新兵の災難
「珍しいですね隊長、そちらから連絡とは……隊長、落ち着いてください。一体どうしたというのです」
衛兵が不安そうに見守る中、テサロは穏やかな口調で相手を宥めるよう努めている。
「ええ、ええ……なるほど。いえ、その必要はないでしょう、そこが一番安全です。残った人員で守りを固めてください。私が対処しますので、いいですね。はい、では」
テサロが兜を三度叩いて通話を切るのを確認してから、衛兵が声をかけた。
「な、何かあったのですか?」
「ええ、襲撃です」
軽い調子で言い放たれた言葉に、衛兵がその身を強張らせる。
「すでに十三名が犠牲に……いえ、失礼。通信機の反応ロストによる生死不明なので、犠牲という表現は適切ではありませんね。敵の人数や武器なども不明。まあこちらに関しては、コストを理由に監視カメラの導入を渋った本部の怠慢のせいですが」
「ど、どうするのですか。一度詰所に……」
「ええ、戻るのが妥当でしょうね。反応ロストが上階から順に起こっているようですから、敵の狙いは衛兵の制圧。それに備えるためには、残った戦力を一か所に集めて迎え撃つのが合理的です。ですが……」
「ですが?」
「隊長の錯乱ぶりを見るに、私の進言を無視して自身を含むすべての兵力を侵入者に向けて放つでしょう。彼は見どころのある男ではありますが若く、経験も浅い。それに出世意欲も強いですから、本部に通報はしないでしょうね」
「それは、つまり……」
「現場の我々で何とかするしかないということです。本部への緊急通報は詰所からしか行えませんが、そこまで戻る余裕はないでしょうからね」
衛兵の声に絶望感が滲む。その全身がにわかに震え始め、甲冑がけたたましい音を鳴らす。
「わ、私はどうすれば」
「ここは一階の廊下、詰所とは反対に位置します。敵は最終的にここに来るでしょうから、周囲を警戒しつつ……」
テサロが言い終わるより早く、衛兵はその場に受け身もなしに仰向けで倒れ込んだ。その甲冑の背は右肩から左腰にかけて斬られており、夥しい量の血が流れ出ていた。
「……来ましたか」
呟いて、テサロは両手を兜にかけた。