番人はメイドさん
「サクラ、もう手離して大丈夫だよ」
「そう? 怖くない?」
「子供じゃないんだから……」
二人は軽口を叩き合いながらも、目敏く周囲を観察していた。
そこは洞窟だった。不自然なのは地面だけが舗装されたように整っていることと、照明もないのに明るいこと。そして、上から落ちてきたはずなのに天井には何の異常もないことだ。
上を見上げたまま、サクラが気の抜けた声で言う。
「帰れないね、これ」
「現時点では何とも言えないけど……落ち着いてるね?」
「タオが一緒なら大丈夫かなって」
「…………おだてたって、ご飯と傷薬くらいしか出せないよ」
そっぽを向いたタオに、サクラが笑う。
「十分じゃん。サンドイッチ結局食べ損ねちゃったし、また作ってね」
「それはまあ、お安い御用だけど……」
「うん、楽しみに……タオ!」
「えっ」
サクラの表情が突然険しくなり、右手でタオの体を抱き寄せる。それと同時に左手で刀を逆手に抜き、器用に反転させて切っ先を正面に向けた。
「な、ななな、なに……!?」
「誰?」
抱き寄せられたことに動揺しているタオをよそに、サクラは正面、十五メートル程離れた位置に立つ少女に冷たい視線を向けた。
少女は身長百三十センチ程度で線も細く、子供のような体格だ。腰にまで届く黒髪は闇のように暗く、青い瞳は陽光を反射する海のように輝いている。ロング丈のメイド服を着ているが、その全身から放たれる機械的で無機質な雰囲気は、奉仕の精神を感じさせるものではなかった。
少女はその場で、無表情のまま恭しく一礼した。
「敵意をお収めください、客人。あなた方が私の敵でない限り、私はあなた方の敵ではありません」
「……」
サクラは切っ先を向けたまま、さらに少女を観察する。けれど、その人形のような仏頂面から感情を読み取るのは困難だった。せいぜい、口元に付いた食べカスが見えるくらいのもので……。
「…………ここにさ、サンドイッチ落ちてこなかった?」
「大変美味にございました」
「やっぱり! この子が私のために愛を込めて作ってくれたものなんですけど!?」
「い、いや、愛とかは別に……」
「ほう、あなたが作ったものでしたか。味は満点でしたが、量が少々物足りなかったのが難点です。お替わりをいただきたいのですか……」
「あるか! あったら私が食べてるわ!」
洞窟内部に、三人の少女の声が重なり合って反響する。サクラはいつの間にか、敵意を失って刀を収めていた。




