉砕。
同時に河添が運転席に飛び込み、犯人を組み伏せる。
「動くな!」
後部座席の男が最後の抵抗を試みるが、待ち構えていた中井の一撃で沈黙。
「車体を確認します!」
爆発物処理班が到着し、ポルシェを調べ上げる。
車体下部から大量の爆薬とリモコン起爆装置が発見された。
「これを首相官邸に突っ込むつもりだったな」
桑原が現場に到着。
サングラスの奥の目が鋭く光る。
調べによって、彼らは国際テロ組織「赤い九月」の残党で、日本の極左組織と連携して首相官邸襲撃を計画していたことが判明。
「団長」
長島が報告する。
「彼らの拠点から、他のテロリストの情報も見つかりました」
翌日の朝刊は、未曾有のテロを未然に防いだ東京山手線警察署の活躍を大きく報じた。
署に戻った一同。
「やれやれ」堀内がポテトチップスを食べながら溜め息をつく。
「まだまだ気は抜けないぞ」
桑原が告げる。
「次はどんな事件が待っているかわからない」
河添がハーレーのキーを手に取る。
「来るものなら来いですよ」
「その通りだ」本堂が頷く。
「我々は日本一危ない刑事課なのだからな」
「君たちその意気だよ!頑張ってくれたまえ!」
森署長は満面の笑みを浮かべながら、労いの言葉をかけた。
夕暮れの首相官邸に、再び平穏が戻っていった。
しかし、東京の街には新たな危険が潜んでいた。
(完)