幕間
それはエルディバイドの定期メンテナンスの為、リーヴィッツが専用の補給基地に立ち寄っていた時の事。
束の間の休息時間を持て余し、乗組員の憩いの場であるサロンに顔を出してみると、同様にメンテナンスで待機中の他のエルディバイドパイロットと遭遇した。
互いに軽く挨拶を交わし、自然と集まりが出来る。
その場にいたのは、三番機を担当するジョアン・レイズネルと九番機担当のイズモ・カミシロだった。落ち着いた紳士風のジョアンと、幼さが抜けきらないイズモの対比は年齢差はそこまでなくとも親子のようにも映る。
近況報告を交えた後、話題が途切れた所でイズモが口を開く。
「しっかし、エルディバイドってほんと味気ないッスよねー」
唐突な発言に、リーヴィッツとジョアンは顔を見合わせた。その様子を見てイズモは慌てたように取り繕う。
「あ、いや。名前の話ッス! 自分の九番機とか四番機とか……ただの数字で面白みがないじゃないスか」
それを聞いて二人とも納得したように苦笑する。
「確かに、分からなくもない」
「ですがイズモ君はそうなった事情を知っていますか?」
ジョアンから問い返され、イズモは首を傾げる。
「え? いや、知らないッス」
イズモが姿勢を正す。話に聞き入る態勢のようだ。
「では話しましょう。エルディバイドの呼び方は当初色々議論されたのです。
その中で最有力だったのが機体特性で振り分ける事だったのですが……これは却下されました」
「なんでッス? 一番わかりやすいと思うんスけど」
「エルディバイド各機の特性は、パイロットに合わせて用意されます。
守る事を得意とする僕が完全防御型、持久戦に秀でたリーヴィッツ君が超長期戦型のように。
すると問題が出てきます。長所が被ってしまった場合です」
「……あー」
納得がいったのかいっていないのか、イズモは曖昧な相槌を打つ。
「次に出た案がAI名で振り分けるというものでしたが……これは即座に取り下げられました」
「え? 割といい案だと思うんスけど」
「パイロット本人ならともかく。そのサポートAIの名を冠するのは分かり難いという意見が大半。
統一地球軍の理念に反するという意見も多くあったのですが……一番の理由は一番機です」
「んん?」
「イズモ……一番機のAI名、知ってるか?」
首を傾げるイズモに、リーヴィッツとジョアンはお互いに目線を交わす。どちらがそれを口にするか、という無言の対話が繰り広げられ、リーヴィッツは諦めのため息を吐いた。
「……プリンちゃん、だ」
「敬称まで含めて正式名称だそうです」
「……おおぅ」
仰け反るイズモの姿に、リーヴィッツとジョアンは再び苦笑で返す。
エルディバイドのサポートAIの命名は、パイロットの特権故に誰も反対は出来ない。
「まぁ、この名前じゃ士気に関わるって事で却下になったわけだ」
「マリーさんは性格は軍人らしくありませんが、実力は誰もが認めるナンバーワンですからね」
強く言えない理由もある、とジョアンは暗に言っている。それだけ、エルディバイド一番機のパイロットであるマリー・アラートの存在は特別だった。
「あー……だから無難な番号になったんスねぇ」
「ちなみに、知っているかもしれないが一応これもそれなりに拘られているんだぞ」
リーヴィッツの言葉に、イズモは首を傾げた。
「え、どういう事ッス?」
「僕たちの会話は翻訳機で常に地球公用語に訳されているでしょう」
地球圏の国家が一つなり、統一地球政府となった現在。共通の言語は制定されているが、元々の言語も文化として保護されている。それらを喋ってもコミュニケーションに問題が起こらないように、極めて高性能な翻訳機が個人に配備されていた。
「エルディバイドの番号は、様々な言語で振り分けられているんですよ。
会話の中では翻訳機が自動で訳すので普段は気付きませんがね」
「一番機が旧時代で言う英語、二番機が日本語、三番機がドイツ語……だったか」
「えええ!? お、俺の九番機は!?」
目をキラキラさせたイズモに、リーヴィッツは両手を上げて首を振る。
「すまない。そこまで覚えているわけではないんだ」
「僕も詳しくは……ですが、調べればすぐに分かりますよ」
二人の返事を聞き、イズモは立ち上がった。
「ちょっと調べてくるッス! お先に失礼しまッス!」
元気よく走り去るその姿を二人は微笑ましく見守るのだった――
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こちらは本日更新分9/9になります。
一話はこれで完結です。
二話以降は毎日少しずつの更新となる予定です。