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第11策: 罠

「今回はランシア王国の騎士団も大した事がありませんでしたね」

勝ち誇っているからかエルフ斥侯4名はあまり警戒心も見せずに大声で喋りながら俺達の潜む馬小屋へと近づいてくる。


「リチャード太子が15年も練りに練った戦略だからな。人間どもは平和を楽しんでいただけだったから全然進歩が無かったらまあこうなるだろう。」


「この辺りのめぼしい民家は全部他の部隊に先を越されていたので、馬小屋が一つ残っていて幸運でしたね。」


「馬でも残っていれば儲けモノですね!」


エルフ兵たちが喋りながら近づいてくる。


サッと窓の隙間から敵を見る。人数は4人。装備は革の鎧に剣、馬上で使うには適さない長弓。恐らく移動に馬を使い、下馬して戦うタイプの斥侯。


王子を連れている以上、弓x4を掻い潜って馬2匹で逃げようとするのはリスクが高すぎる。隠れていたら馬が確実に奪われ、逃走スピードが落ちたらそれだけ危険性が高まる。プレートメールの騎士で無ければ4人でも俺とベルトランで何とかなるか?キツイが回避は却下。ここは奇襲だ。


俺はベルトランと王子に馬小屋の入口の反対側に移って身を隠す様に身振り手振りで示した。ベルトランは親指を立てて王子と空いている馬の部屋の影に身を隠す。幼少から行動を共にしているとこの辺の意思疎通は簡単で助かる。


俺は俺とベルトランの馬の近くに身を隠す。


この場合懸念は二つ。敵の主力武器である弓を封じられる場所で勝負を決する事。飛び道具を持たない俺達は遠距離の撃ち合いになれば当然圧倒的不利だ。近接戦闘でカタをつける事。そして、敵に増援を頼みに行かせず、ここで勝負を決する事。


馬小屋に入った時点でエルフたちは馬が二頭残っている事に気付き、こちらに向かうはずだ。そこで俺が踏み出れば100%4人とも俺に意識が集中する。


そうすれば、ベルトランが背後から一人を切り伏せれば3対2になり、ベルトランの実力なら何とかなる戦闘になるはずだ。


チャンスは一回。失敗は許されない。


エルフたちの声が馬小屋に近づいてくる。


「お、馬が残っているぞ!」


足跡が近づいてくる。今だ!


なるべく大きな音を立てる様に馬小屋のしきりに付いた扉を蹴り開け、敵に切りかかる。


あれ?目の前にいるのは1,2,3。


4人目はどこだ?


全てがスローモーションに見える。


俺は剣を振りかざして前方の兵に切りかかる。この兵士は油断しきっていてほとんど反応ができていない。


後ろの二人は慌てて剣を抜きにかかっている。


ベルトランと4人目はどこだ?


居た!馬小屋の入り口で警戒していた為入口でとどまっている。


ヤバい、ヤバい、ヤバい、ベルトランが4人目に今切りかかっているが、4人目は抜刀して警戒していたのでさすがのベルトランもちょっと時間がかかっている。


シュバ!


俺の剣は反応する間も与えずに前方のエルフ兵を肩から胸にかけて斬り、そのエルフ兵は地面に転倒する。まずは一人。


だが、残る二人のエルフ兵は抜刀してすぐに俺に向けて切りかかってくる。


最初の左からのエルフ兵の剣は上半身をのけぞる事でかわしたが、右の二人めが胴に向けて斬りかかってくる。俺のロングソードでギリギリ受け止めたが、そのままつばぜり合いになってしまった。


しまった。やられる。


左のエルフが剣を振りかざし、無防備な俺の背中に向けて振り下ろすその瞬間、俺から見ても凄いスピードで後ろから影が横切り、エルフの首から血しぶきが飛んだ。アレク王子はトーーンと軽い足取りで着地し、返す剣でスルっと細長い剣が横から伸びてきて


「トン」


と俺の前の兵士の首を的確に刃が突き立てられる。


「ググ、グ」とほぼ音も無くエルフがその場で崩れ落ちる。


アレク王子の得物は細長い両刃の剣。通常のロングソードより一回り細く作られている様だが、名刀の様で頑丈に創られている様だ。どうやら鎧ごと吹っ飛ばすベルトランとは対照的に相手の鎧の弱点を的確に突く剣術の様だ。


そうだ、ベルトランは?


表の方に振り向くと、エルフ隊の隊長らしき人がベルトランに明らかに押されている。ひるんだ隙にベルトランが頭上にグレートソードを上段に構え、振り下ろすと両手で受けようとしたエルフ兵は受けた剣が弾き飛ばされ、ベルトランにほぼ両断されてしまった。


~~~~~~~~~~~~~~~


「イヤー手間取ってしまって面目ない」


「殿下、ご加勢いただき、本当にありがとうございました。」


「幼少より爺に叩き込まれた剣術と護身術だ。何もたいした事はしていない」

照れているのかな?


俺は外に繋がれたエルフ兵4名の馬を確認して


「でもこうしてみるとある意味幸いだ。馬が2頭で人が3人では離脱スピードが大きく限られたが、これで馬が4頭も手に入った。一人2頭あれば荷物を1頭、乗るのをもう1頭にして休憩を取らせ、はるかに速い速度で移動できる。これ以上エルフの斥侯に発見される前にここを移動した方が良いと思います。」


「うん、異論は無い。」


俺たちはテキパキと水、食料や物資を馬に繋ぎ始めると王子もモタモタとはしながらも自ら荷物を繋ぎ始めた。明らかに不慣れだが、自分の命もかかっている時に体裁を気にして家来任せにする様な愚か者でもないんだな。


「殿下、ここからはどちらへと?」


「まずお前たちの考えを聞きたい。どこまで現在の戦況と政情を理解している?」

来た! 殿下は孤立していて軍は散り散り。将軍も騎士団長もお側にはいない。ここで信用を得られてあわよくば?


「は、はは。先日のクレシアの戦いにて王国軍は大敗をし、軍の大半が散開してしまいました。恐らく短期的に急速に立て直す事は難しいかと思います。」


王子は荷物を馬に繋げながらも厳しい目つきでこちらを見ているが、意図的にオブラートに包まずに伝えた評価にも王子は反論はしない。こっちからは少なくとも好印象だ。


「エルフたちのバルガン公国軍の主力はグレンウッドの森にありますが、この地域では大規模な港はありません。それにそれなりの距離も本国からあり、ここよりランシア王国への侵攻を続けるつもりなら恐らく港の確保が急務かと思います。その最もバルガン公国の本土に近く、グレンウッドから攻撃できる地点は恐らく・・・・ベルトランと俺の故郷であるナオネトの港が最も大規模かつ好都合かと思います。」


荷物を詰め終った


「ナオネトの港か。ならエルフ軍は全軍でこのまま北上か?」


「殿下、エルフ軍は恐らくナオネトへとは全軍では向かえません。幸か不幸か、グレンウッドの森の東の領地のコルテ候領の軍が出兵を免除されたと聞いています。万の軍勢が東に控えているのに、グレンウッドの守りを丸裸にする事ができません。」

「なら、エルフ軍は東に向かってコルテ候と決戦か?」


「殿下、それもあり得ません。コルテ候が出陣を免れたのは去年の豪雨と洪水による不作が要因です。大規模な港を持たないエルフ軍はグレンウッドからコルテ候領まで250リユ(750km)の遠路を進撃する事は考えにくいですし、凶作の地域からは現地調達も行えません。万の兵で、しかも攻城戦を行うのは不可能かと思われます。」


「理にかなっておるな。ならそなたがエルフ軍の指揮をしていたならどうする?」


「兵を分けます。王国軍主力を撃退した今、ランシア王国に各個撃破される心配はありません。なので、数千の兵を海岸沿いを北上させ、ナオネトを攻めさせ、1万ほどの兵でコルテ候ににらみを利かせます。」


ベルトランが何故かドヤ顔をして王子を見ている。


「うむ、素晴らしい分析力だ。驚いた。地方の小貴族にも兵学の知識を持つ家臣がいいるとは心強い。それに・・・・」


「殿下?」


「いや、ここで隠すのはかえって後に誤解を生みやすいのでそなたたちには話しておこう。決して他言無用だぞ。」


ごく。


「私は、兵学や戦術を学ぶ事は父に固く禁じられた。護身術や剣技は王子としての体裁を保つためにも重要と許されたが・・・・」


これは俺もベルトランも予想外だった。ベルトランが遠慮なく踏み込む。

「え、しかし殿下はお世継ぎですよね。それなのに何故?」


「ふふふ、非合理な物だな」


王子は自分を嘲笑する様な何とも言えない表情を持ち、空を見上げた。。

「父君は『女の子』に戦場の事を学ばせる事を受け入れられなかった。生活の全てにおいて男性である事を強いていながら、王たる者に必須の知識を与えようとしないとはと何度も反論したが、お前に国を渡す頃には平和な王国を用意しておくと何度も口癖の様に言っていた。そんな事を保障できるはずも無いのに。」


王子はキッと俺達を見据える。


「なので隠し事はこの件ではしない。私は軍事戦略については判断が難しいが、良い案や解析がわからない痴れ者では無い。」


「では、ナオネトへの脅威へ対処していただく為に殿下は北東の王都へ向かいますか? それとも南西のコルテ候の軍へ向かいますか?」


「ヒューゴ、私はそのどちらの選択肢も現状では絶対に取れない。」



挿絵(By みてみん)

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中世ヨーロッパ豆知識#11: 中世ヨーロッパでは馬は最重要装備の一つで軍馬は非常に高額だったので、失ったり死んだりしたら大変だった。なので、領主と騎士や傭兵の契約には一種の保険が行われていて、騎士や傭兵が戦役中に馬を失ったら、その馬の価格を領主が支払う義務が生じた。


事前に馬の価格付けについて合意が行われた為、当時の領主たちの記録には何千と言う馬の価格の帳簿が付けられていて、現代の歴史家には馬の種類、持ち主の地位等によって、どの様な馬に乗っていたかが分かり、非常に歴史家に重宝されている。

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