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殺戮の巨人  作者: MAO
第一章 白塔
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第2話 天を衝く巨塔

「"白塔"に入る……じゃと!? バカモン!! ならん、ならんぞザクベル!!」


 集落に戻り長老に報告すると、開口一番怒鳴られた。


(チッ、これだから老害は……)


 露骨に態度に出るザクベル。血気盛んな若者の無謀な冒険心をなんとかして鎮めようと、長老は諭すような口調に変わる。


「よいかザクベル。先人の言い伝えというモノをおろそかにしてはならん。非科学的と思うかもしれんが、言い伝えられることには必ず伝えられるだけの()()があるのじゃ」


「例えば?」


「ぬっ……」


「あるなら言ってみてくださいよ。タラカンは死んだ。あの怪物どもに無残に八つ裂きにされて――! それでもこんな地獄みたいな世界に残らなきゃならない理由があるならさぁ!」


「ザクベル。それはお主たちが禁を破ったからじゃろう。"宝山"は我々には分不相応なもの。過ぎた宝の周りには怪物たちの出現も多くなるから我々の集落ではアレに近づくことは禁じておったはずじゃ」


「そうやってなんでもかんでも禁、禁、禁。それでいいのかよこの集落は!」


 あくまで食い下がる少年。だが、彼には()()()()()()()()()があった。


「あんたがそんなだから、この集落は人口流出が止まらないんだ!」


「ザクベル……!」


 長老の制止を振り切り、少年は駆け出した。


 噂では聞いたことがある。他の地区では、巨大地下タワマンにものすごい数のメケ人が住んでおり、そこでの生活はキラキラに満ちていると。男も女も酒池肉林。若さと性と活力に溢れた理想郷だと。


(チクショウ、それに比べて俺たちはいったいなんなんだ……カッソ過疎の限界集落に老害ばかりの終わった世界……嫌だ……こんなところで一生を終えるなんて絶対に嫌だ)



 *****



「――つーわけだ。俺は集落を出る。ローラ……お前はどうする?」


「ま……待ってよベル。そんな突然……」


 ザクベルがパネローラに声をかけたのには、理由があった。


 あるいは怪物に食い殺され、あるいは子を置いてどこかへと消え去ったか――ともに両親をなくした者同士。


 彼女ならきっと自分の気持ちをわかってくれる。そう思った。


「タラも死んだ」


「タ……タラちゃんが!?」


「いいのかローラ。俺たちもここにいたら、いずれは……」


「……わかったわ」


 少しの沈黙のあと、やがて意を決し、パネローラは首を縦に振った。



 *****



 巨人も怪物も寝静まった深夜――


 二人は行動を開始した。


「それで……どうするの? ベル」


「へっ。上を見てみろ」


「……すごく……大きいわ」


 目の前には天を衝く巨塔”白塔”の威容。


 宝の山の比ではない。まるで本当に天まで続いているかのような巨大さだ。


「まさか、登るの? この塔を」


「そのまさかさ。知りたくないか? この塔がどこまで続いているのかを……巨人が出入りするこの塔の中に、いったい何が隠されているのかを……」


 ゴクリ、とパネローラの喉が鳴った。


「そういえば、ときどき巨人がこの塔の中から"宝山"を手にもって出てくるのを目にするわ」


「だろ。あの扉の向こうには、巨人ですら食べきれない無限の宝の山が眠っていて……やつらはそれを掘り起こしては、余ったものを俺たちに分けてくれているんじゃないだろうか」


「まぁ、なんて優しいのかしら……」


「塔にもいろいろあるが、中でもこの"白塔"を出入りする巨人はいいヤツっぽいことを確認済みだ。なんとかして中に入れば、うまくいけば仲良くなれたりとかするかもな」


「ステキ……巨人の肩に乗ったり、頬にキスをしてみたり……そんな関係になれたら理想ね」


「だろだろ!? もう行くしかねーべ!」


「そうね! 行きましょう!」


 だんだんパネローラも乗り気になってきた。


「よし、それじゃレッツゴー!」


 壁に手をかけ、登り始める。


 一歩、一歩、確実に。


 ――夜風が心地いい。


 1時間――2時間。


 登り、登り続ける。


「はぁ、はぁ、待って、待ってよベル……私、疲れたわ……」


「おせーよローラ! そんなペースじゃ登りきる前に脱水症状で死んじまうぞ!」


 彼らの生命力は強い。食事も水分も無補給で相当な時間活動することができるが、最低限水だけは1週間に1度程度は口にする必要がある。


 どこまでも続く無機質な白い凸凹。少年が焦りを感じ始めたころ――"それ"は目の前に現れた。


「おいローラ! ここだ、この黒いところ! 早く上がってこい!」


 突如現れた黒い平地。目の前には巨大なフェンスがそびえたっており、その向こうは塔の内部につながっているようだ。夜風が塔の中を通り抜けてこちらに吹き抜けてくる。


「なにかしら、これ……とてもいい香り……」


 追いついてきたパネローラが鼻を鳴らす。


「ほら見ろ、ローラ……やっぱり塔の中は無限の財宝で溢れているんだ!」


「でもベル、どうするの? このフェンス。どこにも入る隙間が……」


 周囲をくまなく歩きまわってみる。


 フェンスと壁の間は若干の隙間があり風の出入りを感じるが、ゴワゴワとした毛で覆われておりここからは入れそうにない。


 逆側に進んでみる。


 反対側は、黒く冷たい壁がそびえたっており、この壁とフェンスの間にもほんの少し隙間があるがなんとか手を差し込める程度だ。とても通れそうにない。


「ちくしょう……なんか隙間はあるのに、どうしても通れそうな場所がねェ……」


「ちょっと、こっち見て、ベル!」


 しゃがんで下を見ているパネローラに呼ばれて行ってみる。


「どうした、入れそうな隙間あったか?」


「ほら、見てこれ……」


「……」


 黒い足場から崖の下をのぞき込むと、なるほどちょうど人が通れそうな穴が開いている。


「でかしたローラ!」


「私の方が体小さくて通りやすいだろうから、先に行ってみるね」


「気をつけろ」


 穴の中に進むパネローラ。しばらく見守っていると……


「はぁ……」


 と、ため息をつきながら浮かない顔の少女の顔が出てきた。


「ダメか?」


「うん、出口がすごく小さくて……赤ちゃんなら通れそうかもだけど……」


「そうか……お前でも無理ならしょーがねーな」


 入れそうなのに入れない。名残惜しいが、執着しても仕方ない。少し休憩ののち、フェンスエリアはスルーしてさらに先を目指すことにした。



 *****



 フェンスエリアがようやく眼下に映るようになったころ――


 再びパネローラが声を上げた。


「ベル! ちょっと右、右見て!」


「今度はなんだ?」


 上を見続けるザクベルに対し、パネローラの視野は比較的広い。グイグイとひっぱる少年とその後ろをカバーする少女の良いコンビネーションといったところか。


 はるか右方には、壁から突き出た何かがあり、そこからわずかに風の流れを感じられた。


「……あそこも中につながっているのか? 行くぞ、ローラ!」


 進路を右にとり、壁を移動する。


 やがてその突き出たものの下にたどり着くと、思った通り、塔の中からゴオオオオと風が吹き出ていた。


「……なにかしら、あの音……」


 途切れることなく聞こえてくる、ブウウウウンという轟音。


「見て確かめるしかねェさ」


 その音の元に行ってみると……


「!! な……なんじゃあこりゃあ!?」


 巨大なプロペラが目にもとまらぬスピードで回転していた。


「ち、ちょっとベル……まさかこの間を潜り抜ける……なんて言わないわよね?」


「潜り抜けるさ」


「う、ウソ……!? ウソでしょベル!?」


 少女の制止を聞かず歩みを進めるザクベル。狙うは一点。


(このプロペラ……確かにこの中に飛び込むのは自殺行為だろうさ。だが……)


 プロペラと壁の間にわずかに隙間がある。かなり厳しいが、ぴったりと壁に張り付き、身を伏せていけば……


 ビュンビュンと巨大な刃が行き交い、チリッチリッと背中をかすめていく。


(……よし!)


 なんとか潜り抜けることに成功した。


 ――が。


(……あぁっ!? なんじゃあこりゃあ!?)


 出口に手をかけると、何か柔らかいもので覆われており、空気は通り抜けてくるものの体を通すことはできない。


(クッソ、ここまできて……! こいつ!)


 ガジガジと噛みついてみる。が、ダメ……! 以外に分厚く、嚙み切れそうにない。


(ミマルキーの歯ならこんなのも食い破っちまうんだろうが、クソッ。よくできたトラップだな、ミマルキーのデカさではこのプロペラの間を潜り抜けられない。俺の歯ではこのフワフワを噛み切れない)


 結局、元来た道を戻ることになった。


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