サクラ VS 異形の男-2
男が虚ろな目をしたまま、異形の両腕を振りかぶってサクラに飛び掛かる。理性も戦略もない直線的な攻撃をサクラは容易く回避する。攻撃の余波で床が抉れ、テーブルが吹き飛んだ。
男をカウンターに近付けないように立ち回りながら、サクラが怒鳴りつけるように言う。
「おばちゃん、刻印って!?」
「刺青みたいな赤い模様が体のどこかにある、そこを攻撃するんだよ」
「簡単に言ってくれるね、他人事みたいにさ……!」
吐き捨てながら、サクラは目を凝らして男を今一度観察する。顔、首、腕。肌が露出している部分にそれらしきものはない。
サクラは刀を脇に構え、腰を落とした。
「ったく、男脱がすなんて趣味じゃないってのにさ……タオ!」
サクラが呼びかけるよりも一瞬早く、狭い店内に二発の銃声が響き渡った。狙いは男の首と側頭部。通常なら反応できる距離ではないが、男は巨大化した右腕を振りぬいて弾丸を弾き飛ばした。被弾した箇所からは細く煙が上がっているが、ケガをした様子はなかった。
だが、それでいい。サクラは素早く距離を詰め、男の服を切り裂いた。大雑把なようで繊細なその剣筋は、男の体には傷一つつけなかった。
順調だ、これで刻印とやらの在処が分かる。そう思っていたサクラだったが。
「……!」
大きな誤算があった。確かに男の体には、ヨンガの言う刺青のような模様が刻まれていた。直径五センチ程度のそれは、バラの蕾を模しているように見える。
問題は、それが男の左胸にあったことだ。
サクラの動きが一瞬、止まる。刻印を攻撃することが生け捕りの条件となり得る、その目論見が崩れたからだ。
殺すわけにはいかない、それはなにも敵への情けや手を汚すことへの忌避感から来る思考ではない。この得体のしれない敵から情報を得るためだ。だが。
「……!」
硬直した隙を、男は見逃さなかった。丸太のような腕を突き出し、サクラに掴みかかる。すんでのところで回避したが、その鋭い爪が頬を掠め、少量の鮮血が飛んだ。
「こいつ、美少女の顔に……!」
舌打ち交じりに刀を構えなおすが、サクラは対応を決めあぐねていた。刻印や急所を避けた攻撃は、むしろ男を痛みや出血で暴走させる結果になりかねない。だが、この大きさと膂力の相手を弱らせずに拘束するのは困難だ。
一瞬の膠着の後、サクラは男が両足に力を入れたことに気付いた。それは飛び掛かるための予備動作だが、体重移動や男の視線から、サクラは自分が狙われているのではないことにすぐに気付いた。
気付いてしまったばかりに、サクラの思考は止まった。その鋭い踏み込みも、空を裂く一閃も、本能による動作だった。
「舐めんな……っ!」
無意識に吐き捨てた時には、男の首は床に転がっていた。




