表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

第17策: 裏切り者

「ワハハハ、大漁、大漁!」


ジオが満面の笑みで駿馬を引き連れてモンメラク町の城壁を潜り、町内へと帰館した。。

傭兵団60名を率いたルギエラとジオが戦利品の数十頭の馬を連れていて、被害はまたもや軽傷以外は無かった様だ。ルギエラもご満悦な表情でかなり立派な馬を引き連れて来ている。これは騎士か士官を一人討ち取ったかな。


「ここまで楽に勝てるとはねえ。馬を百頭以上奪って被害が負傷者5人、死者が一人も居ないとは正直思いもしなかった。」


俺とベルトランも門を潜って馬から降りたら笑顔の殿下が迎えてくれた。


「皆、よくやったぞ。本当のこんなに上手く行くとは思わなかった。」


俺を見て殿下が親指を立てる。あ、綺麗な顔がえらく疲れた表情をしているなあ。目の下にくまが出来ている。


「80リユ(240km)の距離を船も川も無しに、馬車も使えない状況で数千の兵の兵糧を届ける事自体が無謀です。こんな距離を守りながら物資を届けようとしたら守りがスカスカになるのは自明の理ですよ。それより、殿下、あまり寝ていないみたいですけど、大丈夫ですか?」


「殿下も忙しくてお疲れなんですよ」


ボソッと背後から耳のすぐ側で声がして俺はゾゾーっと驚いた。


「ウジェーヌ諜報大尉! い、い、いつから?」


背後を取られたのに全く気配がしなかった。


「ウフフフ、まあ小官の趣味みたいな物なのでお構いなく」


構うは、気味が悪い。ベルトランのニヤニヤしたリアクションも何か腹が立つ。ウジェーヌが意にも解さぬ様に続ける。


「いやね、小官も大変で寝る間もなかなか無いほどでして、各地の政治状況を最大限注目せよと殿下のお達っしで、公国の勧誘に乗りそうな諸侯を割り出し、事前に根回しをして。特に公国関係者との婚姻関係を持つ諸侯を男爵や諸侯の主要近侍に至るまで全部資料を集めろと言われた時は小官でも目の前が真っ暗になりましたよー。」


全然疲れた顔してねえじゃねえか


「ウジェーヌ、ご苦労だった。状況は?」


殿下がスルーして話しを進める。


「予想外によろしいですな。まず、戦況ですが、ナオネトですが城壁はそれなりに高く堅固な物なので、公国軍は力攻めをする気配は見せていません。海軍を回し、陸路を封鎖して兵糧攻めをする作戦だった様ですが、忍び込ませた部下によると、すでに兵糧不足気味で支給されるパンや干し肉の量が減らされ、雑兵の間では不平不満がある程度広まっているようです。」


「近隣の諸侯が公国側になびき、兵糧を補充させてやる気配は?」


「殿下が摂政を名乗る檄文が多数地域に分配され、ナオネトを放置するつもりは無いと言う主張より、当初公国側になびきかねないと懸念した領主は現在迷っている様です。日和見を決め込んで、言い訳を並べて我々に兵を出すつもりは無いけど、少なくとも兵糧を公国軍に分けるつもりも当面は無い状況には持ち込めました。殿下の説得力に敬意を示します。ただ・・・・」


「何だ?」


「殿下の予想通りにジャン・ド・モンフォール男爵が裏切りました。」


ド・モンフォール男爵?誰だ?


「すまん、忙しくて全貌の説明は行えていなかったな。ナオネト港はアルモリカ伯爵領の一部、と言うのは当然地元なので知っているな? 15年ほど前だが先代の第9代アルモリカ伯が亡くなった時に相続についてかなり揉めてな。先代伯爵には子供も近縁も無く、二人のかなりの遠縁が後継候補に挙がったのだが、父が王として裁定を行ったのだが・・・・」


「ド・モンフォール男爵はシグベール陛下の裁定で負けて納得できなかったと。」

「まあ、そういう事だ。二人の弁護人と法学学者が延々を説明をしていたら、父は途中で興味を失った様で、ほとんど漢気が気に入ったから勝者を選んだとか噂されたほどだった。私も『息子』としてもその結論は否定しにくいと言うか。

まあ、法の裁きの裁定のはずが、父の言い分では『領主たる資格』みたいな話しをし始めて、特にド・モンフォール男爵は身分が下のはずの騎士に法廷で出し抜かれ、自分より上の伯爵の身分につけられた事も受け入れがたい裁定だった様だ。」


「そこで、ド・モンフォール男爵は裁定をひっくり返してアルモリカ伯爵の地位を公国軍の力を利用して奪い取ろうとしているってわけか。」


「そういう事だ。」


「今のアルモリカ伯爵は信用できるのですか?」


「今、ナオネト港を自ら全力で守っているのがアルモリカ伯爵だ。2千の兵と多くの兵糧を短時間で集め、城塞都市に立て籠もり、挑発にも応じずに静かに防御に徹している。港の戦略的重要性を良く理解している動きだし、私を裏切るつもりならすでに城門を開いているだろう。そもそも、公国側が力のあまり無いド・モンフォール男爵を抱き込んで政治的正当性を確保しようとしている事自体が公国側の誘いにはアルモリカ伯爵が乗らないと判断されたと考えて良いと思う。個人的に信用できる数少ない臣下だと感じているし、父上への恩義も忘れる様な男では無い、父上好みの武官らしい領主だ。」


「なら当面の問題はド・モンフォール男爵か。」


ここでウジェーヌ大尉が


「殿下の指示の通り、ド・モンフォール男爵の動向を特に詳しく調べさせていましたが、クレシアの戦いの前日にはすでに公国の密使と接触をすでに果たしていて、クレシアの戦いの結果を聞いたらすぐに公国を味方する動きを開始していました。幸いド・モンフォール男爵は行動は早くはありませんが、ついに兵糧をかき集めて動き出しました。」


男爵は確か一番したのくらいの領主で、領土の範囲は小さなな町や村が数村に過ぎなかったはずじゃ。俺も首をかしげて、


「たかが男爵が公国軍の援助になれる様な兵糧を動かせるのか?」


「小官が見るにド・モンフォール男爵は武勇は無いですが、金の匂いには敏感な男です。主要商路沿いの良い場所に関税を取れる関所を立て、領内の道を整備し、商人と友好的な結びつきを作り、男爵家とは思えない領土を遥かに匹敵する財力を持つ男であり、決して金儲けに関しては無能な男とは言い難いです。兵数こそは300兵程度ですが、6千人を1週間は支えるだけの兵糧はすでに確保した様ですし、密に付き合いのある商人に打診して、さらに多くの兵糧を買い集める動きを見せています。」


殿下がしかめ面で付け加えた。


「もし、ド・モンフォール男爵が兵糧を包囲する公国軍に届けたと話しが広がれば、政治的影響も侮れん。『王子が軍を集め、直接の配下が兵糧の流れを切った』と少々おおげさに我々の行動を喧伝し、実際に諸将も調べを入れていると思うが、ナオネト港を取り囲む公国軍の多くが腹を減らして不機嫌だと報告が帰っていれば現実味もまし、公国側につきたい諸将は浮足立ち、様子を見たがる。逆に公国軍有利と思われたら。」


殿下はパタパタと将棋倒しの様に手を右から左へと振りながら動かしていく。


「次々へと二心を持つ臣下たちはこぞって兵糧を持ってナオネト港の攻略の手柄を立て、公国に覚え良く思われたいと領土安堵の約定の署名を求めて公国軍の陣営に加わりかねない。どうだ、ド・モンフォール男爵を止める事は能うか?」


300兵か、俺達が動かせる兵の2倍近くだな。


「ウジェーヌさん、ド・モンフォール男爵がナオネトに着くまでどれくらい時間の余裕がありますか?」


「小官の見立てでは恐らく3日ぐらいですね。」


「300兵の内、ド・モンフォール男爵はどれぐらいの騎士や手練れをもっていますか?」


「ド・モンフォール男爵の兵300の内、騎士は30人ぐらいでしかいませんが、引き連れた傭兵軽騎兵50人もそれなりの質です。残りはほとんどが槍兵の雑兵で、士気も武力もあまりありません。特に名だたる騎士等は配下にはいません。実際の指揮は近侍のロビン・ド・ソルニールが執っています。槍の豪傑ですが、あまり物事を考えずに突進するだけが能の短気な猪武者と呼んでよいです。ド・モンフォール男爵自身は軍務には興味が無く、指揮能力も武もありません。」


経路は分かり切っている、対応力が低い旗頭と短慮で短気な司令官、士気の低い兵。恐らく忠誠心の薄い傭兵、か。


「殿下、今までは60前後の兵で出陣してきました。これぐらいの数の方が大部隊に遭遇してしまったら四散して撤退する事も容易ですし、発見されずに間道を急速に移動しやすい等の利点もありました。有利なら叩く、不利なら引けば良い状況だったからです。

なお、公国軍の兵力と守る事を必要とする距離を考えると、防衛兵を蹴散らすにはこれで十分かと考えていました。また、これまでは殿下の安全を優先して出陣せぬ様にお願いしてきました。」


「今回は状況が違うと。」


「その通りです殿下。」


「無論だ、これは負けられない戦いなので私の出来る事ならなんでもやろう。」


「ありがとうございます。私に考えがあります。羊の群れを離散させたいなら、まず番犬を誘い出して閉じ込めれば、羊は脅かせばおのずと逃げ去ります。具体的にはこうします・・・・」



ご一読ありがとうございました! もし作品を気に入って応援していただけるなら


・「ブックマークに追加」のボタンをポチっと

・画面下の「☆☆☆☆☆」からポイント評価


をしていただけたら大変に作者の励みになります。よろしくお願いします<(_ _)>


~~~~~~~~~~~~~~~


中世ヨーロッパ豆知識#17: 史実では本作の様に食料の輸送は陸路では大変に困難で、中世の軍は兵糧には苦労しました。水路よりの輸送は輸送コストが陸路の30分の1から100分の1となったので、川や海より輸送する事が圧倒的に主流で、水路より食料が移動できないルートへの攻勢は困難でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「中世ヨーロッパ豆知識」で理解しやすい。
[良い点] 軍師っぽくなってきました! [気になる点] 続きが気になる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ