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第16策: 寡兵と奇策

俺達は殿下に教会の会議室を使わせてもらっていた。多くの窓があり、日光が存分に差し込み、天井が高い石造りの建造と春の良い気候のおかげで心地よい。場違いにものどかな雰囲気にすらなりかねない気候だが、空気は緊張感で張りつめている。


アレク殿下が地図が広げられたテーブルを見回す。6人の参加者の内5人は知っている顔だ。俺、ベルトラン、星の団傭兵団長のルギエラ、傭兵団副長のジオそして衛兵団隊長のエリック大尉。7人目は恰幅の良い立派な口髭を蓄えた何処の町でも居そうな雰囲気の人の良さそうな顔をした中年の商人にしか見えない人だった。


張りつめた空気は疲れて目のしたにクマの出来きて、疲れた顔をしている殿下より発している様にも感じた。


「今朝は良く集まってくれた。5人は見知った顔であると思うが、もう一人の参加者を紹介しよう。ウジェーヌ・ヴィドー、諜報大臣スタウラキオス大司教の右腕とも言える諜報佐官(スパイマスター)で、西ランシア王国の諜報員のまとめやくを行っている。」


ベルトランが特にびっくりして


「凄く普通に見えるんですね!」


と素っ頓狂な声を上げると


「見た目が怪しかったら諜報員失格ですね。」


と含み笑いをするウジェーヌ氏。あ、ちょっと怪しくなった。


「諜報員はみんな黒い仮面をしているって噂は嘘だったのかあ」


ちょっと残念そうなベルトラン。


「ウジェーヌからの仔細の報告書は昨夜私が全て目を通しておいた。その概要を今からウジェーヌが説明するが、まず私の方から目的だけを説明しておく。私の目標は出来れば近隣の兵をかき集めて、出来れば2千程度の兵を引き連れて王都へと帰館したい。恐らく王都で私を掌握しようとする動きを事前に封じて、私の発言権を確保する最低限の数だと考えている。

しかし、問題としては現状としてはバルガン公国軍の脅威が正面から迫っていて、近隣の小領主は駐屯兵を私に預ける事に良い顔はしないだろうし、この地域全体の守りを裸にする事も私の望む所では無い。それに、今この周辺の小領主に城を空にして私に兵を預けろと言っても従いはせんだろう。

では、ここからどうするか? ウジェーヌの現状の説明を聞いて皆の意見が欲しい。」


「ご紹介ありがとうございます、殿下。小官がここより。クレシアの戦いで王国本軍が離散してしまった為、現在組織されている主な王国に残された軍は二つ。北東の帝国の抑えを行っているノルド公軍1万6千。そして昨秋の不作より出陣が免除されたコルテ候軍8,000、と言えます。」


「ちょ、ちょっと待ってください。」


ベルトランが先生に質問する学生の様に手を挙げている。


「本軍が離散ってどういう事ですか。皆は無事なんでしょうか。」


「本軍については兵が四方八方に逃亡したので、かなり明確な情報が得にくい状態です。」


「じゃあ、散り散りになっただけで、兵士の多くは生き残ったと言う事ですか?」


「それほど楽観はできないと小官は考えています。一般兵の多くは生き残れたと思いますが、特に騎士団の被害は激しく、半数が討ち死にか捕虜となったと考えています。」


半数・・・・


「小官の考えでは兵糧や装備等を失い組織的な軍を維持できなくなった今、兵の大半は自分の領地へ帰還しに行く物と考えます。なお、一部はオシタニアへと逃れ、城に匿ってもらったと思われます。コルテ卿の兵と合わせれば、それなりの兵が南東部には残されています。」


「なら決まりじゃねーか」


ドワーフのジオが口をはさむ。


「北のノルド公は帝国の抑えで動かねえ。中央の軍は散り散り。じゃあ殿下は南の軍に入るしかねえだろ。」


殿下がため息をつく。


「それがそう簡単にはいかんのだ。南部軍を動員するには兵糧問題を何とかしなければコルテ候も動かんだろう。大量の兵糧を購入して届けさせる商人の用意を無いし、万の軍の兵糧を用意するには金が足りん。無理強いすれば兵糧を捻出する為にコルテ領を飢餓に落とし込みかねん。」


殿下の目が光る。


「民を植えさせてまで出陣を強いる主君に主君たる資格は無い。」


「ならどうするってんですか、殿下。王都に戻って資金を集めるんですか。」


「それも政治事情に故できん。今王都に兵を引き連れずい戻ったら私は傀儡にされかねない。」


ルギエラがため息をする。


「殿下、戦えない、守れない、戻れない、動けない時には交渉しかないのでは? 王族のプライドとかやらにより、勝てない戦争で都市を攻め落とされたらひどい目に合うのは民ですからね。」


殿下は頷く、


「それは私も考える所であったが、講和できない理由は二つある。まず、一つ目はバルガン大公国が大規模にランシアの領土を焼き討ちし、多くの民衆を殺した以上、我の安全を確保できる条件でなければ私も同意はできない。そして・・・・」


殿下がウジェーヌに頷く。


「小官の配下よりの報告ではバルガン大公国の使者が多数南西部のランシア王国の領主にリチャード大公太子がランシア王国の正統な王であり、主従の誓いを立てる様に檄を送っています。20年前の条約を破棄して王が不在の事を利用して王位継承を求める様です。」


「ランシア王国を乗っ取ろうと言う目論はともかく、我が民をあの様に自らの目的に為に苦を強いる君主に国を譲ろうとは思えんな。」


ジオがイライラとした表情で頭をかく。


「しかし、あれもできねえ、これもできねえじゃあ、これはどうやっても・・・・ ってその兄ちゃんは何ブツブツ言ってるんだ。」


ジオは俺を見ていたが、彼のセリフは俺の耳には入ってきていなかった。


「毛沢東、シヴァージー、ファビウス・マクシムス、いや、ここはベリサリオスか? 項羽の補給路遮断策を参考に、いやまて・・・・」


ベルトランはニヤリと笑うと、


「殿下、ここヒューゴが何やら考えがあるみたいですよ。」


俺は考えをまとめ、殿下の目を真っすぐに見た。


「殿下、星の団を中心とした兵60名を与えてくだされば、ナオネト港を攻めた6千の兵を退却させて見せます。」


~~~~~~~~~~~~~~~


「き、来たぞ!」


十数人のエルフ衛兵が弓を構えるがビュンビュンと次から次へと矢が降り注ぎ、適格に衛兵だけが次々と打倒されていく。数十頭の荷駄を担いだ駄馬がいななき、荷駄隊の非戦闘員が困惑していたが彼らはほぼ無視されていた。


弩兵よりの至近距離からの1斉射が終わったら直後に


「全隊突撃!」


俺の声が戦場に響き渡り、ベルトランを先頭とした隊が荷駄部隊の右の林から、ルギエラが率いる部隊が左の茂みの隠れ場所から徒歩で出て襲い掛かる。


「ベルトラン、指揮官らしき人物があそこに!」


と俺が指さすとベルトランは巨大なグレートソードで前方の弓から剣に持ち替えようとするエルフ兵数人を薙ぎ払い、士官へと襲い掛かった。


エルフ士官は背中に背負った大斧を両手で握り、


「荷駄部隊を襲うとは卑怯なり、ランシア王国軍。全うな主力同士の決戦に挑まぬかあ! ギファード男爵が配下、アンドリュー・バーンが相手だ。」


ベルトランはグレートソードを正面にかざし、


「アレク王太子殿下が配下の騎士見習いベルトラン・ド・ポルタウがお相手します。」


「騎士見習い如きがでしゃばるな、下郎!」


バーンとか言う隊長が大斧を振り上げ、ベルトランめがけて振り下ろしたら、すり抜ける様にベルトランが目にもとまらぬ動きで横をすり抜けた。


「グ・・・・」


と音にもならない音を発してバーンは左肩から腰にかけて血しぶきを上げて地面に崩れ落ちた。


「よし、ここだ、騎兵隊進め! エルフ荷駄隊、我々は無駄な殺戮は望まない。駄馬を捨てて逃げた者には追い討ちをかけない。だが、駄馬と荷を持って逃げようとする者は容赦なく追い討ちをかける!」


左右から十数騎の軽騎兵が槍を持って現れると残されたエルフ兵は戦意を失い、馬と荷を捨てて南へと逃げて行った。


「急げ! 戦闘組は一人1頭は馬からは荷を切り落として奪い、騎馬組は後方の馬を全頭処分しろ!」


ベルトランは俺達の騎兵が後方の馬の首に槍で突いたり、脚を斧で折る光景を見て顔をしかめていた。その間にも後方より手際よく星の団の傭兵たちが待機させていた馬を前に走らせ、俺達にも届けてくれる。


「戦いに自らの意思で参加する人との戦闘はともかく、罪の無い馬を斬り倒すのはやはり後味が悪いなあ。」


「まあ、人生の大半を馬の世話に使って来た手前、気持ちは分かるよ。でも、こうするしか無いって納得しただろう。」


ベルトランは無言で駄馬から荷をナイフで切り離し、ドカドカっと思い食料が詰め込まれた馬の手綱を握り、身軽になった駄馬を自分の馬に繋げた。


「・・・・何だったっけ。」


脱力して馬から落ちそうになった。


「もう2回説明しただろう・・・・簡単に言うぞ。バルガン公国は80リユ(240km)も北の俺達の故郷、ナオネト港を取り囲んで攻城している。ナオネトには2000は守備兵がいるから、最低でも6千の兵は必要だったので、それを送った。」


「ああ、言ってたなあ。」


挿絵(By みてみん)


「エルフたちには東の1万近くのコルテ領の無傷の部隊は不気味で仕方がない、グレンウッドの森を失ったら拠点を失うからだ。」


「グレンウッドからナオネトまで海から船をつけられる場所は無い、崖続きなのは見ただろう?。つまり、グレンウッドの主変に兵糧を降ろし、遠路を北へと動かさなければいけない。」


「だから兵糧を奪っちまえばいいんだ。」


「大体合っている。でも、厳密には兵糧より重要なのは移動手段だ。駄馬は2キンタール(100kg)ほどを動かせる。大体1頭に付き50人分の食料を乗せられる。でも、馬も荷駄車組の人間も警備兵も食べなければならん。往復9日はかかる遠路は食べ物の半分は馬と荷駄の人間が食ってしまう。となると、6千の兵を支える為には毎日240頭の馬が到着しないとヤバい。」


「つまり、毎日この道を240頭の馬が通っているわけか」


「違う、2000頭以上だ。大体2100~2200頭。毎日食料が届かなければいけなく、毎日240頭以上が届く必要がある。往復9日なら毎日240頭が出率していて道中にあるからその9倍だ。つまり、70-80頭を引き連れた荷駄部隊が30隊ぐらい毎日この道路の何処かを移動していなければ食料が足りなくなる。つまり、だいたい3リユに一隊はどこかにあるはずって事よ。入れ食い状態だ。」


ベルトランの目が点になっている。


「まあ、だから警備兵は30人ちょっとが限度が。祖霊所つけると荷駄隊がせっかくの兵糧を食い過ぎてしまう。そもそも1000人以上を道中の警備に就ける余裕は今は無いだろう。だから、50人の隊でも十分な戦果を挙げられる。長い補給線は少人数でも十分に切れるって事だよ。」


「あ、確かに。これで3回前の襲撃だけど、毎回俺達が警備兵より兵が随分と多いから楽だったなあ。対した司令官でも無かったし。」


「40頭の馬分の物資が届かなければ1000の兵が明日は飯抜きだ。食料も重要だが、運べなければ意味が無い。そして、2キンタールの食料より馬の価格の方がずっと高い。荷物を切り捨てれば逃げ足も速くなるので、追撃も受けない。全員馬上の俺達は間道を抜けて逃げ切れる。馬を手に入れれば、傭兵の財布も重くなるしな。」


あ、ベルトランの目が完全に死んでる。これは限界だな。


「まあ、頑張れば何とかなりそうって事だ。」


「応!」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 馬の数が半端なく多いのでスケール感が伝わってくる。
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