第20策: 兵糧と難民
「まあ、まあ、まあ男爵、とりあえず殿下の話しだけでも聞いてくださいよ。」
ベルトランが持ち前の人当たりの良さで懐柔にかかる。機用なヤツだ。
「誰だ、お前は。」
「ベルトラン・ド・ポルタワ、騎士見習いで殿下の配下となっています。」
「騎士見習いが何故に交渉にしゃしゃり出る。」
「ごもっとも、でも、これは多くの一般人の命がかかっている事には、それは騎士見習いでも口を挟まずにはいられません。」
殿下が深呼吸をしてから俺に目を向ける。
「ヒューゴ、戦況を説明してやれ。」
「男爵、現在虐殺行為を続けて来た公太子「狂い獅子」がここ、モンメラク町へと向かっています。猶予は数日しかありません。我らの兵力はたった150.例えド・モンフォール男爵の手勢にお味方頂いたとしても、敵軍の半分にも満たない上に、敵は精鋭の騎士と弓隊。同等の兵力ならともかく、現状では全くに歯が立ちません。」
ド・モンフォール男爵はギロリとして目つきで俺を威圧する様に見るが、かまわずに続けた。
「公太子は我々に徹底的な打撃を与える事はできません。我々はこの地域や地形を知り尽くしていますし、逃げる事に徹底すれば数週間は逃げ回る事は容易です。問題はこの地域の民です。」
ド・モンフォール男爵の眉がピクっと動いた。
「男爵はあの多くの虐殺の生存者の話しをお聞きになったのでしょう? 私やベルトランも斥侯としてその後を見ました。年端も行かぬ子どもの遺体すらも子の目で見ました。公国軍は恐怖を広めるには容赦をしません。しかし、幸いな事に公国軍はまだ村や集落程度以上の土地を占領していないおで、まだこの程度の規模の被害に収まっています。」
「うむむむ。しかし、公国軍の目的がランシア王国民全員を殺す事なわけがあるまい。」
「それはそうかも知れませんが、もし恐怖により諸将を従わせるのが目的ならモンメラク長程度の規模の町なら見せしめで大規模な殺戮を行うのにちょうど良い程度の規模です。非常に危険です。」
「ならどうする?ここに立て籠もるか?」
「モンメラク町は川側の防御力はそこそこにありますが、城壁は所々崩れて脆く、多くの場所では梯子が無くても登れてしまう上に城壁も最低限でしか無く、高くはありません。400余りの兵で立て籠もっても、1000以上の精鋭兵に対して守り切れません。特に公太子直属の騎士団を止める戦力はとても。」
「で、何故我にここまで味方に引き込もうとする?」
「ド・モンフォール男爵」
殿下がジッと男爵の目を見る。
「民を救うただ一つの方法はお前の領地に4千人の難民を送り込む事に他ならない。」
「4千???」
「私はこの地域全体の民衆を3日で避難させ、路上を我が兵で誘導し、北へと向かわせる。幸い、ここにはお前が公国軍用に集めた6千人分の兵糧がとてもとにある。この食事を難民に充てて、ド・モンフォール領へと避難させる。」
「な、なな・・・」
「期間は数週間。お前は定期的に公国軍に兵糧を届ける為の手立てを進めていたのであろう? 調べはついておる。その商人への支払いを私が負担しよう。」
「何故数週間で事足りると?」
「ヒューゴ、説明を頼む。」
「殿下のおっしゃる通り、数週間で勝負は決せられると思います。もし、民を守る必要性が喪失するば、我々は再び小部隊にて公国軍の長い補給線を叩き続けられます。公太子が我々を追い回しても、我々の地の利と優れた情報網を持ってすれば、敵を翻弄して見せます。
2-3週間、もって一か月もすれば敵軍は諦めて包囲を解き、一度仕切り直すしか無いでしょう。そうすれば、モンメラクの民は町に帰還できます。それまでに短期的に町民を食べさせていける場所が必要です。その様な数千人の糧食を緊急的に集める用意があるのは、ド・モンフォール男爵他ならないかと・・・・」
「うーーーーむ。」
ド・モンフォール男爵が天井を見上げて唸っている。
「ド・モンフォール。受けて、民を救う事に成功した暁には反逆罪も不敬罪も当然に不問とする。そして、もう一つ。父がお前の治水計画に聞く耳を持たなかったのは過ちであったと私も思う。これが終われあ父に進言し、父がそれでも進めようとしなければ、私の代になった時に必ずする等といい加減な約束はできないが、私の名誉、私の亡き母上の魂にかけて、私はできる限り実現させようと努力する事を約束しよう。父上が進めようとしなければ、お前の息子の代になってしまうやも知れぬが。」
「王子殿下、我は執念深く、根に持つ人間であり、性根がいささかねじ曲がった人間です。もし、その約束を破った場合、例え我が地獄、あわよくば天の国にあったとしても舞い戻り、執念深く王子殿下を呪いますぞ。」
「そ、それでは!」
ベルトランの顔ばパーーーと輝く。
「王子殿下、我を陣営にお加えください。主従の誓いを立てとうございます。しかし、主はシグベール陛下では無く、アレク王子殿下個人に従する誓いを立てとうございます。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「というわけで、ド・モンフォールの兵を全て解き放ち、武具を返し、私たちの陣営に加わってもらう。」
殿下は作戦会議を開き、俺、ベルトラン、ウジェーヌに加え、傭兵団長のルギエラと副長のジオ、そして新しく加わったド・モンフォール男爵が出席していた。殿下が状況の説明の為に手早くド・モンフォールが味方した理由を話したが、ルギエラとジオは驚きと困惑を隠せずにいた。
ルギエラはしかめ面をしていたが、まずジオが声を上げた。
「ちょっと待て、この男はまず王国の男爵で王の臣下でありながら、王国軍がクレシアの戦いで負けたらすぐに王を裏切って公国について? そして王子殿下に負けて捕らえられたら、その翌日に公国を裏切ってまた王国についただあ?」
ベルトランが首をかしげて
「あ、たしかにそう言えばたしかにそうだなあ。」
「いやいやいや、信用するのは無理っしょ? こんな男に背中を預けたら、すぐに寝首をかかれるに決まっているでしょうが?」
「何で寝ているのに背中を預けるんだ。それいうなら、背後から刺されるとかだろうが、バカか?」
ド・モンフォール男爵が「フン」と鼻息を飛ばし、ジオの額に怒りの血管が浮かび上がる。
「あああ? 何言ってんだこのつるっぱげデブ。」
「ハゲはお互い様だろ、この中途半端ハゲ!」
「やめんか!x2」
殿下とルギエラがハモった。
「姐さん、すんません。」
「殿下、すみません。」
ルギエラが殿下の目を見て
「殿下、この男は信用していいんですね。」
「ああ、私は命運をかけても良い、この男はとりあえずは裏切らない。」
「『とりあえず』は酷いですよ、殿下。」
「黙れ、ド・モンフォール。この男は私の見立てでは小心者で、戦場では武も知も持たぬ足出まといで、変にプライドが高いわりに傷つきやすい面倒くさい男だ。だが・・・・金の流れや管理、そして民を思う心は本物だと判断する。よって、信用に足る。」
ルギエラはド・モンフォールに見向きもせず、殿下をじっと見ていた。
「ならあたしも信用する。」
「姐さん、本当にいいんですかい? 殿下ぁ本気でせっかく捕らえた騎士や兵に武器や鎧を返してやるみたいですよ?」
「ジオ、何年の付き合いだ、あたしたちは。あたしが信用するって言って裏切られた事はあったか?」
「ありません、姐さん! わからないって言って裏切られた事はありましたけどね。」
「うるせえよ。」
「わかりやした、俺も姐さんの目を信じます。」
「よし、ならようやく本題に移ろう。公太子が1000兵の精鋭を引き連れてここ、モンメラク町に通りがかった集落や村を殲滅しながら向かって来ている。」
ふざけた表情ばかりしているジオまで表情が引き締まった。
「倍以上の兵力のド・モンフォール勢に勝利に導いてくれたヒューゴすら今回はド・モンフォール勢を加えても無理だと判断している。これまでにヒューゴの判断は適格に状況を把握してきたので、この判断に私も賛成だ。」
ジオがやれやれと両手を挙げる
「まあ、これだけ劣勢でもできる、できるとやってきた坊主が無理だつったら聞くしなねえなあ。」
「何だ、我の件だけでなく、ナオネト攻城戦の攪乱もこの若造の策か?」
と、ド・モンフォール男爵が片眉を上げて値踏みをする様に俺を上から下に観察する。
「ヒューゴ殿には本当に我々は助けられてきました。」
カチャカチャと音を立てて、お茶を人数分淹れたコップをエリック大尉が入って来た。
「エリック大尉、士官で上官であるべくのあなたが騎士見習いのお茶を、なぞ。そんな事は俺が。」
と言い始めたら、エリック大尉が手を挙げて静止してきた。
「ヒューゴ殿、今回の戦は王子殿下の御命が正にかかり、王国の命運を左右しかねない重大な物です。私は武も知も大した事が無い事は私が一番わかっています。
前線の指揮でなく、戦場から離れた場所で戦費の守りを仰せつかったのも、私の力量に合った任務だと思っています。私の利は武でも知でも勇でも無く、忠義だけです。そんな私でも王国のお役に立てますが、この場に必要なのは私よりはヒューゴ殿です。身分は関係ありません。皆の神経を和らげるお茶等はこのエリックにお任せあれ。」
王子殿下が俺をジッと見て、
「その通りだ、我々はお前の策なしでは万事休すだった。だから、ここでも戦略においてはお前に託す。モンメラクの民が生き残れて、ナオネトも救える策を授けてくれ。」
「フーーーー。」
責任重大なんてもんじゃないな。母さんたちの命もかかっているわけだし。
「では、作戦を伝えます。」
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中世ヨーロッパ豆知識#20: 中世ヨーロッパでは城塞都市が包囲された場合、都市と包囲軍の間で交渉が行われる事が普通でした。交渉は必ずしも都市の降参を求めるばかりでなく、交渉上の金額を支払って攻城軍が撤退する場合もありました。
なお、交渉が決裂し、攻城戦が行われた場合、落城した都市は悲惨な 「Sack」(サック)と呼ばれる行為が勝利した軍の兵に許されました。通常は3日や1日などの期限付きで「市民に何をしても許される」と言う行動が行われました。無差別の殺戮、レイプ、略奪などは何でもアリで、市民は悲惨な目に合いました。
市民はこれが行われると知っているので、攻城戦になりそうだと思ったら勝てないかもしれないと考えるなら降伏や交渉を進める人物も少なくなかったのは理解しやすいと思います。




