色褪せた港
空は快晴、風は暖かく穏やかで、波も静か。絶好の航海日和だ。
けれども、港には活気がなかった。人はまばらで、停泊する漁船にも客船にも出航の気配はなく、船の整備に従事する船乗りたちの顔にも覇気がない。
「何度見ても気が滅入るね、この光景には」
ダダナンがため息を吐く。隣を歩くサクラが、その顔を覗き込んで言った。
「ずっとこんな感じなの?」
「そうとも、本来はこの大陸でもっとも活気ある場所なんだけどね。ああもあからさまに航行を制限されちゃ、港は機能しないよ」
「なるほどね、そりゃ腹も立つわ」
「しかし、妙だね。君は最近この辺りに来たと聞いていたけど、今回の件を何も知らないとは。何か事情があるのかな」
ダダナンは悪戯っぽい笑みを浮かべる。世間話の範疇を超え、探りを入れているのは疑いようもなかった。
サクラはゆっくり見せつけるように、立てた人差し指を自身の口元に当てる。
「内緒。あんまり美少女の素性を詮索するものじゃないよ」
「ふふ、確かに野暮だったね。気を付けるよ」
一見打ち解けたようで明確に一線を引いている二人の少し後ろに、ほかの三人が続く。その最中、ふとミヨが足を止める。
「ミヨ、どうかした?」
いち早く気付いたタオが足を止めて振り返るが、ミヨは海を見つめるばかりで返事もしない。セルードに先に行くよう伝えてから、タオはミヨに駆け寄る。
「大丈夫?」
「……ええ、すみません」
ミヨはタオの方を見もしない。憂いを帯びた表情は寂しそうにも、過去を懐かしんでいるようにも見える。
「こういうのを、何と言うのでしたか……そう、感傷に浸っていた、というやつです」
「なんか、ミヨって人間っぽいよね……あ、こういうの嫌?」
失言を恥じるように口元を隠したタオに、ミヨは優しく笑いかける。
「まさか、嬉しいくらいですよ。仲間と、友と同じ種族として扱われるなんて」
優しく笑って、ミヨはタオの手を取った。
「心配かけてすみません。行きましょうか」