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第12策: お師匠

「殿下、王都にも軍との合流にも絶対に行けないと言うのは何故ですか?」


「チェスの王駒は自ら動けるか? 他の駒に指示を出せるか? チェスにおいて王は重要だが、駒に過ぎない。現在私が諸将を頼り、その軍に入ればどうなる?」


「殿下の現状の配下は実質的に俺とベルトランのみ、と言いたいのでしょうか?」


「呑み込みが早くて助かる。その通りだ。私が今諸将の軍を頼りに行けば、周りはその将の兵に囲まれ、その者に完全に依存してしまう。周りに影響を及ぼそうにも金も兵も無ければ、身を護る事もできない。下手をすれば幽閉されて、全てが私の名のみを元に行われ、私は古の「何もしない(フェニアン)皇帝(エンプルール)」に成り下がる可能性も十分にあり得る。」


「では王都も?」


「王都は蛇の巣靴だ。忠臣のアレーヌ卿(熊オヤジ)を失い、竜騎兵団がバラバラの状態で王都に戻らば、私の身柄を巡って大貴族が争い合うだけの事で結果は変わらぬ。」

「では、殿下の意向は?」


「私が何をもっとも必要とするかは分かるか?」


俺らは少し言葉につまる。って必要な物があり過ぎだろう?


ベルトランが割り込んでくる。


「真の忠臣でしょうか?!」


(かね)だ。」


ベルトランの表情がしゅーんと落ちる。


「いや、まあ忠臣も重要ではあるんだがな。お前たちの忠誠、武と知には実際救われている」


王子はバツが悪そうだ。


「コ、コホン。まあ、つまり、軍資金が先決。その軍資金があれば恩賞を兵に与えて父上が不在の間の正統な執政として王政府の中枢に座り、権力を振るえる。何も諸将を軍事的にねじ伏せるほどの兵が必要と言うわけでも無い。

私を幽閉、つまりは拉致監禁でもしようとするのは明らかなクーデターであるので、ある程度大規模な兵を動かさねば事は起こせない。

その様な大それたことを起こせば、私に味方する貴族もでて来るので、そう簡単には私に手を出せまい。微小でも財力と兵力が1か0では天と地ほどの差が生まれる。」


「しかし、王都の国庫を資金源としてとりあえずは使えないとすると、殿下は何処へ?」


兵の確保にも政治の中枢にも行かないってのは完全に予想外だ。


「ここから北東120リユ(360km)ほどの距離にあるモンメラクの町へと向かう。そこには父上が小隊を配していてこの兵役の軍資金が保管されているはず。私か父上の許可なく移動することを厳重に禁止してあり、信の置ける隊に守らせてある。我々はそこにとりあえずは向かうぞ。」


な、なるほど。王子の命に部下が従うってのは当然の様に考えていたけど、それは格式や法だけでなく、金、兵等の「力」の裏付けあっての事ってわけか。それにしても殿下は精々高校3年か大学1年生ぐらいの年齢だろうか?王族だからと言って自分の立場の変化や弱さまで正しく把握しているとは・・・・


荷物を詰め終り、我々も馬に乗る。


「御意のままにです、殿下。急ぎましょう。」


ベルトランや俺は馬に乗り、北東への小道を進み始めたら、ベルトランが


「殿下、一つだけ懸念があるとすれば食料と飼い葉ですかね。どう急いでも。馬の脚でも120リユは3-4日はかかります。

今日の分の食料は何とかなりますが、明日以降は干し肉やパンはもうありません。とりあえず殿下を優先するって事にしてなんとかなりますが。まあ、数日食べなかっただけでは俺達は死にはしませんが、馬は違います。馬に草だけを食べさせて荷物や人を乗せて急がせると馬の方が途中でバテてしまいますよ。」


いつでもブレない馬への愛を感じるベルトラン。


「なるほど、それは盲点だった。この辺りは人口が少ない上に間道を進んでいるのではあまり集落に偶然あたる事を期待できないかも知れぬな。お前たちの方が南西は詳しいであろう、何か良い手はないか?」


俺は渋い顔で頭を抱える


「うーーーーーん。やっぱりあそこしか無いかなあ?」


「ははは、何を言ってるんだヒューゴ、師匠の家が近いだろう。あそこなら今夜にでも着けるし、事情を説明すれば飼い葉や食料も分けてくれるぞ。」


「まあ、そうなんだけど、あそこには色々とトラウマが」


「虎・馬?」


「いや、なんでもない。殿下、ベルトランの言う通り、今夜は馬の飼い葉や食料やを確保するのが重要かと思います。我々の剣術のお師匠が住んでいるので、そこに立ち寄り頼るのがよろしいかと思います。」


「師匠?」


「はい、お師匠は基本的に助けが必要な人を断る様な事はしないと思います。ましてや殿下に危害を加えたり売ったりするような事は絶対に無いと言い切れます。今夜までにはそこを目指すと言う事でよろしいでしょうか?ただ・・・・」


「ただ、何だ?変に歯切れが悪いぞ。」


ベルトランが笑う


「ああ、お師匠様は滅茶苦茶に無礼だからなあ、領主様の警備兵に逮捕されかかった時もあったっけなあ。」


「領主様のドラ息子を杖でぶん殴って郊外に引っ越した人だからな。」


「興味深い御仁の様だな。面白い、お前たちほど対照的な男たち二人を育てられる師匠がどんな者か知りたくなった。案内しろ。」


「御意です殿下。ハー――――。」


「まあ、そう悲観するな、ヒューゴ。王子殿下はお師匠の嫌いなタイプでは無いと思うぞ、俺は。」


「それは俺も思うけど、何つーか色々あるんだよ、あの場所には。」


~~~~~~~~~~~~~~~

「ハー―――」


「観念しろってヒューゴ。お師匠を頼るしかねえだろう、この状況じゃあ。ってか、俺が分かってるんだから、お前なら俺よりは100倍は良く分かっているだろう。」


「うるせえよ、お前はまだいいだろう、技が上達していったら師匠の満足を行く技を会得していけたんだから。俺なんてお師匠に横から『ほう』って子馬鹿にした表情で見下されてばかりいたんだぞ。褒められた事なんてねえって、うわ!」


ヒュンと音がして横の茂みから木の棒が鼻先まで伸びてきた。


「相変わらず予想外の展開に弱いな、ヒューゴ。それに敵騎が周りにいる可能性のある時はそんな大きな声で喋る様に教育したか? んん?」


まだ師匠の家まで馬で5-6分はあるはずだったので油断していた。


茂みから二マリとしたいたずら坊主の様な表情の小男がひょっこりと現れる。その表情とはよそに髪は真っ白な白髪で後ろに束ねられていて、顔は皺で覆われている明らかな老人である。一方で腕や足はしなやかな鍛え抜かれた筋肉に覆われ、動きはなめらかである。


その手には2メートルほどの長さの棒が握られている、型を治す為に何度も何度も叩かれた記憶のある、トラウマ物だ。


「あ・・・・師匠。」


「豪華じゃな、馬6頭連れか。馬泥棒でもはじめたか。」


「師匠、そりゃないでしょう。俺とベルトランが初陣に出たって伝書鳩でふみを送っておいたし、お師匠の事だから今ランシア軍がどんな状況か大体把握しているんでしょう。」


「ふん、まあ、大体の事はの。でも、こっちは予想外じゃな。」


「殿下、紹介させてください、こちらは俺とベルトランの剣術の師匠で・・・・」


「いや、紹介には及ばない。と言うか、この御仁と会う事は私は初めてでは無い。」


「これは殿下、お久しぶりでございます。7年ぶりですかな。陛下は息災か聞くのが礼儀かと思いますが、今回ばかりはそれどころでは無いようですなあ。」


「王室剣術指南役、王国四槍と竜騎兵筆頭騎士ユスタース・ド・レミィ老、お久しぶりです。」


は?はああああああ?



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中世ヨーロッパ豆知識#12: 中世フランス等ではほとんどの中世ヨーロッパの国家と同様に法の一貫性の概念は無く、一つの領主の領内から移れば、ほぼ別の国に行くような物で、法律も税率も変わり、国内を移動するだけで印税を取られる事も多くあった。


全国で一貫した法治国家への移行はナポレオンの「ナポレオン法典」、19世紀初頭までかかります。

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[良い点] ((((;゜Д゜))))))) [気になる点] (゜∀゜) [一言] _(:3」z)_
[良い点] 金だwwwww
[気になる点] たまに「て、に、を、は」のタイポが散見されます。 (例)王子がバツが悪そうだ。→王子はバツが悪そうだ。
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