勘と必然
「私の仮説を話す前に確認したいことがあるんだけど、いいかな」
「なんでもどうぞ、軍師殿」
「それじゃ……軍師?」
首をかしげるタオに、サクラが笑う。
「タオってなんか軍師っぽいじゃん。頭よさそうだし、眼鏡も似合うし」
「よく分かんないけど……まあ、悪い気はしない」
タオは中指で眼鏡の位置を直しつつ、続ける。
「んじゃ改めて、軍師から質問。禁書を管理してる施設はここ以外にもあるはずだけど、ほかの所にはもう行った? 特に王都近くのデルノロ禁書牢なんかは、ここより蔵書が多かったはずだけど」
「ううん、まだ。ここがダメだったら、順番に行ってみようと思ってたとこ」
「どうして、ここを最初にしたの? アクセスは悪い、ほかに行くところもない、『南の監獄』なんて言われるこの孤島にわざわざ来てまでさ」
「それは……それは、えっと」
サクラが口ごもる。その反応はタオの予想、あるいは期待通りだった。
「勘?」
「うーん……ごめん、そうとしか言えないかも」
「謝らないで。むしろこれで、私の仮説にも少しだけ信憑性が出てきたってもんだよ」
「……? どういうこと?」
「その勘が重要なんだってこと。オカルト的な言い方になっちゃうけど、あなたがここを選んだこと、それ自体に何か意味があるんじゃないかと思うんだ。これ見て」
タオはモニターの一つをサクラの方に向けた。そこには紐で綴じられた古い冊子が映し出されている。
「えっと、メラロニーア古書館録……? ひょっとして、この図書館の名前?」
「そう、私もこの文書でしか見たことないし、知ってる人も少ないだろうね。で、これによると、この図書館が建てられたのは」
「斎暦千三百年、今から七百年位前か……あれ?」
「気付いたね。そう、初めて本が収蔵されたのは五百年前だから、時期が合わないんだよね。ここが初めから図書館として建設されたとしたら、の話だけど」
「つまり、図書館は後付け……当初の目的は別にあった?」
「そう考えるのが妥当なんだけど、今まではその理由に見当がつかなかった。でも今は、私はそれを神様関係だと睨んでるわけ」
「……私が来たから?」
「そういうこと」
タオが悪戯っぽく笑う。それは友に根拠のない信頼を向けることへの照れ隠しでもあった。