サクラとタオ
少女が椅子に座るなり、部屋の主は口を開いた。
「まずは自己紹介だね。私はタオ、よろしく」
「私はサクラ」
「サクラ……可愛い名前だね。けど、珍しい名前。出身は?」
「秘密」
「それは残念、まだ警戒してる?」
「そういうわけじゃないけど……なに、随分楽しそうだね」
サクラが不思議そうに言うと、タオははにかんだ。
「つい、ね。歳の近い女の子と話したの久しぶりなんだから」
「……あんた、長いことここに」
「おっと、まだダメだよ」
タオが両掌を突き出す大仰な仕草でサクラを制した。
「まだいいでしょ、探り合いはさ。時間もあることだし」
「時間ね……ここ、安全なの?」
「衛兵たちに見つからないのか、って意味なら保証するよ。なにせ五年もバレてないからね」
サクラが目を丸くする。
「そりゃすごい。けど、いいの? 探り合いは後でとか言ってたのに、質問に答えてくれるなんてさ」
「ん、何のこと? まだ質問なんてされてないけど」
わざとらしく肩をすくめて見せるタオ。その行動は、鈍感だからでは説明がつかない。むしろ。
サクラは観念して大きくため息を吐いた。それから、呆れたように力なく笑う。
「変な奴。私とお友達にでもなりたいの?」
「なってくれるの?」
「いいよ。まだあんたのことはよく知らないけど……私、自分のことは信じてるからさ」
「……? どういう意味?」
首をかしげるタオに、サクラは言った。
「あんたは悪い奴じゃないって、私の勘が言ってるってこと」
「あは、そりゃいいや。改めてよろしくね、サクラ」
差し出された手を、サクラは躊躇なく握り返した。