プロローグ
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住宅街にある一般的な戸建て自室で寝ている茅野陽太は、4月の今日から高校1年生として期待と不安の精神状態の影響からか、幼き頃に出会った女の子達の夢を数年振りに見ていた。
いつもの公園で友達で近所に住む斉藤義弘・・義君とボール遊びに夢中になっていると、彼が蹴ったボールが頭上を越えて公園の隅へと転がっていくのを陽太は必死にボールだけを見て追いかけていた。
誰にも当たることなくボールは勢いを失い止まったところで追いついた陽太がボールを手に持ち上げ、偶然目を向けた先に初めて見る女の子3人が遊ばずただ隅っこで立っている光景に陽太は気になり好奇心から近付いて声をかける。
「ねぇ、遊ばないの?」
「「「 ・・・・・・ 」」」
陽太に声をかけられた5才くらいの女の子3人は、それぞれ髪の色と瞳で陽太を見つめるも黙ったままだ。
「・・遊ばないの?」
純粋無垢で声をかける陽太は、ただ公園に来て遊ばないのは勿体無いなと思っていると、最初に応えたのは感情が読み取れない冷ややかな表情を向ける銀髪銀目の女の子だ。
「・・あのね、こわくないの?」
「こわい? なにが? 公園は、たのしいよ?」
「・・・・ううん。わたしたちのこと」
「・・キミのこと? ぜんぜん。おばぁちゃんちで見た雪みたいにキレイ・・」
「そ、そうかな?」
「うん。なが〜い髪の毛・・すっごいサラサラ〜だね」
無垢な笑顔で応える陽太に銀髪少女の冷ややかな表情が本人が気付かないほどであるも、僅かに照れたような感じに緩ませていた。
「ねぇ、わたしは? わたしは、どう見える?」
銀髪少女の右に立つ紅髪銀目少女は幼くも警戒した雰囲気を漂わせているのは、陽太を毛嫌いしているのではなく恥じらいを隠すためだった。
「・・赤い髪の子・・初めて見た・・」
陽太の素直な感想に紅髪碧眼少女はまたいつものように変な目で見られてしまったと想い、俯きながら微かな泣き声で呟く。
「・・赤じゃなくて、紅なのに」
「けど、カッコいいね。ボクの大好きな色だよ!」
「はにゃっ・・だいすき?」
パッと顔を上げて顔を紅潮させる紅髪少女は、陽太と視線が重なると強気な性格であっても耐えれずクルッと回転し背を向け照れているのを必死に隠す。
「・・・・えっと・・えーっと・・」
銀髪少女の左に立つ黒髪黒目少女は3人の中で自己主張が弱く、モジモジしながら陽太をチラチラ見るだけで2人のように聞きたいけど聞けず言葉を詰まらせている。
「・・ボクと同じ黒髪だけど、凄いキラキラしてて可愛いね」
「はわわわ・・わたしの髪が可愛いの? 真っ黒でカラスって言われてるのに?」
「カラス? そうかな〜違うと思うよ。だって、ココの輪っかキラキラしてて天使みたいだもん」
陽太は両手で抱えていたボールを地面に置いて、黒髪少女の太陽で輝くエンジェルリングを優しく撫でる。
「ひゃっ・・」
母親と同じ黒髪をカラスと揶揄されながらも自慢の黒髪を家族以外の男子に触らせることがなかった黒髪少女は、初めて会った陽太に触られても嫌悪感は皆無で、むしろもっと触って欲しいと思いそのまま無抵抗で触らせている姿に銀髪少女と紅髪少女の2人は驚いていた。
「・・そうだ、ボクの名前は陽太っていうんだ。よろしくね!?」
「そう・・私は、ゆきな」
銀髪少女は、ゆきな。大河原雪菜といい3人のリーダー的な存在であり、陽太より1才年上である。
「く・・くみ。アンタとなら遊んでいい」
照れを隠すように上から目線で応えたのは、相坂紅美。雪菜と同級生であり、紅髪という理由でいじめられてボッチでいるところに雪菜と出会い仲良くなった。
「・・・・」
陽太は残りの黒髪少女に視線を向けるも、チラチラと視線は重なるも相変わらずモジモジするだけの彼女に陽太からキッカケを作った。
「名前、教えて?」
「・・みう」
俯き上目遣いでチラチラ見る黒髪少女は、群上美羽。彼女も雪菜と紅美と同級生で年上だ。
「これからよろしくね! ゆぅーちゃん! くぅーちゃん! みぃーちゃん!」
「「「 うん!!! 」」」
初めての繋がりを結べことができた陽太達は、公園の隅から遊具へと一緒に歩いていると陽太を待っていた義弘が戻って来る陽太を見つけ駆け寄って来る。
「・・陽ちゃん!」
「あっ・・義くん!」
陽太の幼馴染である義弘が近付いて来たことで、雪菜達3人の表情は強張り陽太の背に隠れようと後ろに並ぶ。
「・・陽ちゃん、知ってる子?」
「うん。さっき友達になったんだ」
「ふ〜ん。あのね・・今日、習い事があったの忘れてたんだ。だから、先に帰るね?」
「そうなんだ・・また遊ぼうね?」
「うん、ごめんね陽ちゃん」
「いいよ!」
「バイバイ〜またねー!」
「バイバイー!」
手を振り去って行く義弘を見送る陽太は、ボール遊びの相手がいなくなることに残念がるもさっき出会った女の子達と遊ぶことにした。
この日をキッカケに陽太は義弘と公園で遊ぶ時間よりも雪菜達と遊ぶ時間を増やしていき、公園で1人待ち後から来る3人と毎日遊ぶ日々を過ごした。
ある日の夕方にいつもの公園に行く途中にあるスーパーに立ち寄り、お菓子コーナーでお気に入りの当たり付きふ〜せんガムを買い握り締め公園のベンチに座り陽太は3人を待つ。
「「「 陽ちゃん!!! 」」」
「・・あっ・・ゆぅーちゃん! くぅーちゃん! みぃーちゃん!」
ベンチに座る陽太を見つけた雪菜達は笑顔で手を振り駆け寄り、3人の姿を見つけた陽太は立ち上がり笑顔で3人を出迎える。
「ねぇねぇ、みんなで一緒にコレ食べよ?」
陽太は公園に来る途中で買った、当たり付きふ〜せんガムを見せる。
「「「 ガム??? 」」」
「うん、当たり付きなんだよ」
差し出す小さな手に1個ずつガムを置く陽太は、ベンチに並んで座り一緒に包装紙をめくっていく。
「・・それでね、この銀紙を取ってこのクジを広げると・・・・あっ当たった! 見て!」
陽太はガムをパクッと口の中に放り込みながら当たりくじを3人に誇らしげに見せる。
「ホントだぁ、当たるとどうなるの?」
雪菜は動かしていた手を止めて、左隣りに座る陽太を見る。
「買ったお店で、おなじの1個と交換してもらえるんだ」
「そんなの、わたしのだって当たりだもん!」
負けず嫌いの性格らしい紅美は紅髪を揺らしながら呟き、右に座る陽太を一瞥して雑に捲りくじを取り出す。
「くぅーちゃん?」
小さな右手で取り出したクジを見つめる紅美は無言のままでいる姿に、陽太はハズレてしまったんだと察する。
「・・・・あたっ当たったー!!」
当たりくじが出て満面の笑みを見せる紅美は、自慢気に陽太の眼前にくじを掲げ見せる。
「おんなじだね、くぅーちゃん」
「んにゃ・・おんなじじゃなくて、当たりだもん!」
陽太から顔を逸らす紅美は、思った以上に顔が近い陽太に驚き顔を逸らしギュッと当たりくじ握り締める。
「・・・・わぁ〜わたしも当たりくじだぁ」
雪菜も当たりくじが出るも紅美とは違い、控えめの声で呟き感情がわからない微妙な表情で陽太に見せる。
「やったね、ゆぅーちゃん」
「んっ・・うれしい」
3人に当たりくじが出たことで最後に自分だけ違ったらどうしようと既に涙目になり、綺麗な黒い瞳から大粒の涙が溢れそうな美羽の手は震えている。
「・・みぃーちゃん?」
「ぁぅ・・」
陽太に呼ばれてビクッとする美羽は力無く俯いていた顔をゆっくり上げて陽太を見つめようとするも、滲む視界に彼の表情を見ることができない。
「みぃーちゃんも絶対当たりだよ!? ボクがみんなのために選んだから」
子供ながら根拠のない自信を見せる陽太に美羽は涙を拭いコクリと頷き、ハッキリと見えるようになった視界でさっきまで震えていた手はピタッと止まり銀紙を捲っていく。
「・・・・」
「みぃーちゃん?」
「・・・・当たり」
「やったね、みぃーちゃん!」
不安でいっぱいだった美羽は押し留めていた感情が溢れ出し、ポロポロと涙が頬を伝わり地面に落ちた。
4人全員に当たりくじが出た奇跡を喜び合って、このまま公園で遊ぶ前に陽太はスーパーに行って効果しようと誘うも、1人の少女の答えは違っていた。
「ようちゃん・・」
「みぃーちゃん、どうしたの?」
自己主張が少ない美羽の言葉に陽太と雪菜そして紅美は、彼女の言葉を待つ。
「・・あの、あのね・・わたし、コレを御守りにしたいの・・ダメかな?」
「御守り?」
「うん・・」
「うん、いいよ! そしたらさ、みんなでくじに名前書かない?」
「なまえ?」
陽太の提案に美羽は聞き返す。
「そう、なまえ・・みんな一緒に当たったから」
「「「 うん!!! 」」」
陽太の提案に3人は頷き次の日に黒ペンを家から持って来た陽太は、公園のベンチを机代わりにしてくじに名前を書く。
陽太が持つ当たりくじには、ようたと書いた後にゆきな・くみ・みう、全員の名前を。
雪菜が持つ当たりくじには、ゆきな・ようた。
紅美が持つ当たりくじには、みく・ようた。
美羽が持つ当たりくじには、みう・ようた。
幼い字で名前を書いたくじをずっと大事に持っていようと約束し、さらに距離が縮まった4人が公園で遊ぶのが日常の一部となっていくも、ある日突然に別れの日を迎えてしまったのだった・・・・。
「ゆぅーちゃん、くぅーちゃん、みぃーちゃん。バイバイ、元気でね」
陽太はいつも遊んでいた公園で3人にサヨナラを告げていた。
「ようちゃん、行かないで・・ぅぅ・・ヤダよ・・寂しいよ・・」
3人並び立つ少女の真ん中にいる銀髪少女はポロポロと涙を流しているも、夢を見ている陽太は女の子の名前が思い出せない。
「ようちゃん、いつもの笑っている顔を見せてよ・・くぅーだって、お別れしたくないよぉ」
左に立つショートヘアの紅髪少女は、命令口調で普段から気が強い子で一度も陽太との勝負事で負けたことがなく、活発な女の子だったけど今はその強気は影もなく泣いているも、光景を第三者的に見ている陽太は彼女の名前も思い出せない。
「ようちゃん、男の子は悲しい時だって、カッコよくいなぎゃ、ぅぐ・・ダメにゃんだからにぇ・・」
右に立つ濡羽色髪を腰まで伸ばした女の子は、小さな手で陽太のシャツを離さないようギュッと掴んでいる。
そんな彼女の顔を見ても夢を見る陽太は彼女の名前も思い出せず、幼き自分が女の子に言葉を発するのを見守ることしかできない。
「ぼ、ボクだってみんなとお別れしたくない。みんなのことが大好きだから。ずっと一緒に居たいんだよ!?」
「「「 ようちゃん!!! 」」」
幼稚園生の女の子3人がお別れを伝える幼き頃の陽太と別れるのが嫌で抱き締める光景を少し離れて見ていた保護者達の1人が陽太を女の子から離しながら謝り、公園の駐車場に停めていた車へと乗せる。
車が動き出すわずかな時間に後部座席の窓を開けた陽太は、走り出す車を追いかける3人に最後の言葉を力一杯発した。
「ゆぅーちゃん! くぅーちゃん! みぃーちゃん! みんな大好き! バイバーイ!!」
滲む視界の中で元気いっぱいの笑顔を見せながら手を振り、涙を流し泣き叫ぶかのように応える女の子3人の姿が見えなくなるまで手を振り続け、風の音で3人の声が聞こえなくなり姿が見えなくなった瞬間に街の風景が暗転する・・・・。
「んなぁ! はぁ・・はぁ・・はぁ・・」
過去の幼き頃の思い出の夢から目覚めた茅野陽太は、見慣れた天井を見ながら乱れた呼吸を整え新たに始まる高校生活の初日の朝を迎えたのだった・・・・。