サクラ VS ベル-2
前提として。重力に従って振り下ろす斬撃と重力に逆らって振り上げる斬撃では、前者の方が威力で勝る。体が大きい者の攻撃は、小さい者の攻撃よりも強い。
もし、衝突の結果がこの前提にそぐわないなら、そこには理由があるはずである。小柄でも膂力に優れる者はいる、武器に細工をして威力を上げることもできる。だが今回は、そこに答えはない。折られた刀を見て、ベルはすぐに気付いた。
「タイミング、か……!」
歯噛みするベルに、サクラが勝ち誇ったような笑みで応える。
刀に限らず、攻撃というものは最初から最後まで威力が一定ということはほぼありえない。一度の攻撃の中に、最も強いタイミングと、最も弱いタイミングがあるものだ。相手の攻撃が弱いときに、自分の攻撃の強い部分をぶつける。それができれば、本来の力関係を逆転させることが可能になる。
もっとも、言うは易しだ。これを実行するには、相手の攻撃を見切り、自分の攻撃を強く撃てる間合いを見極め、一瞬の好機を見逃さず攻め立てる必要がある。それは相手の手の内を知っていたとしても至難の業だ。
だが、少なくとも。サクラは今、その至難を成した。振り上げられた刀は二人の体格差もあって、ちょうどベルの首元近くにある。
「……!」
間一髪、サクラの狙いに気付いたベルは猛烈な勢いで後退した。サクラは刀を脇に構え直しながら追いすがる。
「どうやったか知らないけど、腕と違って首は治せないみたいだね!」
「……! それを知ったから、どうだというんです!」
隣り合う建物の瓦屋根に飛び移りながら、ベルが折れた刀を投げつける。サクラは軽々と避けるが、その表情は怒りを露わにしていた。
「堕ちたもんだね、剣士が剣を捨てるなんてさ」
「おや、戦いの最中にお説教とは。もう勝った気ですか?」
「私が勝ったんじゃなくて、あんたが負けを認めたんでしょ。武器を捨てるって、そういうことだよ!」
サクラが一層強く踏み込み、ベルとの距離を詰めにかかる。その、刹那。
「……!?」
左足で屋根を蹴り、強引に突進の方向を修正する。ほぼ同時に屋根が、建物が真っ二つに切断された。もし方向転換が間に合っていなければ、サクラも巻き込まれていた。




