キリエ
そこは、聖域の最奥という仰々しい言葉とは似つかない場所だった。周囲の木々の様子に変わりはなく、道もまだ奥まで続いている。
ただ一点。道のど真ん中に鎮座している大きな切り株だけが、この場所が特別だと告げているようだった。
声の主は、その切り株に腰かけて四人をじっと見ている。線の細い、色白の青年だ。白いのは肌だけではない。腰まで伸びた髪、大きな瞳、全身を覆う絹のような布。そのすべてが、混じりっ気のない純白で構成されていた。
ミヨがその場に膝をつく。その洗練された所作に、三人は息を呑んだ。
「初めまして、『KYRIE』。私は『SANCT-004』、あなたの後継にあたります」
「ああ、変わった気配がすると思ったけど、一つは君だったんだね」
微笑むキリエの声は機械音声のように抑揚がなく、けれど同時に長く生きた人間のような温かみがあった。
「そうかしこまらなくていいよ。君は気付いているだろうけど、ここにいる僕はただの残滓……この会話も、白昼の夢のようなものだ」
「それでも、敬意を示さずにはいられません。どのような形であれ、あなたが我々『神造聖人』の一人目であることに変わりはないのですから」
「真面目な子だ。分かった、そのままでいいよ。気の済むようにやるといい」
キリエは首を垂れたミヨから視線を外し、サクラを見た。
そこに敵意はない、害意もない、殺意などあるはずもない。なのにサクラは、心臓を握り潰される錯覚を覚え身震いした。無理もない。力の差、あるいは生物としての格の違いは、善悪を超越して弱者を圧倒するのだ。
「……初めてだな、歓迎されてるのに足が竦むなんて」
心配そうに見つめるタオに、軽口を返してやる余裕もない。サクラの目は、意識は、キリエの瞳に吸い寄せられていた。
「僕は君と話がしたい、もっとこっちへ来るといい」
「……化け物め、人の気も知らないでさ」
自らを鼓舞するように吐き捨てる。サクラは震える体に鞭打って、一歩ずつ、ゆっくりとキリエとの距離を詰めた。




