プロローグ
……遠くで声が聞こえる。
「犯人及び同人所持の凶器確保。負傷者1名、現在救急要請中」
「応援はまだか!」
「先輩!先輩!俺のせいで…!」
ーー――
――
俺の名前は佐藤和真、30歳。
身長172センチ、体重65キロ。
周囲からは「まじめそう」とか「優しそう」など、可もなく不可もなくな評価で、それなりにモテ期もあったりするごく平凡な男である。
基本的には真面目で、上司や後輩からも信頼されている、と思う。
職業は地域課の警察官、いわゆる「制服」ってやつだ。
階級は年数が経てば誰でもなれる巡査長だが、現在巡査部長昇格に向けて、昇任試験の真っ最中であり、俺は難関と言われる筆記をパスして面接試験も終わったところだ。
間違いなく合格、とも上司から言われていて、巡査部長という道はもうすぐ、だといいな。
ちなみに彼女はいない。
けど、この前後輩に誘われて行った初めての合コンで知り合ったゆきちゃんと二人きりで会う約束をしたばかりだったり。会社以外での繋がりというのは皆無な為、人並みに緊張していたりする。
「ついに素人童貞脱出か!?」と気の置けない友人からは冷やかされたりしていたりするがそれはナイショだ。
そんなこんなで俺は未来あふれる将来有望な人材なはず……
……だったのに!
そう、俺は今死ぬ前の走馬灯というのか、頭がフルスピードで回転して、記憶やらなんやらが溢れ出つつ、今現在の状況を実に的確に判断してくれるという、所謂思考加速の状態だ。
血もどんどん流れて、体が冷えていくのが分かる。
絶対に助からないなコレ。
……まさかこんなところで人生終了とは。
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こうなる少し前の行動を反芻してみよう。
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某日午前2時。
俺と後輩の浜田は、夜食の買い出しのため、一般人に変装して、裏路地を歩いていた。
「先輩、さっきの事案大変だったっすねー。」
「まあな、男がいない状態での豹変っぷりが半端なかった」
「女の人でも酒の力で大暴れすると凄いチカラ出るもんすね。俺、もうヘトヘトになっちゃいました」
大学を出て、新卒ストレートで採用され、警察学校を卒業して、警察署に赴任したばかりの浜田と、中途採用からなんだかんだでまもなく5年経とうとしているベテラン巡査長の俺。
浜田は23歳、俺は30歳、7つも違うためか、何を話すにも新鮮で、割と気もあったりする。
一度勤務すると泊まり、非番、休みとなるが、ほぼ2日一緒にいるようなもので、家族よりも長く過ごす相手になるんだし、それなりに仲良くなるのは当然かもしれない。
「まあ、警察官やってるとそんな事もあるさ。誰も怪我しなかったんだから、応援に来てくれたみんなも含めて、よくやってくれたよ」
俺たちは、先程の「酔っ払いが大暴れ」という事案内容について話しながら歩いていた。
会話しながら俺は「今日はなんだかいつもより暑いなぁ」などとぼんやり考えていたところ、前方から歩いてくる大柄な男を発見した。
--年齢は30歳前後か、身長は確実に180を超えている、体格はラグビーでもやってそうな大柄だ。
金髪で服装も上下ジャージという、いかにもか「俺、ちんぴらっす!」な風体が体格と合っていない。
男は顔に赤みが差しており、体も少し揺れ、酒に酔っているような雰囲気を出している。
と、怪しいからと言って実際に何かしている訳では無いのだが、間約30メートル付近でふと男に視線を向けると、男と目が合った気がした。
……?!
瞬間、奴は俺を見てなぜかぎょっとした風な動きを見せた。そして一瞬の硬直の後再びこちらに向かって歩きだした。
(……こいつ、こちらが警察官だと気づいたか?もしや前科アリ?酔っているのはフェイク?薬?距離は20メートルくらい、職質のためもう少し近くに……。)
俺は、平静を装いながら普通にすれ違う風に近づきつつ、浜田に目配せして、職質の体制に入った。
相手はこちらを見てぎょっとしている。
相手が同様した瞬間からしばらくの間は素直な応答となる「動揺の90秒」とは少し状況が異なるが、今話しかけても素直に応じるかもしれない。
……距離は約10メートル、逃走されても一本道、浜田は足に自信があるし、問題なくいけるか。
「君、どうしたんだ?ぎょっとした顔して」
と、俺はできるだけ平静に努めて声をかけた。職務質問の基本である「まさに相手と話したかったという風な表情や声色」を装うのも忘れない。
しかし、男は声をかけられるや否や、ジャケットのポケットから鋭いダガーナイフを取り出し、あろうことか無防備な姿勢で立っている俺の後輩に向かって突進してきた。
(ヤバい!あれはダガーナイフ!!2人とも買い出しだからって防刃チョッキを脱いでる時に限って……!いきなりで浜田も頭が追いついていない。これは……ヤバい!)
俺は加速する思考の中、体が勝手に反応し、浜田の前に踊り出た。
「先輩!!!!!」
当然奴は止まることも無く、前に出た俺の胸に向かって突進、グサリと吸い込まれるように俺の胸にナイフが刺さっていった。
(…あー痛てーー!……これは俺が死ぬパターンだな。一瞬のはずなのに……。時間がゆっくりに感じる…。様々な情景が浮かび「これで良かったのか?」とそれぞれの回想シーンに疑問形で声が投げかけられる。これが走馬燈ってやつなのか……?オレまだ30歳なのに……。まだまだこれからって時なのになあ……。……浜田よ、死んでも凶器は離さないから奴の逮捕頼むぜ!)
俺は刺されながらも、力の抜けてきた体に必死で命令し、ナイフを掴んで、奴に体当たりした。
ドサッ!
相手は倒れはしなかったもののよろめき、俺は倒れた。
俺は体を「く」の字にしており曲げ、ナイフの奪取を防ぐ。
「くそっ!!」
奴は倒れこそしなかったものの、ナイフを離し、よろめいた。
更に体を探るような動作をしているところ、まだ他にも凶器を持っているのかもしれない。
パァン!
「動くな!動くと当てる!」
学校出たてとは言えさすが警察官、さすが俺の相棒、浜田はすぐさま銃を取り出し相手に威嚇射撃をした。
意識が無くなりそうな俺を前に連携を守ってくれた。
銃声に恐怖したのか、男は動けない。
(後は応援を呼んで相手を確保、これでチェックメイトだ。 事後の捜査で色々出てくるだろう。)
「先輩!先輩!目を開けてください!寝ちゃダメです!起きて、頑張ってください!」
俺は、冷たくなっていく体と、暗くなる意識を感じながら、俺にしがみつく相棒や、その後応援に来た同僚の声を感じて、色々と考えていた。
(……俺にしがみついたら血がついてしまう、俺の判断が甘かっただけなんだからお前らが気にする必要はないんだぞ。)
(…あー、俺死ぬんだな、人を助けて死ぬっていうのは警察官名利に尽きるし、相棒を守れて良かったとは思う。けど、自分が死んだらやっぱり意味ないか……。けど、けど……。)
……そろそろ意識が遠のいてきた。
(……やっぱり、まだ生きたかったな…。父さん母さん、先に逝ってすまない……。)
--すっと、意識が闇に落ちた。
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…
……
………
…………ん?
……………んん?
(あれ?ここは?おれはどうなった?)
(…なぜ意識があるんだ??もしかして生きてるのか??)
楽観的な考えが浮かぶがすぐに思い直す。
(…いや、アレは確実に死んだはず…。これはまさか死後の世界ってやつか?)
……目を開けるとそこは、、、
「ようこそ。あなたは死にました」
新しい物語が始まる。
警察官設定が今後生きてくることはなさそう((;'∀')