開花
臆病。その言葉に、口を真一文字に結んで堪えていた男は、とうとう我慢の限界を迎えて顔を真っ赤にしながら口を開いた。
「何も知らない愚物どもが……いい加減にしろ! これ以上の侮辱は許されない! 必ずや神罰が……」
だが、サクラたちの反論も待たず男は言葉を切った。否、それ以上言葉を継げなくなってしまった。全身が激しく痙攣し、目の焦点は合わず、全身の血管が皮膚を突き破りそうなほどに浮き、口からは言葉にならない呻き声ばかりが血反吐とともに発せられる。
何より目を引くのは、左胸の薔薇の刻印。ただ赤かっただけのそれが、今は目を刺すように激しく輝いている。サクラは魅了されたようにその光に釘付けになっていたが、ふと我に返り、タオを抱えてカウンターの奥に飛び込んだ。
次の瞬間。男は全身の穴という穴から激しく出血し、断末魔の叫びすらなく息絶えた。店内は赤いペンキをぶちまけたように、壁にも床にも天井にも、赤黒い血がこびりついてしまった。
発光が収まった時、刻印は形を変えていた。蕾だった薔薇は開花し、脇腹や右胸にまで模様が広がっている。
ヨンガがカウンターから顔を出して、ため息をついた。
「少し詰めすぎたかね、せめて天井くらいは保護しとくべきだったよ」
「平気そうだね、おばちゃん。結構ショッキングな死に方だったのに」
「年の功さ、そう褒めないでおくれよ」
「ふーん……?」
明らかにはぐらかされたが、ヨンガのどこか寂しそうな横顔に、サクラは追及するのを諦めた。代わりに、足元に屈んでいるタオに視線を向けた。
「タオはそこにいな? 見て楽しいもんじゃないしさ」
「あー……そうする。何となく想像はつくし。じゃあ私は、おじさんの様子を見てるよ」
こっそり戦況をうかがっていた常連の男は、衝撃的な光景に泡を吹いて気絶していた。




