サクラ VS テサロ-1
「さて……」
脱いだ兜を放り投げて、テサロはその切れ長の目で周囲を見回す。肌は浅黒く、無造作に切られた頭髪は燃え盛る炎のように赤い。
腰に佩いた両刃の剣を抜き放ち、腰を落として下段に構える。敵の攻撃の選択肢を狭め迎撃を狙う、彼の得意の構えだ。
「姿は見えず、気配も殺気も音もない……体技とは考え辛いですね。なにか、卑怯な手を使っていると見ましたが? 誇りなき戦い方だ、剣士の風上にも置けませんね」
嘲笑うような口調で虚空に語り掛けるが、反応はない。すでに去ったか? 否、敵の狙いを考えればそれはあり得ない。今もすぐ近くで、虎視眈々と攻撃の機会を窺っているはずだ。
「……」
張り詰めた沈黙の中、テサロの微かな呼吸音だけが断続的に空気を揺らす。それが何度か繰り返された後、息を吐くのに合わせて状況が動いた。
「ふっ――!」
テサロが身を翻し剣を水平に掲げた瞬間、衝撃とともに鋭い金属音が響いた。テサロの顔に獰猛な笑みが浮かぶ。
「ようやく尻尾を出しましたね……!」
両腕に力を籠め、不可視の襲撃者を押し返す。すると、刀を持った少女の姿が瞬く間に鮮明になった。右手の小指に、薄緑色の指輪が輝いている。
サクラは空中で一回転し、音もなく軽やかに着地した。その小さな顔に、大粒の汗をかいている。
「冗談じゃないよまったく。見えないのに止めるかね、普通」
「タイミングが素直過ぎましたね。背中を狙うというのも芸がない」
「げえ、酷評。教官かよあんたは」
刀の切っ先を向けながら毒づくサクラに、テサロは下段に構え直しながら自嘲した。
「残念ながら、私には教える才能はありません。自分一人で鍛え、一人で戦う方が性に合っています」
「だろうね。部下が斬られても平然としてるし……っていうかさ、あれもその気になったら反応できたでしょ。見殺しにしたね?」
「当然でしょう。出世のことしか頭にない、才も経験も乏しい木偶が戦場に紛れていては、対話の邪魔になる」
「対話? お茶でもしようっての?」
「御冗談を。人を殺める鉄の塊、それを携えた者が二人いるのですから……」
テサロが言葉を切った、次の瞬間。彼はサクラの懐に潜り込んでいた。
「対話とは、殺意のぶつけ合いですよ」
火山の噴火のような致死の斬撃が下段の構えから繰り出され、猛然とサクラを襲った。