第21策: 時間稼ぎ
ガタガタと何十台もの荷駄車の車輪が石敷きの本道をモンメラクから出て、北東へとド・モンフォール領へと向かって行く。荷駄車の空きスペースには幼子や老人、妊婦等が座り込み、山の様に職業の道具、衣服、食料が荷駄車に詰め込まれていた。
最期、600人ほどのモンメラク住人の避難組が町を出る準備が整いつつあり、町の中にはほとんど人が残されいない状態についに持って行けた。後1時間半もすれば出発できそうだな。
「なるべくにテキパキとお願いします!妊婦、体の不自由な方、ご老人や幼い子供のいる方に荷駄車に乗れる場所をできる限りお譲りください、ご協力お願いします!」
こういう時はベルトランの瞬時的に人の信用を得られる愛嬌やバカでかくても子供すらもなぜか安心させる声は頼もしいな。守ってやれないから家を捨てて逃げろだなんて、大きな反発を起こしかねない要求だが。
「これだけ協力的に事が進んだのは一日かけて事前に虐殺の噂をじっくりと流しておいて正解でしたね。」
エリック大尉がニコニコとしながら馬上でモンメラク長の外で人を誘導していた俺達に近づいてきた。
「報告です、ヒューゴ殿。王子殿下とド・モンフォール殿はすぐにでお旅立ちたいと申し出た最も強力的な住民と旅立ったので、。すでに15リユ(45km)も最前は進んでいます。明日にはド・モンフォール領の砦群の後ろまで到達できたら一安心ですね。ルギエラさんはもう出陣したんですか?」
「ルギエラさんは昨日50騎連れて補給線攻撃の任務の為に出ました。」
「心配はいらねえよ、姐さんはこう言う小競り合いみたいな小規模な戦いの連続には慣れてる。もう要領を得たから危険を冒さずに成果を挙げてくれるさ。」
「あれ、ジオさん、ルギエラさんと一緒に行った物だと思っていました。」
「姐さんが万が一つって、俺は残れと命令されたんっすよ。」
ジオが渋い顔をしている。
俺は
「まあ、多分心配無いはずです。毎回の様に周辺の村を探し回り、ゆっくりと進んできた公国軍は明日の昼すぎまでここには着かない計算です。その頃には1日分の距離を最後尾から開けられるので、食料が乏しく、この町の備蓄を奪う事で補充を恐らく期待している公国軍は期待が外れて、深追いできなくなるはずです。」
ベルトランが横から、
「えーと、もしそのまま追撃を開始した場合はどうするんだっけ?」
「お前なあ、何度も説明しただろう? 数リユ(5-6km)ごとに取り囲みにくく、守りやすい地点で簡易的な防衛陣地を職人さんたちが作りながら進んでくれている。王子殿下やド・モンフォール男爵の配下が監督してる。馬防柵、食べ物や水、矢の補充等が用意されているから、一息ついてしばらく守り、敵を再編させて時間を稼ぐ。危なくなったら次の陣地へ撤退。だ。」
ベルトランに説明するに連れ、何かを見落としているかの様な感覚で首の後ろばピリピリする。何だ? 何か見落としたか?
「わかった、ともかく暴れまわって時間を稼ぐわけだな?」
「・・・まあ、詳しい指示はその時になれば出すけどさあ。この最後の避難民が防衛陣を過ぎたらそこに俺達も入って明日の襲撃に備えるぞ。」
「分かった!」
返事だけは良いんだけどな。
その時、
「ヒューゴ殿~~~~~!」
血相を変えたウジェーヌ大尉が血相を変えて紙を持って市内から走って来た。
「はあ、はあ、はあ。」
「大丈夫ですか、ウジェーヌ大尉。」
「それどこ、ゲホ! はあ、はあ、それどころではありません! 今、大変な報告が鳩より入りました。」
嫌な予感が・・・
「本日未明より太子軍が急遽夜間に強行軍を開始、もうモンメラク町から1時間も無い距離まで接近しています。周囲に村人の避難の援助の為に散開した兵を今すぐに集結して第1防衛陣まですぐに撤収するべきです!」
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公国軍の急接近の噂は火の様に広がり、避難するべく急ぐ人の流れは慌ただしくなり、パニック寸前の中を衛兵やド・モンフォール兵は必死に人を宥めながら少ない町からの出口でパニックが起こらない様に人を誘導する事で手がいっぱいだった。
急遽開かれる事になった軍議へと走る最中、右に向いても、左に向いても不安から恐怖までの表情の人が周りも見えずにひたすら急ぐ人の海が広がっていた。
「わあああああああんん!」
道の横で一人の5歳ぐらいの子供が泣いている。
「坊主、親は?」
「わああああああああああ!」
子供は答えられずに泣き続ける。親とはぐれたのか?
「誰か、息子とはぐれませんでしたか? 誰か?!」
声を上げて叫んでみても、騒動の中では遠くまでは声が届かない。子供の泣き声はより一層に大きくなりつつも、周りの大人とにかく迫りくる脅威から逃れる為に手がいっぱいだった。
「誰か? 誰か?」
「落ち着け」
ベルトランの手が俺の肩に後ろから乗せられた。
「すーーーーーーーーーーーーー・・・・ 5歳ぐらいのお子様をお連れの方、はぐれていないかお確認ください!!!!!」
ベルトランのバカでかい声に子供はびっくりして口を開けてポカ―――ンと見上げている。
あまりの声の大きさに周りの人まで一瞬立ち止まっていた。
「ジャン! 私のジャン!」
「母ちゃん!」
「ごめんよ、怖かったよね。」
ふうう・・・
ベルトランが親子に感謝を受けている間にもう一度見まわす。
恐怖で茫然とした表情で動かせる全財産を背負って逃げている男。わけが分からずに泣き続ける子供を荷駄車に乗せて、下りない様にきつく言い聞かせている親。老婆をおぶって逃げる中年の男性。
生きたい、死にたくない、家族や生活を失いたくない。助けてくれ、助けてくれ、と言う声が頭の中でひびく。
ベルトランへの礼が終わった母親は俺に向けても会釈してから人の流れに入って行った。その母におんぶされた少年は今度はぎゅっと母を掴んでいた。見えなくなる直前に後ろの俺の方へと振り返り、サッと手を振ったら人混みの中に消えていった。
その瞬間、公国軍に村の広場で囚われて殺された大量の死体、子供までが惨たらしい姿で残されていた光景が頭をよぎる。
「ああ、こういう事だったんだ。」
守りたい。
この人達を守りたい。
ここに殺人鬼が如き敵を通せない。通してはならない。
命をかけても、例え俺が死んでも通せない。
ああ、この感情だったんだ。俺の本の中のヒーローたちが感じた感情はきっとこういう事だったんだ。
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急遽開いた作戦会議には俺、ベルトラン、傭兵副長のジオ、衛兵隊長のエリック大尉、諜報係のウジェーヌに加えて、新顔のド・モンフォール軍の騎士隊長のソルニール隊長。
「ヤバいんじゃないすか、これ?」
ジオが腕を組んでジロっと見る。
「正直、かなりヤバいです。ちょっと現状を整理します。公国公太子の軍が2リユ(4km)以下の距離まで接近し、急速にモンメラクに近づいています。兵数は騎士数百を中心とした精鋭1千。将官は公国軍の一翼を率いてアレーヌ卿(熊オヤジ)を討ち取った公国太子、狂い獅子リチャードです。1時間未満で到着します。」
「何でいきなり公国軍が動いてきたんだ?」
「俺のミスです。我々が公国軍を監視しているように、相手も我々の動きを監視していると判断するべきでした。恐らく昨夜には我々が避難民の退避を急がしていると報告が太子に飛び、数時間の休憩を取らせた後に残る村を素通りして我々を奇襲する作戦です。」
ベルトランが頭を掻き
「ド・モンフォール男爵の軍が味方してくれたおかげで俺達も大分兵が増えたんだろう?」
「それだけじゃあ、全く足りないんですよ。我々が最初に衛兵とルギエラさんたちの傭兵で合わせて150.ド・モンフォール軍は生き残っているヤツが250人ほど加わって、総勢400人。でも、ルギエラさんが引き連れた部隊が60人、殿下の護衛、難民の保護と防衛陣建設等に必要な最低限に40人。つまり、手元には300人しか兵が居ない。」
「正面から戦うには兵力が足りていないって事には小官は完全に同意です。今からぶつかる兵は今までとは違います。公国軍の最精鋭、逆に我々が1千で相手が300でもこちらが正面からぶつかったら勝てるかどうか。だから一刻も早く防衛陣へと後退を!」
「ウジェーヌ大尉、それはできません。今モンメラクの民の避難を急がしていますが、多分今町を放棄して我々だけ引き下がったら、逃げ遅れる人が数百人は出ます。それは容認できません。30分で良いから時間を稼がなければ。」
「王子殿下の指示ですか?」
「殿下からは民衆を守る事を第一にと。」
「部隊を全滅させて、自由に防衛陣の食料を奪われながら一般人の荷駄車隊が追われたら数百人では被害は済みますまい。」
「それも良く理解しています。俺らは絶対にこの隊を防衛陣に入れますが、まずちょっと時間を稼がなければ。」
「小官の見解ではモンメラク町の城壁に立っただけでは素通りされる恐れがありますし、防衛陣への退路すら断たれますよ。逆に平地であの軍を待ち構えるのは自殺行為です。時間稼ぎにすらなりません。」
「はい、なので、打って出ます。公国軍は深夜より行軍を開始し、急いで動いてきたので精兵とは言え、疲労している上にモンメラク周辺につくまで大規模な戦闘になるとは考えていないでしょう。なので、行軍に適した縦長の縦列で進んでいるはずです。モンメラクからなるべく離れた地点で我々が一丸となってぶつかりに行きます。敵を行軍陣形から戦闘陣形に展開させたら十分、そこから撤退し、離脱し、奇襲に対しては、逆にこちらの奇襲攻撃を受けるとは考えていないでしょう。」
エリック大尉が胸をドンと叩き、
「ヒューゴ殿の采配には衛兵隊は何処までもついていきます!」
騎士を引き連れたソルニールも
「殿、もといド・モンフォール男爵よりヒューゴ殿の指示を厳守する様に言われています。でも、」
ソルニールが二マリと笑い、
「暴れろと言われて断った事ってほぼ無いんですよね、私は。」
ジオは凄く嫌な顔としていたが、
「そんな任務はまっぴらゴメンだ・・・・ と言いたい所だが、ヒューゴ殿の指揮は契約上厳守ってしつこいぐらいに姐さんに釘を刺されたんで、従わないわけにはいかなえな。星の団はできる限りの援護をしますけど、ヤバくなったらずらかるからな。」
「もとより敵の出鼻をくじくだけなんで、それでいいですよ。ありがとう、ジオ。」
不機嫌な表情は変わらなかったが、ちょっと嬉しそうな目をして、すぐに目をそらしたジオだった。
これにはウジェーヌは、
「分かりました。危険かと思いますが良い作戦だと思います。小官は民の退避を急がせます。ご武運を!」。
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中世ヨーロッパ豆知識#20: 伝書バトの歴史は非常に古く、最古の文献で登場する伝書バトの記録はペルシア帝国のキュロス大王(キュロス2世)が6世紀BCに現ペルシアやアッシリアの中東地域で地方からの役人の報告を送らせたと言う記録が残ります。
軍事利用ではユリウス・カエサルの時代の古代ローマでは伝書バトが軍事連絡方法として常用されていました。
中世ヨーロッパでも常用されていて、電報が発達するまでは最も早い通信方法として重宝されていました。




