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執行猶予

「さて、僕の役目は終わりだ。聖域は崩壊し、君たちは元の世界に戻る……と、本来ならそうなるのだけど、どうやらそうもいかないようだ。サクラ、聖域の役割とは何だと思う?」


「え、うーん……条件をクリアしないと入れないんだから、大事なものを守るため?」


「概ね正解だ。大事なものとは、武器や書、情報、生き物ということもある。それを相応しい者に与える、そのときまで守るのが聖域の役目だが……もうひとつある」



 キリエは、いまだ立ち上がれずにいるセルードに視線を移した。



「鍵を不当な手段で入手した不心得者を、逃がすことなく抹消することだ」



 キリエの視線が、殺意が、研ぎ澄まされた太刀のように鋭利になる。それだけで、人一人殺せそうなほどに。


 サクラもタオも、とっさに反応できなかった。ただ一人、ミヨだけが瞬間移動と錯覚するほどの速さで、庇うようにセルードの前に立った。


 もっとも、殺意とは見に見えぬもの。立ちはだかったとて遮れるものではなく、セルードはショックで泡を吹いて気を失ってしまった。


 無様に倒れる男を冷たく一瞥して、キリエはミヨに視線をやった。そこに湛えられたのは敵意ではなく、純粋な疑問だった。



「なぜ庇う? 奴が粛清対象であることは、君も分かっているはずだが。別に仲間というわけでもないだろうに」


「彼は自らの罪を認めています。見苦しく言い訳を並べ立てることもしなかった。言葉だけでは説明し得ない事情があるのではないかと思うのです。彼の処遇は、彼の拠点にて詳しく話を聞いてから判断すべきです」


「罪を軽くするため、罰を逃れるために誠実なふりをする。人間にはそういう狡猾な面がある。知らないわけではあるまい」



 ミヨは一瞬、言葉に詰まる。けれどサクラとタオに視線をやってから、意を決して口を開いた。



「それでも私は、人を信じたいのです」


「…………そうか」



 キリエは殺気を完全に収め、満足そうに笑った。



「サンクト……いや、ミヨだったか。その男については一任する。思うままやるといい」


「ご厚情、感謝いたします」



 ミヨが膝をつくのを見て、キリエはサクラに視線を戻した。



「よろしく頼むよ、大事な後輩だ」


「任せときなって」



 満面の笑みを浮かべるサクラに、キリエは一つ頷いた。


 次の瞬間、世界が大きく揺れた。立っていられないほどの衝撃に、空間さえも歪んでいく中、サクラは優しい笑顔を浮かべるキリエを見た。

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