少女剣士の追想-1
戦いの最中、サクラの脳裏に蘇るのは師である白髪の若い女剣士の姿。彼女は両手を腰に当て、ふんぞり返って言った。
「名付けて、一意専刃! どうかな!?」
「……どう、とは?」
「カッコいいでしょ!」
「うーん、どうだろ。そもそも、一意専心って元からある言葉だよね?」
「一意専心じゃなくて、一意専刃!」
「もじるにしても、一文字変えただけじゃなあ……」
「もう、文句ばっかり! 私は師匠で、サクラちゃんは弟子なんだよ! 敬いなよ!」
子供っぽく地団太を踏む師に、サクラは肩をすくめた。
「だって師匠、ネーミングセンスないもん。ほかの弟子たちもそう言ってるでしょ?」
「言ってるけどぉ……センスがないのはみんなのほうでぇ……」
「諦めなよ、五対一なんだからさ」
「ふーんだ」
わざとらしくそっぽを向く師。サクラは困ったように笑う。
「そもそもさ、私の何を指した名前なの? 新しい技とか、開発した覚えないんだけど」
「……やっぱり、自覚なしか」
師は一転、真剣な表情になった。
「私が名付けたのはね、サクラ。あなたの本能だよ」
「本能?」
「そ。あなたは戦闘中にいろんな要因で……そうだな、例えば敵が多すぎるとか、重いケガを負ったとかで、このままじゃやられるってなったときに強くなるんだよ」
「へえ、そうなの? 自覚なかった……でもそれって、みんなそうじゃないの? 火事場の馬鹿力とか言うじゃん」
「あなたのはレベルが違うんだよね。筋力、動体視力、視野の広さ、反応速度、思考速度、精神干渉耐性……果ては、傷の痛みまで無視できちゃう。それに……」
「それに?」
サクラの催促に、けれど師は首を横に振った。
「ううん、今はいいや。誤解があるとまずいことだから、ちゃんと調べてから話すよ」
「ふーん?」
「ともかく、この本能は度を超えて強力で……そして、危険でもある。特に痛みを無視しちゃうところがね。重傷なのに激しく動き続ければ当然傷に障る。この状態が長く続けば、最悪、気付かないうちに死んじゃうこともあり得るわけ」
「なるほどねえ……目の前の相手に集中しすぎるから一意専心、改め一意専刃ってわけか」
「そゆこと。ま、あなたがそれをアテにする必要もないくらい強くなれば、リスクなんてないようなもんだからね」
「頑張って鍛えろってか……とんだ藪蛇じゃん、ネーミングセンスに文句言っただけなのにお説教だったなんて」
げんなりした顔で肩を落とすサクラに、師は屈託のない笑みを浮かべた。
「若人は修行あるのみだよ。で、由来も分かったところで一意専刃正式採用ってことで……」
「却下。使っても半分かな」
「そんなあ」