五話「あなたのお名前は」
番外編、そして、「鍵はあなたが持ってる」最終回です
そうしてヴィルが夜空を翔けていると、二人ほどの騎士が一人のフードを被った人物を守るように走っていた。
「恐らくあれだ……」
そう言ってヴィルは二人の騎士たちに照準を合わせ、火でできた槍を発射する。その槍は鎧をいとも簡単に貫き、辺りには焼けた肉の臭いが立ち込める。
「お前が手を下すか?」
「……うん」
そうして慌てふためくフードを被った人物の前に、シャロンとヴィルは立ちふさがる。そして、シャロンの姿を見たそのフードを被った人物は、顔を表した。
「シャロン!私だ!お前の父親、だ……」
「うん。間違いない。お父様だ」
「だ、誰なんだその者は!それにその男の頭……角が生えているじゃないか!まさか!お前、悪魔に魂を売ったのか!」
「うるさい。周りに聞こえるだろう」
そう言ってヴィルはあたりに防音結界を張り巡らせる。すると、国王は顔を引きつらせて、後ずさりした。
「お父様……」
国王が後ずさりすると、シャロンが一歩前に出る。
「私はいつもいつもあなたたちにうんざりしていました。私を心配しているつもりでも、内面では全く心配していない。私をなんとも思っていない。だけど、リンだけ、リヴィアだけ、そして、彼だけが!私と向き合ってくれました……」
「ま、まて……」
「もう限界だった。あんな場所から一刻も早く出たかった。だから、私の魔力を代償に、彼と契約しました」
「なっ、そんな馬鹿な?!お前は、魔力が全くないはずだぞ!」
「はっ!人間ってのはつくづくバカだ。確証がないことは、それっぽい理由があれば簡単に信じる。……いいか、教えてやる。こいつの魔力を測った物の上限よりも、こいつの魔力量が多かった。ただそれだけだ」
「そ、そんなの聞いたことが……」
「こいつを入れて四人目だ」
「……な、なんのことだ!」
「何万年も生きてきて、魔力測定の魔道具の上限よりも、魔力量が多かったのは」
「ねぇ、早くしないと騎士が来ちゃう」
「ああ、そうだったな。それじゃあ、こうしてみろ」
そう言ってヴィルはシャロンに指を鳴らすときの手の形を作らせる。そして、それを国王の方へと向けさせる。
「や、やめろ、何をするつもりだ!」
「シャロン。お前の心臓から、その指先へ魔力を流し込め。全身をめぐっている魔力じゃなく、心臓にずっととどまっている、命の源のような魔力を」
「うん」
「そうして今から言う言葉を口に出せ。詠唱は、周りの魔力を揺らし、威力も上がる」
「ええ」
「やめろ!やめるんだ!」
「爆発と言いながら、指を鳴らせ」
そう言われ、シャロンは指にグッと力を込める。心臓から何か熱いものが噴き出してきた感覚に陥る。そうして指先にその熱い何かがたまり、それを放出するように指を鳴らす。
「爆発」
その瞬間、とてつもない爆発が起きる。しかし、ヴィルが結界を張り、周りにはほとんど被害は出なかった。ただ、国王の体は、爆発の影響で肉塊と化し、地面にいくらか血や肉がこびりついていた。
「よくやった」
そう言ってヴィルはシャロンの頭をなでる。その行為に、シャロンの頬はボッと熱くなり、顔が真っ赤になる。
「どうした?」
「い、いいえ……それより、早く、逃げま、しょ、う……」
その瞬間、シャロンは気絶してしまった。原因は魔力の使い過ぎ。異常を使う時に、オドを使いすぎてしまったのだ。一歩間違えれば死んでいたかもしれない量だ。
「ったく……あぶねぇな」
そうつぶやいて、紅い目をした悪魔はシャロンを連れてその場を離れた。
* * *
「それからしばらくして、メジケリール王国で起こったことが世間に出回った。世間に出回った事件の犯人はメジケリール王国の体制に不満を持っていた革命軍。しかし、真犯人は未だ捕まっていない。しかし、真実は……」
そう言ってリヴィアはフーと息を吐いた。話を聞いていたグレイが、笑いながら、
「あまり見過ごせない事件だけど、それを報告しても信じてもらえるかどうか……それに、信じてもらえたとしても、勝てる相手ではないでしょうね」
「ええ。ですから、私は吹っ切れてたまに様子を見に行ってるんです。あの男が何かシャロン様を不機嫌にさせていないかどうか」
そんなことを言うリヴィアに、グレイは笑う。そんな時、喫茶店の扉が開いて、客が入ってきた。リヴィアとグレイは特に気にもせずに話していると、とあるテーブルに座っていた客が突然立ち上がる。そのまま帰るのだろうか?とリヴィアが気に留めていると、その人物は喫茶店に入ってきた客に話しかけていた。
「あれ?……シャロン様の娘さん……」
「ほんとだ。それと、話してる人は誰だろう?サラちゃんの知り合いかな?」
そう話していると、リヴィアは妙に引っかかるその客に話しかけに行く。
「あの、ここじゃお客さんの迷惑ですし、どこか席に座って話した、ら……」
そうしてリヴィアがその客の顔を覗き込んだ時、思わず涙が出そうになった。そうして、リヴィアはその人と、サラを連れて喫茶店の外へと出ていく。
「リヴィア?」
「お、お久しぶりです、リンさん」
「え?え?」
この状況でどうしてそんなしんみりした雰囲気になるのかわかっていないサラは、ただ困惑していることしかできない。
「あ、あのリヴィアさん?この方は?」
「ああ、この方は私の元上司。リンさん」
「えっ?ってことはこの人も騎士?」
「いやいや。もっと昔の仕事の方だよ」
「あ、使用人の時ですか?」
「そう。それで、リンさん。どうしてサラちゃんに話しかけてたんですか?」
「そうね……どうしても、あの方の姿が重なって……」
「……」
あの方。と聞いて、リヴィアは黙り込む。今、シャロンが生きていると言うべきだろうか。それとも、ずっと黙っておくべきか。それを考えていた。
「あ、お母さ~ん!ここの喫茶店だよ~!」
サラのその声を聴いた瞬間、リヴィアは一瞬にして汗をかいた。今鉢合わせたら絶対に厄介なことになる。そう思い、リヴィアはサラにコソコソと必死になりながら話す。
「この人はシャロン様の顔を知ってるの。だから合わせないで……」
「な~に話してるの?」
(あ、終わった……)
幽霊のようにいつの間にか背後に立っていたシャロンが、リヴィアに話しかけてくる。リヴィアがちらりとリンの方を見ると、リンは亡霊でも見たかのような表情をしている。
「リンさん、驚くのは後にしてください。私が話しますので。それと、貴女も一緒に」
「は~い。それじゃあサラ。先に入って待っててね」
そう言ってリヴィアは、リンとシャロンを連れて人のあまりいない公園の方へと歩いていった。残されたサラは、リンに話しかけられた内容を思い出す。
* * *
『あの、失礼ですが、あなたの名前は……』
『サ、サラ・ラーミアですけど……』
(危ない危ない。危うく本名を言うところだった)
『ああ、そうですか……すみません、昔、使えていた人に似ていまして……』
『そうなんですか?でも私は庶民出身なので、それはないと思いますよ』
『そうですか。すみません、変なことを聞いてしまって』
『いえいえ』
* * *
「先に中で待っておこう」
そうつぶやいて、サラは喫茶店の中へ入っていった。
リンは真実を聞かされ、シャロンに泣きついたそうです。そして、リヴィアとシャロンは元々何泊か王都に泊まっていく予定だったので、次の日、リンと二人は遊びに行ったそうです。




