左目
目が覚めた、と認識するまでに少し時間を要した。時間は夜中。部屋は暗く、外も静かで、まだ夢の中にいるような感覚だった。
視線を動かすと、月も雲に隠れた闇の中、窓のそばで本を読むミヨの姿が目に入った。
「……読めんの、それ」
「夜目が利きますから」
突然話しかけられたというのに、ミヨに動揺は見られない。サクラよりも早く、サクラが目を覚ましたことに気付いていたのだろう。
サクラはゆっくりと体を起こす。そこでようやく、ベッドに突っ伏して眠るタオに気付いた。まったく起きる気配がないのは生来の眠りの深さゆえか、あるいは。
「……」
サクラの視線が、タオの顔に釘付けになる。暗くてはっきりとは見えないが、その目もとには涙の跡が残っているようだった。
「泣いてた? この子」
「黙秘します、乙女のプライバシーですから。ただ、仮に泣いていたのだとしたら……原因に心当たりはありますか?」
「まあ、ね」
バツが悪そうに苦笑し、タオの頭をやさしく撫でてやる。小さな、どこか安心したような吐息が漏れるが、やはり目を覚ます様子はない。
サクラは手を止めぬまま、ミヨに視線を戻して言った。
「何も聞かないの?」
「もちろん聞きたいことは山ほどありますが……覚えているのですか?」
「ううん、ぜーんぜん」
あっけらかんとした様子のサクラに、ミヨは小さく頷いた。
「安心しました」
「あれ、どうして?」
「防衛本能が正常に機能している証拠ですよ。あなたが寝ている間に三人でいくつか仮説を立てまして、それに基づいた判断です」
「三人……? そっか、セルードも含めてね。なんかズルいな、仲良くなっちゃってさ」
わざとらしく口を尖らせるサクラに、ミヨは真剣な表情を向けた。
「ただ、その左目については改めて考えてみる必要がありそうですね」
「左目……?」
サクラが首をかしげる。当然だ、自分の目を見ることはできないのだから。
夜目が利くミヨには、はっきりと見えていた。サクラの左目が、『専刃』状態の黄金のまま戻っていないことを。




