店名の謎
「そういえば、サクラちゃん。探し物は見つかったのかい?」
食器を片付けながらヨンガが言う。その大きな背中に、サクラは笑って返す。
「ううん、全然。でも、旅の仲間が二人も増えたんだ」
「へえ、そりゃいいね。一人旅も悪かないが、やっぱり賑やかな方がいいよ。あんたはそういうタイプだろ?」
「へへ、まあね」
「だが、あんたのような女は、意外と馬が合う相手を見つけるのが難しいもんだ……タオちゃん、苦労するだろうが、見捨ててやるんじゃないよ?」
「う、うん」
「よく言うぜ、ママ。昔はあんたもよっぽど……がっ!?」
からかうように笑う男の額に、一直線に飛んできたお玉が直撃する。男は仰け反り、そのまま椅子から落ちてしまった。
ヨンガがため息をつく。
「まったく、若い子の前でいい気になって昔話なんて、あんたっも年取ったね」
「わーお、パワフル。ねえねえ、おばちゃん。店名の勇者の嫁ってさ、ガチ?」
サクラは興味津々な様子でカウンターに身を乗り出す。男を助け起こしながら、タオが驚いて目を剥いた。
「勇者って、王都を救ったとかいうあの……? ってことは、あの鎧も」
「やだねえ、店の名前は中年女の茶目っ気さ。真に受けるもんじゃないよ」
「いやいや、ママは中年っていうより……」
口の減らない男の顔面に、今度はまな板が回転しながら炸裂する。あおむけに倒れこむ男に、ヨンガはふんと鼻を鳴らした。
「タオちゃん、今度は助けなくていいからね」
「は、はーい……」
「それより、サクラちゃん。あんたの探し物ってのは何なんだい? 言いたくないなら無理にとは言わないけどさ。二回も来てくれたんだし、できることなら助けになってやりたいからね」
「ほんとに? じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな」
サクラはカウンターに置かれたフォークを一本手に取り、指で回しながら言った。
「神様、探してんの」
「へえ、そりゃあ……」
ヨンガの返答を待たず、サクラは目にもとまらぬ速さで背後に向かってフォークを投擲した。弾丸のように空を裂き、その鋭い先端が、若い男の着くテーブルに突き刺さった。




