片鱗
「そう睨まないでおくれよ」
ダダナンは両手を上げて三人を制した。特にミヨとタオは敵意を剝き出しにしており、今にも襲い掛かってきそうだ。
降伏するように両手を上げて見せ、ダダナンは続ける。
「さっきの彼の言葉にも繋がるけど、この大陸にはまともに戦える人材は少ない。強い人はみんな、中央に引き抜かれちゃうからね。だから、あの戦闘に介入するなら中央から派遣されてきてる駐在員に頭を下げるしかなかった」
「……禁足海域の件でもめてる真っ最中に、そんな形で借りを作れなかった?」
タオの言葉に、ダダナンが静かに頷く。
「そもそもあの戦闘は郊外で起こったこと。一般人に被害は出なさそうだったし……何より、仮に王都の騎士であってもあの戦いを止められるとは思えなかった。あれはそう、例えるなら神同士の……」
「違うよ」
言葉を被せてきたのは、サクラ。壁の絵を見つめており、四人からはその背中しか確認することはできない。その声色は静かで、どこかうわ言のようにぼんやりとしていた。
「神様同士のケンカは、あんなものじゃないよ」
「……興味深いね、まるで見たことがあるかのような言い方だ」
サクラは返事をせず、代わりに少しだけ顔をダダナンの方に向けた。まるでその黄金に輝く左目を、見せつけるように。
視線が交錯した、刹那。ダダナンは猛烈な寒気と心臓を握り潰されるかのような錯覚を覚えた。殺気などという生易しいものではない、それは死そのものと対峙した感覚。
「サクラ」
だがそれは、ミヨの静かで優しい呼びかけによって消失した。ダダナンが冷静さを取り戻した時には、サクラはすでに部屋の反対側まで移動して、裸婦の彫像を興味深そうに眺めていた。
余裕を失い、全身汗だくになりながら、ダダナンはミヨに言った。
「助かったよ、死ぬかと思った」
「こちらこそ、彼女に代わって非礼を詫びます。まだ慣れていないもので、大目に見てやってください。ただ、彼女の非凡を認識しているなら、余計な挑発や詮索は控えることを勧めます」
「肝に銘じるよ、身をもって体感してしまったからね」
恐る恐る、再びサクラの背に視線を向ける。そこには見た目相応、年相応の少女がいるだけだった。




