十一話「目には目を、歯には歯を」
アベルとケイトは手に持っていた魔液晶を使う。すると、薔薇の蔓のような黒い物体と、漆黒のナイフが数十本生成され、薔薇の蔓はテイルに絡みつき、ナイフは何本かがテイルの右腕に刺さる。すると、テイルが少し苦痛の表情を浮かべた。
(効いてる!)
そうしてアベルは雷の魔法を展開し、再び攻撃する。しかし、それらは全て防御結界によってはじかれた。
(込める魔力が足りなかった!節約なんてしてられない!)
そうしてアベルは、自分が最も戦いやすい距離に移動するために、テイルから距離を取る。その瞬間、黒い薔薇の蔓が引きちぎられた。そうして、接近戦に持ち込もうとしたケイトに攻撃を仕掛けた。テイルの攻撃の方がケイトよりも早い。
「このっ!」
「王子はそこにいなさい!」
アベルがケイトを助けようとすると、アネモネが鎖を操り、ケイトを助ける。そしてそのまま攻撃を重ねる。
「押してる……ケイト!接近戦はダメだ!僕たちは魔法を使え!接近戦は、彼らに任せよう!」
「そうですね!」
ケイトとアベルが同時に魔法を放つ。テイルはその魔法を避け、接近戦をする気のないアベルとケイトに近づいた。その瞬間、アベルは笑う。
テイルは一瞬戸惑った。なぜこいつは笑っているのだろう。と…… ほんの1秒にも満たない時間で、テイルは答えにたどり着く。アベルが何を見て笑っているか。それは、テイルの後ろを見て笑っているのだ。
(後ろか!)
そうしてテイルは自分の背後に防御結界を張り、アベルとケイトに攻撃を仕掛けた。その瞬間、鉄板に剣を振るったかのような音がした。防御結界はまだ割れていない。割れていないのなら、後ろに集中を割くべきではない。そう思い、テイルはアベルとケイトに攻撃を仕掛けた。
「何?!」
しかし、テイルの攻撃はアベルにもケイトにも当たらなかった。すり抜けたのだ。背後にいた者たちのこともあるので、一旦その場から離れる。離れると背後にいた者たちの姿が見えた。それは二人の騎士だ。しかし、その二人からは、人間の中でもかなり上の方の実力を持っているとみてわかった。
(それにしても、あの第二王子とケイトはどこに行った?)
周りに注意を向けつつ、テイルは二人の騎士を何でもないという風に見つめる。人間の中でもかなり上の実力だと言っても、所詮は人間。才能も十分にあるが、それでも、才能の塊であり、プリ―タスの戦闘経験を身に着けたアベルにはかなわないだろう。
「騎士たちが私の敵になっているということは、あの大天使の能力……本当に厄介だ。是非とも仲間に欲しかったというのに……」
残念そうにそんなことを語るテイル。その瞬間、左の方から殺気をうっすらと感じる。それを頼りに、テイルは攻撃を繰り出した。するとそこには、ケイトが攻撃を放とうとしていた。
「君たちからどうしてかほとんど気配を感じない。まぁ、大体予想は付いているが……あの白色の女の悪魔だろう?」
しかし、誰も答えることはない。一瞬でも集中力を切らしてしまえばこの戦いは終わるからだ。
「もはやあの魔力の膨張は止められない。あの小娘が闇に魔力を吸収させているが、それも時間の問題だ。私にはまだ集めた魔力が残っている」
そう言って、テイルはその魔力を見上げた。その瞬間、アネモネはテイルに鎖で攻撃をする。しかし、それは少し体を動かすだけで避けられる。
「暴食」
「なっ?!」
その瞬間、アネモネが伸ばした鎖が一瞬にして契られる。消えた鎖は、テイルの首にかけられてある魔石へと吸収されていった。
「ちっ!」
「私は利用できる物は利用する主義でね。こっちの方が計画が円滑に進むから使うまでだ。そうでないと今頃は粉々に砕いているだろう」
そうしてテイルはグレイとリヴィアに影でできた剣を飛ばした。いつもの二人なら簡単にその攻撃を弾くことができるのだが、どうしてか二人の腕は全く上がらなかった。
そのまま二人に影でできた剣が突き刺さる。致命傷は二人とも避けることができたが、出血がひどい。
「グレイ様、リヴィア様!」
ケイトが二人に近づいて、回復魔法をかける。その瞬間、テイルがスキをついてケイトに攻撃を仕掛けた。それをアベルとアネモネが防ぐ。
(どうしてグレイ様とリヴィア様が……あの攻撃はいつもなら簡単に避けていたはずなのに……)
ケイトがそう思い、魔法で治療をしていると、少し異常があった。それは、毒の症状が出ているということ。それにより、二人の体が麻痺しているのだ。
「殿下!アネモネ様!この二人に毒が回っています!私たちは大丈夫かもしれませんが、お二人が……!」
「正解だ。なるほど、お前たちは今、毒も効かないのか」
つまらなさそうにテイルはそんなことを言った。恐らく、何の保護もない二人がこの場にいれば、まず間違いなく命を落とすだろう。
「ケイト!その二人を安全なところへ!早く!」
「はい!」
そう言ってケイトは二人を担ぎ、王城から全力で離れていく。そしてそれをテイルは止めもしない。勝ちを確信しているのだろう。
「そろそろか?それでは、お前たちにはこの世の終焉を見届けてもらうとするか」
そう言ってテイルは、血でできた何本もの剣を放った。
* * *
何度も何度も試行錯誤をして、サラは太陽のような魔力の塊を止めようと試みる。しかし、その魔力の成長は止まらない。浸食の盾で成長を抑えているが、それでも段々と大きくなっている。
(だめ!このままじゃ魔力欠乏になっちゃう!)
しかし、いくら考えても最善の道がこれしか思いつかない。魔力が少なくなってきて、段々と頭が回らなくなっていく。しかし、考えることはやめない。
(闇属性で魔力を吸収するのが一番いい……私はプリ―タスさんの霊布と魔法で作った幕があるから大丈夫だけど、水や氷で覚まそうとしても蒸発しちゃう。……一旦この魔力をバラバラに拡散できればいいんだけど……)
その時、サラの視界はぐらりと歪んだ。ついに限界が来たのだ。これ以上魔力を消費すると、どうなるかわらかない。
(ダメ、ダメ!まだ終わってない!終われない!)
ぐらりと視界が歪み、空中に浮いていたサラの体は重力に従って落ちていく。思わずサラは手を伸ばす。星にしがみつくように……
「サラ!」
アネモネの声が聞こえる。しかし、その声はものすごく遠く感じる。サラの視界には今、太陽しか映らない。これをどうにかしようとして、それにだけ意識が行く。
(太陽がだんだん遠くなる……あれをどうにかしないと!でも、どうやって?魔力は尽きた。方法が無い!どうしようどうしようどうしよう!)
嫌な汗がサラの背中を伝う。その瞬間、誰かにサラは抱き留められた。意識をそちらへ少し移すと、焦ったようにアネモネがサラの顔を覗き込んでいた。
「サラ大丈夫?!」
「ま、魔力、が……」
「魔力が無いの?!わかった、今からあげるね」
そう言ってアネモネはサラに口づけをする。じわりじわりと温かい物がサラの体を駆け巡る感覚が広がってくる。意識が鮮明になり、頭も少し回転するようになってくる。そして何より、周りが見えるようになってくる。
「サラ!あれをどうにかするんじゃなくて、あの神をどうにかしよう!もう無理よ!」
「いや、まだ、何かあるはず……あの神は私たちじゃ勝てない……善戦はするだろうけど、多分それでも無理。だから、あれを先に止めないと」
そう言ってサラは巨大な魔力に手を伸ばした。そんな時、サラの目には月と太陽が目に入る。
(昼の月……たしか、太陽も月も、今私がいるこの大地も、星なんだよね……)
少し前に見た占星術の本の内容を思い出す。あまり占いには興味がなかったが、星によって運命がわかるということに少しだけ興味が惹かれた。
夜空で光っている星は、ほとんどが恒星と呼ばれている、太陽のように自ら光っている星である。その星たちには寿命があり、寿命が尽きると、大きな爆発を起こすのだ。
(多分。その原理であの神はこの世界を滅ぼそうとしている…………あれは多分星。もう魔法じゃない。魔力じゃなくなってきたから、段々侵蝕の盾の影響を受けなくなったんだ。だけど、侵蝕の盾は魔力に限定してるから魔力しか吸収しないだけで、何でも吸収させることができるはず。だから、私も"星"で対抗しよう!)
そうしてサラは右手のひらを空に向けた。




