サクラ VS テサロ-5
テサロの猛攻を、サクラは最小限の動きで回避していく。だがそれは、攻撃を見切っているが故の余裕では決してない。危険を冒してでも、身体の負担を減らすしかないほど余裕がないのだ。
「っ、ぐっ……!」
僅かな体重移動で、たった一度の呼吸で、傷が痛み出血が激しくなる。それでも、足を止めるわけにはいかない。目を逸らすわけにはいかない。どれだけ傷を負っても足を動かせるなら、刀を振れるなら、可能性はあるのだ。
「その傷でよく動く……ですが時間の問題でしょう、楽になってしまっては?」
攻撃の手を緩めることなく、テサロが挑発する。けれどサクラにはもう、軽口を返す余裕もない。
仮にも一度首を刎ねられた相手だ、テサロに油断はない。ただ客観的な観測結果として、勝利は近いと判断していた。
「……?」
だが、その判断が疑念に変わるのに、そう時間はかからなかった。どれだけ攻撃を繰り返しても、致命傷を与えるどころか、掠りもしないのだ。
当然、サクラの傷が塞がったわけではない。攻撃を完全に見切られたわけでもない。ではテサロの攻撃が緩んだか? 否、油断も疲労もないのだからありえない。ならば、何故……?
訳も分からぬまま、それでもテサロは攻撃を続ける。その中で、気付いた。サクラの動きが――正確には反応速度が――どんどん速くなっている。攻撃を避けるというより、攻撃が来ない位置を読んで移動するような立ち回り。忙しなく動く両の瞳は、まるでテサロの筋肉や神経の働きまでも見通しているかのようだった。
「……!」
テサロは目を剝いた。サクラの左目、その光彩が変色しているのに気付いたからだ。
「黄金の瞳……まさか、そんなはずは」
呟いて、剣を握る手に一層の力を籠める。真偽は分からない、サクラがそうだという保証もない。だがなんにせよ、今ここで殺さねばならないことは確定的だった。