かみさまさがし
「何をしに来たか、ね……」
笑みを浮かべるタオからは、策謀や罠の気配は感じない。そこにあるのは、期待。この曖昧で、如何様にも逃げを打てる質問に対して、サクラがどう答えるのかを楽しみに待っているのだ。
探り合い、その言葉にも嘘はないのだろう。けれど彼女は、あくまで期待しているのだ。突然現れた目の前の少女が、自分の友になってくれることを。
「……」
それを直に感じて、サクラは意を決した。
「私さ、探してるんだよね」
「探すって、何を?」
「神様」
タオが驚いて目を見開く。
「……本気で言ってんの、とは聞かないよ。顔見れば分かるから」
「ありがと」
「人の口から久しぶりに聞いた、神様なんて。剣士だと思ってたけど、民俗学者なの?」
「まっさかあ、学者なんて肌に合わないよ。お察しの通り、私はただの美少女剣士だけど……」
「言っとらんわ、美少女。いやまあ、可愛い顔だとは思うけど」
「でしょ?」
したり顔で胸を張るサクラに、タオはわざとらしく肩をすくめて見せる。
「ともかく、美少女剣士さんは神様の情報を得るために、世界中の禁書が収められてるこの図書館に来たんだね」
「そういうこと」
「……確認なんだけどさ、神様を探してるんだよね? 遺物とか痕跡とかじゃなくて、神様そのものを」
「そうだけど……会うために探すって、何か変?」
「そりゃね。世間一般じゃ神様は空想上の存在だし、実在説を唱えてる学者たちですら二千年以上前に滅びたって言ってるんだから」
「へえ、詳しいね」
「そりゃあ、こんなところに住んでるからね」
タオが壁の本棚に視線をやる。
「ここにある本は、衛兵に見つからないようにこっそり棚から抜いてきたやつだから。偏りはあるけど、色々知ってると思うよ」
「ふーん、なるほどねえ…………あ!」
サクラが突然、勢い良く立ち上がった。
「神様の本、ある!?」
「もちろん。多分、全部ここに」
「いくら探してもないはずだよ。読んでもいい?」
「いいけど、その前に一つだけ。あなたの言葉は、神様の存在を欠片も疑っていないように聞こえる。どうして?」
「どうしてって、そりゃあ……」
答えようとして、サクラは黙り込んでゆっくりと椅子に座り直した。その沈黙は発言を躊躇っているというより、どう言語化するか思案しているように見えた。
サクラは険しい表情のまま、自信なさげに口を開いた。
「…………ごめん、よく分かんない」
「あは、変なの」
タオには、その言葉が嘘や誤魔化しだとは思えなかった。だから、その笑顔に邪気はない。
「勘ってこと?」
「そうかも、いや違うかな……根拠はないんだけど確信はあるというか、記憶はないんだけど会ったことがある気がするというか……」
「なるほどね……分かった、ありがとう。今はそれで十分。じゃ、本が気になって仕方ないみたいだし、お茶でも入れようか」