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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第八章【混ざりゆく異常そして、守る者たち編】
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おまけ話「模倣できぬ宝物」

「姉さん、私って、どうやって生まれたの?」


 そんな何気ない疑問を、アネモネはプリ―タスに投げた。アネモネは、悪魔の生まれ方を知っているが、自分の生まれ方にはあまり興味がなかったのだ。


「どうしたの?急にそんなこと言いだして……前はそんなこと聞いてこなかったのに……」


「いや、サラがこの前私が生まれた経緯がどんなのかを聞いてきて……」


 悪魔の生まれ方はいくつかパターンがある。一つ目は、知能のなかった魔物が、何らかの影響で知能を持ち始め、悪魔に成る、いわゆる"進化"のパターン。二つ目は、悪魔と悪魔同士の生殖活動。いわゆる"出産"のパターン。三つめは、様々なことが原因で濃い魔力が一か所に集まって悪魔が生まれる、いわゆる"形成"のパターン。四つ目は悪魔との契約で人間が悪魔に成る、いわゆる"変化"のパターンの四つだ。


「アネモネには四つくらいの悪魔の生まれ方を教えたけれど、それの"形成"のパターンね」


「自分で聞いておいて、今更だけど……なんでわかるの?」


「そりゃぁ……あぁ、少し詳しく話すわね」


 そう言ってプリ―タスは紅茶を一口啜り、話始める。


「まず、あなたが使ってる異常(アノマリア)は、あなたが使うのが初めてじゃないの」


「どういうこと?」


「形成のパターンでは、元になった魔力に見た目や性格、能力が似ることがあるの。だから、この能力を使ってる悪魔が、昔にはいたのよ」


「昔……」


「ええ、とっても昔に……」


 そう言ってプリ―タスは悲しそうにアネモネの顔を見た。その顔は今にも泣きそうだが、どうしてなのかは少しだけ察することができた。


「カテナ・トパーズ……彼女は、そうね。昔のあなたとは真反対の性格ね」


「昔の私と反対?」


「ええ、昔、あなたは特に生きてるだけだったでしょう?」


「ま、まぁ……」


「だけど彼女は、生きている中に楽しみを見つけるのが上手かった。というより、見つけに行っていた。契約者を持っていた時も、その契約者と楽しそうに過ごしてたわよ。今のあなたたちと同じで」


 そう言ってプリ―タスはにこりと笑いかける。


「正直、あなたを見つけた時は驚いた。何万年も経って、カテナとそっくりな見た目の悪魔と出会うんですもの。すぐにエタ―ルに聞きに行ったわ。「カテナの魔石があったのか?」って。だけど、ただの思い込みだった。カテナの魔石は、私の目の前で砕かれたのに……淡い期待を覚えて、むなしくなった」


「じゃあ、私を育てたのは、そのカテナと似てたから?」


「いいえ……私って、結構切り替えが早いのよ?」


「切り替えが早いわりに、昔の仲間の話をしたら、すぐに悲しそうな顔になってるよ」


「そうだったの?全然、気が付かなかったわ」


「……」


「さ、もう行きなさい。サラちゃんと旅行中なんでしょ?」


「……わかった。それじゃあ、またそのうち帰ってくるから」


「ええ……お土産、待ってるわね」


「わかったよ」


 そう言い残し、アネモネはプリ―タスの住んでいる小屋を去っていく。一人取り残されたプリ―タスは、そのまま机に突っ伏した。


「……はぁ~…だめね……昔のことになると、どうしても……」


 どれだけこの悪魔が当時を"模倣"しようとしても、亡き者はもう帰ってこない。魔法でごまかしても、ただむなしくなるだけ。

 そんな時、プリ―タスの家の扉がノックされ、声が聞こえてくる。


「プリ―タス、今いるか?」


「ヴィル?どうしたの?」


 声の主は、サラの父親であるヴィルだ。どうしたのだろうと、プリ―タスが疑問に思っていると、ヴィルがこんな提案をしてくる。


「妻が、やることがあると言って出かけて行ってしまった。それで、行く前に妻が、「たまには友達と遊んで来たら?」と……サームノムとエタ―ルにはもう言ってある。あとはナトゥーラと、ノティーツィアだけだ」


「……ソノスは入れてあげないの?」


「奴を入れるとめちゃくちゃになるからな」


「……じゃあ、私が誘ってくるわね」


「やめてくれ……」


「……いえ、絶対に誘うわ……それで、"皆"で楽しむの。カテナが言ってたでしょ?「何人かが遊べば、絶対みんなが集まる」って。人数は多ければ多いほど集まりやすいと思うの。買い物でも何でもいいわ。のんびり日向ぼっこでもする?とにかく、ソノスも呼びましょう?」


「……はぁ、しょうがない……」


「ウフフッ、それじゃあ、お金取ってくるから、ちょっと外で待っててね」


「ああ」


 そうしてプリ―タスは、楽しそうにスキップをしながら鼻歌を歌う。かつて皆で歌った歌。誰かが考えて作ったというわけでもなく、テキトーにその場で歌った歌。プリ―タスは完全に"模倣"できるくらい、たくさんたくさん皆とその歌を歌った。


「後ろを透かせる透明な ガラスが一枚作られる

無色なガラスのパレットに 鮮やかな色を乗せる

水をかぶせても色が落ちないように ガラスに刻み込もう

火であぶられても色褪せぬように ガラスに布をかけよう

ガラスが割られないように 厳重に保管しよう

だけど人目に付かなければ忘れ去られてしまうから

外に持ち出して 誰かに見てもらおう

飽きられてしまったら俺たちが それを見ていよう

きっと使った色たちが 私たちを証明してくれるから

生きた証を伝えるから 明日も安心して生きられる」


 死んでいったすべての戦友たちが、ガラスでできたキャンバスに自分の色を残していった。色あせることのない、永遠ともいえるような時間を生きる者に、自らの生き様を見せつけた。どんな死に方をしていようとも、彼らの生き様は輝いていた。そんな彼らの生き様の一部を、ガラスのように無垢の少女は真似る。そうすれば、彼ら彼女らがこの世に存在したことを証明できるから。


「よし、ヴィル~!準備できたから行きましょ~!」


 バタンとあわただしく玄関の扉を開いて、かつての戦友たちを誘いに行く。そんなプリ―タスはここ最近で一番生き生きしていた。

次回から番外編としてシャロンとヴィルとリヴィアの過去のお話を何話か投稿します

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