サクラ VS テサロ-4
テサロの首が宙を舞う。勝負あり、という確信はすぐに違和感に変わった。何かが、おかしい。
「……!」
体勢を崩され、首を刎ねられてなお倒れないテサロの胴体に視線をやって、サクラは違和感の正体に気付いた。
出血が少なすぎる。通常、首の血管を斬られれば勢いよく血が噴き出るものだ。しかしテサロの胴体、その断面からはねばついた血がゆっくりと流れるばかり。明らかに異常だ。
「まさか……!」
サクラは反射的に、床に転がる首を見た。それがいけなかった。結果的に、胴体に背を向ける形になったからだ。
「っ、あっ……!?」
背後から腹を貫かれ、サクラは血反吐の混じったうめき声を上げる。それでも、痛みに堪えながら後ろ蹴りを放ち、テサロの胴体を後退させた。
「やっぱり、生きてるね……首がないってのに、タフなことで」
「そう褒められてはもどかしい。これは生来の異能、努力で身に着けた技ではありませんから、誇るようなものではありません」
声は後方、床に落ちた首から発せられていた。けれども、同じ轍は踏まない。サクラは剣を構える胴体に視線を固定したままで答える。
「気持ち悪い奴……わざわざ兜を脱いだのも、首を狙わせて隙を突くためってことか」
「いかにも。まさか卑怯とは言いますまい」
喋りながら床を猛烈な勢いで転がり、胴体の足元で停止した生首に、サクラは軽蔑するような視線を向けた。
「……卑怯とは言わないけど、キモイよ、かなり」
「ふふ、否定はしません」
テサロは首を軽く蹴り上げ、器用に胴体の断面に乗せた。すると、見る見るうちに出血が止まり、接合した。切れ目も見えない。
軽く首を回しながら、テサロは満足そうに笑う。
「やはり、視界はこうでなくてはいけません。あなたの腕がいいのですぐにくっつきましたよ。生半な腕では、断面が汚くなって接合までに時間がかかりますから」
「はっ、そりゃどうも」
完全に治癒したテサロとは対照的に、サクラの傷は深い。足元の血だまりはどんどん大きくなり、その顔もだんだんと色を失っていっている。声にも覇気がない。
テサロが、再び下段の構えを取った。
「さあ、最終局面です。急がなければ、血が足りずに死んでしまいますよ?」