サクラ VS テサロ-3
剣術の基本にして王道である中段の構えが切っ先を相手に向けるのに対し、上段の構えは刀を振り上げた状態を構えとする。防御を捨て、攻撃にのみ心血を注ぐ前のめりの型だ。
「……」
テサロは僅かな動きすら見逃さぬようサクラを注視する。上段の構えはそれ以外と違い、刀を振り下ろすという一工程で攻撃行動が完結する。一瞬の油断、一手の読み違いが死に繋がる。
対策は、大きく分けて二つ。攻撃後の隙を狙うか、がら空きの胴を狙って先制攻撃を仕掛けるか。
「……」
戦場においては何事も、迅速な判断が求められる。テサロとて歴戦の猛者。それを理解してはいるが、それでもなお決めかねていた。
問題は、距離だ。十メートルは一息で詰められる距離ではない。先制攻撃のために無理に近づこうとすればかえって隙を晒すことになる。
(ならばやはり、彼女の攻撃を待つのが賢明……しかし、条件は彼女も同じだ。なぜこれだけ距離を取った……? 上段の構えが生かせる距離ではないことは明白だというのに)
テサロは冷静に思案する。相手の出方を窺うと決めたことと、即座に詰めることができない距離の開きが彼の頭を回転させたのだ。
それが、いけなかった。
大きな隙を見せたわけではない。油断があったわけでもない。ただほんの少しだけ余分に、脳のリソースを思考に割いた。そのせいでテサロは。
「なっ……!?」
突然目の前に現れたサクラへの対応が遅れてしまった。それでもなお、振り下ろされた白刃をいなすことはできたが、そこまでだった。一瞬の遅れにより無理な回避を余儀なくされ、彼の体勢は大きく崩された。
その状態で、返す刀の二撃目に対応する余力はない。抵抗の余地もなく、鋭い一閃が彼の首を刎ねた。