表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/106

新兵の憂鬱

 巡回任務に当たる二人の衛兵が、並んで廊下を歩いている。小柄な男が、長身の男に声をかけた。



「あの、テサロ副隊長」


「おや、浮かない顔をしていますね。どうかしましたか?」


「分かるのですか、兜をかぶっているのに」


「副隊長ですから、そのくらいは容易いですよ。何か気になることでも?」


「……このようなことを、副隊長にお聞きするのは気が引けるのですが」


「何でも仰ってください。今なら聞き耳を立てる輩もいませんし、私も決して口外はしません」


「……」



 衛兵は躊躇ったが、やがて口を開いた。



「ここでの任務は、事実上の左遷だと耳にしました。噂話に過ぎないと無視するべきなのでしょうが……その」


「あまりにも平和で暇だから無視もできない、といったところでしょうか」


「……ここにいたとて、何か経験や成果が得られるとは思えない。私は本当に左遷されてしまったのでしょうか。せっかく、厳しい試験をパスして騎士団に入れたというのに……!」



 衛兵の言葉を遮るように、テサロが顔の前で人差し指を立てた。



「落ち着いて。少し、声を落としましょうか」


「あ……も、申し訳ありません」


「いいのです、気持ちは分かりますよ。まあ、心配はいりません。なにせ、私がここにいるのですから」


「そ、そうですよね。私のような新米はともかく、テサロ副隊長ほどの人が左遷などありえません」


「それが分かっていながら気持ちが不安定だったのは……あんなことが起こったから、ですね? 襲われた衛兵は、あなたの友人だと伺いました」


「……ええ、まさかここでこんなことが起こるとは思っていなくて。それで、副隊長。そのことでもう一つ、伺いたいことがあるのです」


「お聞きしましょう」


「あんなことがあったのに、我々の任務はいつも通りの巡回ばかりで大丈夫なのでしょうか。侵入者の捜索は……」


「不要でしょう。隊長が判断したから、というのもありますが……ただの盗人に、そこまでする必要はありませんよ」


「……ただの盗人、ですか」


「おや、不服ですか?」



 テサロのからかう様な声色に、衛兵は思わず足を止めて首を大きく横に振った。



「め、滅相もない! ただ、その……なぜ盗人と判断されてのかが気になって。のちに襲撃する目的で送られた、斥候の可能性もあるのではないかと」


「ふむ、悪くない目の付け所ですね。ですが考えすぎでしょう。詰所を含めて、各階の小部屋に侵入しようとした形跡がない以上、禁書狙いのコソ泥と考えるのが自然……おや」



 テサロが兜の耳元を二度、指で軽く叩いた。通信端末で通話を開始する操作だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ