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第15策: 傭兵ルギエラ一家

翌日、夜明けと共にベルトラン、アレク王子殿下と俺の3人は山越えを馬上で続け、昼過ぎにはようやく川沿いの本道が北に見えた。本道へと降って行き、少々北西に進めば10分もしない内にシャレンテ川を挟んでモンメラクの町が対岸に見えた。


モンメラク町は海からは50リユ(100km)ほど内地にあるが、古に作られた立派な石橋があり、南東の自由都市とランシア王国の陸上貿易の要である交易大行路上にあるおかげで栄えている商業町。橋は細く、3トゥワーズ(6m)の幅も無いが、この地点では60トゥワーズはある川を水に濡れずに渡れるのは実にありがたい。しかも、1000年以上も前の統一帝国時代に建てられた物と言われるのも驚かせられる(と師匠が以前言っていた)。


何年か前に来た時は多くの商人や町人が橋を行き来していたが、今は人っ子一人いない。近くの戦争状態より商人がこのルートを避けているのかな?


カッポカッポと蹄が敷石に当たる音が鳴り響き、川ののどかな流れる音があり、一時の平穏な雰囲気が、その感覚は半分ほど橋を渡った時点で一変した。


突如、橋の向こうより大きなパヴィス盾が次々と立ち、クロスボウから数本の矢がビシュンと音を立てて矢が頭上を越えていく。


ひょっこりと盾の上から顔を出したのは大きな尻尾の様に上唇を覆う様に伸ばされた髭を生やし、日焼けをした中年のドワーフだった。


「やいやい、モンメラク町はルギエラ一家が守ってるんだい。どさくさ紛れで悪さをしているふてえ騎士が多発している。エルフ騎士もひでぇ事しやがっているし、難民はともかく、俺達の目の黒い内は鎧騎士は通せねえよ。東へ回り道をしやがれ。」

「お前らランシア側の傭兵だな、撃つな! 撃つな! 王太子殿下であるぞ!」

とベルトランが怒鳴る。


~~~~~~~~~~~~~~~


「も、申し訳もございません、殿下ァーーー!!!! 威嚇とは言え、恐れ多くも矢を殿下に向けて撃たせてしまった等、このエリックどんな罰則でも。」


町の守衛長らしき人が頭を床にぶつける勢いで頭を下げていた。


「良い、大尉。この混乱状態の中では敵味方の判別も容易では無い。よくこの要所を守る気概を見せてくれている。大義である。」


「ありがとうございまする~~~」


「ヘン、別に俺らは町を守る役割を果たしていただけだろうが、許されて当たり前だろ。」


先ほどのドワーフが大きな小声でフンっと鼻息を荒げる。

ちょっとイラっとさせる態度の男だなあ。


ランシアの正規兵に見える槍と鎖帷子の鎧をまとった兵士が数人に加え、40人ほどの「荒れくれ者」としか言いようが無い様なドワーフや人間の男どもが主に革の鎧、弩、そして短剣をもつ集団が川沿いに取り巻き、人が二人以上も背後に隠れらるほどの大きさの盾が10ほど川沿いに建てられている。


「あ、姐さん」


ドワーフが入って来た首領らしき女性に


「うるせえ、姐さんじゃねえこの馬鹿。ジオ、あたしは威嚇しても絶対に当てるなっつっておいただろ。あんなにギリギリに撃つんじゃねーよ。一般人にだって当たったら大事なんだよ、王子様でなくても。」


殿下が荒れくれもの達のまとめ役らしき女性に目を向けると


「で、この方たちは?」


と守衛長に聞いた。


ん? 180cmはあろう長身、しなやかに鍛え抜かれた戦士の筋肉、プレートメールの胸当てに鎖帷子や革鎧を組み合わせた機能性重視の軽装の防備、解けば背中の半ば程度まで落ちるであろう長い黒髪が編み状に結ってある。


「王子殿下、あたしは自由都市メッツァーノ市民、契約兵団コンドッティエーレ星の団の団長ルギエラ・ゼノです。」


んん? どこかで聞いた名前と風貌だな。


あ、熊オヤジと弩兵が進むのは無謀だった言い合っていた傭兵団長か。


ルギエラはギラギラとした挑戦的な目で殿下を見ている。


殿下が口を開く・


「傭兵弩兵部隊と言えば、先のクレシアの戦いに参加した部隊か?」


「その通りなんですよ、殿下。」


「私と父上が戦場に達する前であったが、事の仔細は聞き及んでいる。そして、済まない。」


殿下が深く頭を下げる。


「アレーヌ卿が無理な攻めを強いて、そなたの兵を無駄に死なせてしまった。将の失態は王の失態。王の代理として息子の私が詫びる。」


「へーーー。世間知らずのお坊ちゃんかと思ったんだけどねえ」


ルギエラの右眉が上がってちょっと驚いた表情になった。


「しかし!」


頭を下げたまま王子は続ける。


「自由都市では契約は絶対だったな。私はこの戦にでる前に各傭兵団との契約書には全て目を事前に通してある。各傭兵団のとの契約には仔細にて違いこそはあれ、全ての契約期間は6か月契約で結ばれたはずだ。王が不在の場合、執政の指示に従うとも契約書には書いてあった。」


殿下は顔を上げる。


「これより無駄死にはさせない、ランシア王国にはそのような余裕は無い。しかし、私の命には従ってもらうぞ、ルギエラ。」


「へー、そうですかー。」


ルギエラがニヤリと笑う。


いや、王子に対して何でそんなに上からなんだよ。まあ、王子は今傭兵団長を処罰するわけにもいかないだろうけど。


「いや、契約を守っていただければ、あたしらは傭兵、いくらでもご命令とあらばお聞きしますけどね。ちょっと契約で問題があるんですよ。」


ルギエラが背中に背負っていたポーチから羊皮紙を出す。傭兵契約書の様だ。


「第5条、1000人規模以上の会戦に応じた場合月末までに戦死者の遺族に支払われる慰霊金、一人につき300リーブル。20人ちょうどで6千リーブルを支払ってもらわなければ契約違反となる。戦死者の名簿はここにある。さて、明日が月末になるわけですけど、王子殿下、お支払いいただけますか?」


「いいだろう」


今度はニヤリと殿下が笑う。


「エリック大尉!」


「は、はは! ここに。」


「例の物は?」


「我が兵に厳重に守らせています。」


「よろしい、ルギエラよ、ここを守っておれ。ヒューゴ、ベルトラン、ついて来い。」


「御意のままに!」


大尉に連れられ、街中の大広場へと動くと、十数人の守衛兵に守られたとても目立つ鉄張りの馬車があった。


殿下も予想外だった様で


「こんなに目立つ場所に置かれていたのか?」


「は、はは。法では一切守衛の独断で宝物車ほうもつしゃを移動させる事はままならないと念を押されていたので。シグベール陛下にここで待機と命を受けたので、ここでの待機となりました。」


「この数ではルギエラが裏切って強襲していれば、とても防ぎきれる物では無いな。」


「あ、はあ。確かに。でも、町の防衛にはある程度兵を割く必要があったので、実際にルギエラ一家には助かっています。」


「ふーむ。」


殿下が複雑な顔をしている。


殿下は懐からネックレスの様に首にかけてあった金色の鍵を出すと、宝物車の厳重な扉をギィーと開いた。


窓の無い鉄張りの馬車は座る場所は無く、仲には大型のいわゆる「宝箱」みたいな木製の箱が4つと棚が両側に設置されていて、多くの袋が棚には乗せられていた。


殿下は一つの袋を手に取って開けて中身を確認すると、中は大金貨が何十枚と入っていた。


「こ、これ全部金貨なんですか?」


「金貨と銀貨に分けられているが、携帯が容易な100リーブル「ジャン・ドール大金貨」が大半だろうな。1リーブル銀貨や10リーブル「ランシア小金貨」もそれなりにある。全部でざっと30万リーブルと言ったところだったかな? 王国予算のおよそ3か月分だ。これを捻出するにはかなりの金貸しから高利で借りたんだが。」


普通の一般人の年間給与が60-70リーブル、裕福な家庭でも精々200リーブルってところだから、30万リーブルってちょっと頭がクラクラする金額だった。


「万の兵を動かすには全くに足りない。ましてや国を動かすにはこの程度は所詮最低限の軍資金だ。無駄遣いするわけにはいかないが。」


殿下が金貨を一袋引き下ろす。


「必要な経費には惜しむのも愚かだ。持て。」


手渡された袋はずっしりと重かった。


~~~~~~~~~~~~~~~


殿下はルギエラたちが守る町の門へと歩いて行った。


「待たせたな。ルギエラ、契約に応じて支払う前に一つ聞きたい事がある。お前はこの町の広場に何があるかを知っているか?」


「王室の軍資金を積んだ馬車でしょう? あんなに目立つ所に置いてあれば馬鹿でもわかりますよ。」


「この町に残られた衛兵と比較し、お前たちが馬車を襲い、奪う事は容易だったはずだ。何故そうしなかったのかうかがってもよろしいか?」


ルギエラはジっと殿下を見ている。


「まあ、敢えて言うなら理由は三つあります。まず、何十万リーブル相当の国家規模の鐘を盗んだら、ただでは済まないほどの追手が付く事が確実である事。今勝てて金を奪えても、ランシア王国は広い。ここから何百リア(数百km)も動かすのが遅い、目立ち過ぎる装甲馬車を持って逃げるのは正気の沙汰じゃない。仮に馬車をバラして中身をなるべく抜き取って逃げようにも、途中で検問が敷かれて取り調べられたら簡単には逃れられない。」


おいおい、かなり本気で考えていたな、コイツ。


「まあ、あたしは考えたわけよ。結局の所、大量の金を持って逃げるのは想像以上に難しいと思うし、危険度も高い。それに、傭兵団は信用が第一、自由都市においても契約の絶対性を守る事が市民権の第一前提。そんな大裏切りを犯しちまったら、言い逃れもできない。故郷に帰る事すら難しくなる。故郷を捨てて、信用を捨てて、家業を捨ててまで、こんな危険な金を手にしたいかって? まあ、あたしはそんな危ない橋を渡るのはごめんだね。」


殿下が高らかに笑った。


「ルギエラって言ったな。気に入った。気に入ったぞ。ヒューゴ、袋を渡せ。」


ジャラジャラと音を立てて俺はずっしりとした金貨の入った袋を手渡す。


ルギエラは袋を開け、中の大金貨一枚を取り出す。ランシア王家のシンボルである馬の一面と逆側にはシグベール陛下の肖像の入った大金貨をルギエラはまじまじと見る。


「ジョン・ドール大金貨か。この重さだと百五十枚はあるな?」


「数えもせずに大した物だ。その通りだ、大金貨百五十枚ちょうど、一万5千リーブルがそこにある。」


「王子殿下、あたしが契約上に請求したのは6千リーブルだったはずですよ。おつりでも渡しましょうか?」


「不要だ。残る9千リーブルは二つの意味で渡す。私は現在理性的で私の信用できる兵が何としても欲しい。ルギエラ、お前とお前の兵は信用に値すると考える。王家の宝物車を危険な状態にて守り切った褒美として与える。そして、これから様々な苦しい状況に覿面する可能性が高いが、私についていればこれからも正当な報酬と良い仕事には与える主人である事を示す気持ちとして受け取れ。()()()()()よろしく頼むぞ。」


ルギエラは片膝を付き、腕を背中に回して、目を下に向けて。


「謹んでお受けします、王子殿下。あたしも理解し合える聡明なお方にお仕えできて嬉しく思います。」


うつむいていたがルギエラが冷笑では無い笑顔を始めて殿下に向けていた。


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中世ヨーロッパ豆知識#15: フランスでは中世からリーブルは重さの単位とも貨幣の価値としても使われ、Livre Tournois が基本的な金の単位として使われた。リーブルはイギリスでの「ポンド」やドイツの「マルク」に値する。1リーブルとは本来は純銀「1リーブル」(80.88g) と同じと言う意味だったが、銀貨に加えられる純銀の量が上下した為、「リーブル」のお金としての価値は必ずしも純銀の価値とは一致しないと言う事になる。


1リーブル銀貨が「フラン」(Franc)と言う銀貨が近世で作られていた為、1フラン=1リーブルと言う認識より、フランと言う貨幣の単位がフランスでは受け入れられていった。


ジャン・ドール金貨のモデルは17世紀にルイ13世の時代に登場したルイ・ドール(Louis D'or) 金貨。ルイ・ドール金貨はいくつかのサイズで発行され、最大のルイ・ドール大金貨(10ルイ大金貨)は100リーブルの価値を持ちました。現存する10ルイ金貨は非常に稀で2010年にオークションで21万ユーロ(3600万円相当)で売られました。

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