思惑
ベルの退出後、ウェルガノは閉められた白い扉をぼんやりと見つめていた。その傍らには顔を白い面で、全身を白い装束で隠した長身の男が立っている。面には一切の装飾はなく、目の部分に小さな穴が開いているだけだ。
彼も扉の方を向いているが、それは扉を見ているというよりも、たまたま彫像がその向きに置かれているだけと言った方が妥当だった。
微動だにせぬまま、男が言う。
「よろしかったのですか」
その声が無機質という印象を与えるのは、面のせいでくぐもっていることだけが理由ではない。ウェルガノの側近という立場を与えられた彼が、自ら選んだ生き方の表れだ。
ウェルガノは男が突然現れたことにも言及せず、視線を動かすことなく答える。
「何のことだい」
「そのような探りは不要ですよ、我々の仲だ」
「だからこそ僅かな齟齬を嫌うんだ、組織や人間関係の亀裂はそういうところから入るものだからね」
男の沈黙は、納得と肯定に他ならなかった。一息置いて、口を開く。
「彼女は嘘を吐いていました。それを追及しなかった件についてお聞きしています」
「問題ないよ、あれは彼女の忠誠心だ。見たまま、思うままを告げれば、僕を偽物呼ばわりすることになるからね」
「ですが、釘の一本も刺さないのはいかがなものかと。単独行動に打って出る可能性も高いのでは」
ここで初めて、ウェルガノは笑った。口を歪める、悪人のような笑顔だ。
「ちょうどそのことを考えていたんだ」
「結論は?」
「問題なし、ベルがあの少女に勝とうが負けようがこちらに利がある。負けた場合の損失も彼女の命一つだ、安いものだよ」
「左様ですか。では対処は不要、私は例の計画を進める方向でよろしいのですね?」
「そうしてくれ。ああ、ベルの監視はこれまで通り続けるように」
「心得ております」
男は一礼し、音もなく姿を消した。一人残されたウェルガノは、満足そうに笑う。
「ピースは揃いつつある……悲願の成就は近い」




