第一話 始まりの日
「大都会」
第一話 「始まりの日」
1985年8月、真夏の太陽が照りつける東京・渋谷。
午前10時15分。
渋谷中央銀行に、黒いバラクラバを被った4人組の武装強盗団が押し入った。彼らは自動小銃のM16A1とショットガン、手榴弾で武装していた。
「動くな!全員動くな!」
リーダー格の男が叫ぶ声が銀行内に響き渡る。
その時、たまたま渋谷中央銀行に来ていた河添刑事は、ATMで現金を引き出そうとしていた。
状況を察知した河添は、すぐさまポケットから無線機を取り出した。
「こちら河添!渋谷中央銀行に重武装の強盗が押し入った!至急応援を!」
その声を聞きつけた強盗の一人が、ATMコーナーに向かって無差別に射撃を開始。
河添は、瞬時にATMの陰に身を隠した。
銃声を聞いた通行人が悲鳴を上げて逃げ惑う中、パトカーのサイレンが次々と鳴り響いた。
「おい!警察だ!」
警ら課の堀内俊吾巡査と海老野正太郎巡査が、真っ先に現場に到着。しかし、強盗団は既に人質を取って立て籠もっていた。
「近づくな!近づいたら人質を殺す!」
リーダー格の男が銀行員の女性を盾にして叫ぶ。
その瞬間、パトロールカーが次々と到着。
交通課のパトカーからは劔持と山崎が降り立った。
「くそっ!」
堀内が舌打ちする中、黒いクラウン・パトロールカーが轟音を響かせながら現場に到着。
本堂隆治と長島真が降車する。
「状況は?」
本堂が堀内に尋ねる。
「武装強盗4名、人質は行員と客合わせて20名以上です」
その時、バイクのエンジン音が轟いた。
ハーレーダビッドソンで現場に到着した河添が、銀行の裏口から本堂たちの元へと合流する。
「奴ら、相当のプロだ。動きからして何かの特殊部隊の経験者じゃないかと」
河添の報告に、本堂が眉をひそめる。
そこへ、森祐一署長を乗せたパトカーと、桑原平部長刑事の乗った黒のクラウンが到着。
現場は瞬く間に警察車両で包囲された。
「団長!」
河添が状況を報告しようとした時、銀行内から再び銃声が。
「これ以上近づけば、30分おきに人質を一人ずつ始末する!要求は簡単だ。現金20億と、ヘリコプターを用意しろ!」
犯人の要求に、桑原は冷静に状況を分析する。サングラスの奥の瞳が鋭く光る。
「河添、本堂。裏口の状況を確認しろ。長島、犯人たちの素性を洗え。特殊部隊の経歴を持つ連中で、最近出所した者がいないか調べろ」
桑原の指示が飛ぶ。その時、強盗の一人が威嚇射撃。銀行の窓ガラスが粉々に砕け散った。
人質たちの悲鳴が響く中、桑原は無線を取る。
「各部署に通達。SATの到着まで、絶対に単独行動は取るな。これより、渋谷中央銀行強盗立て籠もり事件の捜査本部を設置する」
炎天下の渋谷の街に、緊迫した空気が漂い始めていた。
強盗団のリーダーが再び要求を叫ぶ。
「あと2時間だ!それまでに金とヘリを用意しろ!」
桑原は捜査会議に集まった警察官たちを見渡す。
「長島、わかったことは?」
「はい。去年、航空自衛隊の特殊部隊から4名が脱走。その後、東南アジアで傭兵として活動していた形跡があります」
その時、警ら課の中井源樹が立ち上がった。
「私も自衛隊特殊作戦群にいましたが、あの動きは間違いなく自衛隊の戦術そのものです」
銀行裏手からの報告を終えて戻ってきた河添と本堂が緊急の情報をもたらす。
「裏口の非常階段に爆薬を仕掛けています。普通の突入は無理です」
桑原はサングラスを調整しながら、冷静に状況を分析する。
「海老野君」
「はい!」
「君は狙撃の名手だったな」
海老野が頷く。桑原は地図を指さした。
「向かいのビル、あそこから銀行内が見えるはずだ。長島と組んで、状況を監視しろ」
「了解!」
二人が立ち去ると、桑原は残りのメンバーに向き直る。
「河添、本堂。俺たちで突入する。私服で、客を装って」
「でも、平さん!危ないじゃないか、」森署長が制止しようとする。
「心配ご無用。私たちは「日本一危ない刑事課」だ」桑原がニヤッと笑う。
その時、銀行内から悲鳴が響く。強盗団が女性人質に暴行を加え始めていた。
「もう待てない!」
河添が叫ぶ。桑原は決断を下す。
「作戦開始!」
向かいのビルでは、海老野がレミントンM700に照準を合わせていた。長島が双眼鏡で状況を確認する。
一方、河添と本堂は、周辺の商店で買い物客を装い、銀行に接近。桑原は、ショットガンを背中に隠し、老人に変装して銀行に向かう。
突然、銀行内で発砲音が。
人質の女性が撃たれた瞬間、海老野のライフルが火を噴く。
ガラスを突き破った弾丸が、発砲した強盗の肩を捉えた。
「総員!突入!」
桑原の号令と共に、河添と本堂が銀行に突入。
本堂のM1911が火を噴き、強盗の一人の手からM16を弾き飛ばす。
河添は回し蹴りで一人を殴り倒すと、エンフィールドで制圧。しかし、リーダー格が手榴弾を取り出した瞬間。
「させるか!」
変装を解いた桑原のショットガンが炸裂。手榴弾が宙を舞い、桑原は瞬時にそれを蹴り上げ、窓の外へ。轟音と共に空中で炸裂した。
「全員動くな!」
本堂が叫ぶ中、最後の一人が人質を盾に立てこもる。
「もう終わりですよ。うふふ」
銀行の非常口から現れた劔持清織が、冷静な声で告げる。
彼女の拳銃が、強盗の足を捉えていた。
「ぐあっ!」
最後の強盗が崩れ落ちる。
「人質全員意識あります!」
長島の声が響く中、救急隊が次々と到着。
負傷した人質の救護が始まった。
「さすが桑原軍団!あっぱれだ!さすが平さん!」
森署長が駆け寄る。しかし、桑原は既に現場検証の指示を出していた。
「河添、本堂。調書の準備を」
「了解です」
夕暮れの渋谷の街に、再び平穏が戻り始めていた。
帰署途中、堀内が助手席でポテトチップスを食べながら呟く。
「やっぱり、うちの刑事課って凄いっすよね」
運転席の宮本巡査が苦笑する。
「当たり前だよ。日本一危ない刑事課なんだから」
夕陽に照らされた渋谷の街並みを、何十台ものパトカーのサイレンが駆け抜けていった。
(完)