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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第八章【混ざりゆく異常そして、守る者たち編】
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九話「経験のヴェール」

 ケイトは目覚めた瞬間、知らない女性に頬をつままれていた。そして、その女性はケイトが目が覚めたことを確認すると、さっさとケイトを追い出してしまう。


「ほ、ほんとに何なの……」


 突然のことに困惑しながら、辺りを見渡そうと顔をあげようとする。すると、ガタンッと椅子から誰かが立ちあがるような音がした。そのすぐあと、ケイトは誰かにギュッと抱きしめられる。


「こ、今度はな、に……」


 ケイトを抱きしめている人物。その人物をケイトが見た瞬間、ホロリと涙が零れ落ちる。小さく、少ない涙だったはずだが、段々と大きく、多くなっていく。

 ケイトを抱きしめる力が強くなる。ケイトも同じように強く強く抱きしめた。


「サラ、ちゃん……」


「ケイトちゃん!会いたかった!ずっと、ずぅっと!」


「私も。会いたかった……!」


 ケイトがリスタとして過ごしているとき、ずっと眼帯をしていたせいで、サラはケイトの顔を認識していなかった。そして、性格も全く違っていた。だから、記憶喪失になったケイトのことをサラは探し出すことができなかった。それでも、顔を見た今なら、話し方を聞いた今ならわかる。少し変わっていても、サラの昔の記憶にあるケイトだった。


「ずっと近くにいたのに、気づけなかった……」


「私も。記憶を失ってから、どこか懐かしさは感じてたんだけど、まったく何もわからなかった」


 ポロポロと流れ落ちる涙を、サラは服の裾で拭う。涙のシミがそこにできる。しかし、そんなのは気にするようなことでもない。もし、今泥水をかけられたとしても気にならないだろう。なぜなら、親友と再会できたことが、そんな些細な事よりも圧倒的に大事だからだ。


「私、ケイトちゃんの言葉に元気づけられてたんだよ」


「私の、言葉?」


「うん。"明日はもっとよくなる"って、ケイトちゃんの口癖」


「そうなの?あの言葉、自分のためだったのに……」


「そうだったとしても、現に私は勇気づけられてきたんだよ。だから、こうして今ここにいる。明日を信じて、ここまで歩いてきたんだよ」


「そうなんだね……大変だったよね?」


「うん。大変だったよ。だけど、モネと出会って、学園に入学して、ケイトちゃんとまた出会って、魔法をいっぱい学んで、たくさん楽しいことを経験して……大変だったけど、幸せもたくさんあったよ」


「そう……それならよかった!」


 そう言って二人はまた抱きしめ合う。そうして一体何分経っただろうか。ケイトがふとこんなことを言ってきた。


「そう言えば、殿下とアネモネさんは?」


「あっ!」


 ケイトに指摘され、大事な事を思い出したサラ。そうして今いる場所を、ケイトを連れて飛び出した。


「ケイトちゃん、飛べる?!」


「う、うん」


「じゃあ合図したら飛んで!」


「分かった!」


「3、2、1!今!」


 そうして二人はバサリと翼を羽ばたかせる。黒と白。天使と悪魔。二つの種族が空へと羽ばたいた。


「サラちゃん、それ……」


「ん?ああ、これ?実は私、お父さんが悪魔だったみたい。だから私は混血なの」


「そうなんだね~」


「あんまり驚いてない?」


「実は……うん」


 飛んでいる間に少し話を聞くと、どうやらケイトは幼い時にサラの父親から嫌な感じがしていたらしい。どうしてかはその時にはわからなかったが、悪魔を見て、そして、サラの翼を見て確信に変わったのだとか。


「天使になる前から感覚がすごかったんだね」


「そうだね」


 そんな風に二人が話していると、地上の方を走っているアベルとアネモネが見えた。アネモネは相変わらずプリ―タスを抱えている。


「モネ!上!!」


 その瞬間、アネモネが上を見た。そして、アベルの腕をグイッと引っ張り、アベル、アネモネ、プリ―タスの三人が空中へとやってきた。


「サラ、良かった、無事だったのね……それと、そっちの天使も」


「そんな嫌そうな顔しないでよ、モネ。ケイトちゃんは私の友達なんだから」


「ふ~ん……この天使がケイトねぇ~……あ、ほら。あんたのご主人様、連れてきてやったわよ。感謝しなさい」


 そうやって偉そうにアネモネがアベルをケイトに渡すと、ケイトはアネモネの偉そうな態度にものともせずにお礼を言う。


「殿下を助けてくれてありがとうございます」


「うぐっ……なんか前の方よりも素直になってて気持ち悪い……」


「今の方ではだめですか?記憶がない時の性格がいいなら、アネモネさんにはそうやって接しますけど……」


「いや、今のままでいいわ。慣れたらこっちの方がいいからね」


「そうなんですか?」


「そういうものよ」


 ケイトに記憶が戻っても、なぜか前までと変わらない気がするのは恐らく気のせいだろう。とサラは思う。


「はぁ……まぁいいわ。それよりサラ、構えて」


「…わかった」


 そうしてサラが魔法の準備を始める。その間にアネモネはその場にいる全員を囲うように防御結界を張った。その直後、光でできた球体がいくつも飛んできた。数十発あったその球体のほとんどが結界に当たり、そのたびにひびが入る。しかし、ひびが入るだけで壊れはしない。サラが壊れた分を魔力を使って修復しているからだ。


「天使!反射結界を張って!」


「わかりました!」


 言われたとおりにケイトは反射結界をアネモネの結界の周りに張る。すると、ゴシャッという音とともに、反射結界が砕け散り、アネモネが張っていた結界も後一撃で破れそうなまでにボロボロになった。


「天使、貴女、あの神のこと知らないの?!天使だったんでしょ!?」


「知ってるわ。あの神の名前はテイル。確かあの方の力は……強制服従。私たちみたいな契約者がいるならいいけど、契約者がいない状態の悪魔だったり人間だったりしたらすぐにあの方の手ごまになっちゃう!」


「それ、貴女は大丈夫なの?!」


「大丈夫、私は殿下と契約してるから」


「天使が契約?!そんなの聞いたことないんですけど!」


 天使と契約するという文献は人間界のどこを探してもほとんど見つからない。それくらい数少ないケースなのだ。だから、サラも、アネモネも知らなかった。プリ―タスたちなら何か知っているかもしれないが、今はそんな状況ではない。


「アネモネさん!一旦引きましょう!私たち四人だけじゃ戦えない!それに、負傷者を抱えたままだと……」


「ええ、そうね。悔しいけど天使の言うことに一票よ!」


「でも!どこに逃げれば……!」


「他の悪魔がいる場所は?!」


「ダメ!負傷したエタ―ルミナスさんたちがいるから、もし危ない目に会ったら……」


「ならどこに……!」


 四人が悩んでいると、アネモネの腕の中で小さく声が聞こえる。


「四人、とも……右に5メートル、うご、いて……は、やく……」


 そう指示され、四人は五メートルほど右に動く。すると、無数の"何か"が飛んできた。その"何か"は幸いにも当たらなかったが、何も行動していなければ確実に当たっていただろう。


「嘘……何の気配も感じなかった……姉さん、あれは?」


「ひと、まず、地上に、降りてちょう、だい……」


 そう言われ、アネモネたちは地上に降りていく。その時にも、アネモネたちが先ほどいた場所には攻撃が飛んできた。まるで、プリ―タスが未来を読んでいるみたいだ。


「そこに、座らせてくれる、かしら?」


 ゼェゼェと苦しそうな呼吸をするプリ―タスは、アネモネの助けを借りて裏路地の家の壁にもたれかかる。そんな状態でもプリ―タスは説明し始める。


「あの神は、魔石を大量に持って、る……その魔石を、使って……あの攻撃を、放ってた、の……魔石は壊れて破片になっているけれど、異常(アノマリア)を、使うには、十分だわ……本当に、性格が悪い……」


 チッと舌打ちをして、プリ―タスは呼吸を段々と整えていき、ヨロヨロと立ち上がった。


「まずは、魔石を取り上げる。または壊すこと。あいつの、首飾りがそれだから……」


 首飾り。そう聞いて、サラが反応する。


「首飾り……エタ―ルミナスさんがケイトちゃんを復活させる代わりに、首飾りを取ってきてほしいって……」


「……多分、ルビーが欲しいのでしょうね……あの子の、唯一の、形見だもの……ゴホッ、ゴホッ……」


「姉さん!」


 しゃべるごとに段々とプリ―タスの様態がひどくなっていると、その場にいる、アネモネ、サラ、ケイト、アベルが思い始める。

 そう思っていると、ゴホッ!!っと、大きくせき込んだ時、プリ―タスは吐血した。そして、ボロボロと涙も一緒にこぼれてくる。しかし、その涙もよく見て見ると、赤色だった。その赤色の涙は地面に落ちるなり結晶となり、その場に石のように落ちた。


「今から治療を……」


「無駄、よ……私の異常(アノマリア)はそういうものだから……」


「そん、な……」


 プリ―タスの異常(アノマリア)の一つ。"模倣(イミタティオ)"。それは、他の悪魔の異常(アノマリア)を模倣し、使用することができるようになるものだ。しかし、一度の使用ではあまりデメリットはないが、一日のうちに連続して使用することで、彼女の体に異変が生じる。

 例えば、"音・声"が元となるソノスの異常(アノマリア)を使用し続けると、段々と喉に異常が生じる。声が枯れ、しまいには声が出せなくなるほどにまでなるのだ。

 そして、模倣(イミタティオ)の影響で受けた異変は、時間でしか回復しない。または、もう一生治らないことになるかもしれないのだ。


「ノティーツィアの異常(アノマリア)は目と脳にかなり来るわね……さすが、未来を予測するだけある……」


「未来を、予測する?」


「ええ。彼女は、圧倒的な頭脳の持ち主……まさに、生まれながらにして、天才なの、よ……ゴホッ!」


「姉さん……もうしゃべらないで。今日は何もしなくていいから、とりあえず安静にしてて……」


「ええ、そうさせて、もらう、わ……だけど、あの神を、あなたたちだけでどうにかできるの?」


 プリ―タスがそう言うと、四人の顔は曇る。一度戦ったことのある悪魔たちがこんな状態なのだ。絶対に強いに決まっている。正直、四人は勝てるビジョンが全く見えていないのだ。


「……そんな不安そうな顔、しないで……四人とも、こっち来て……おまじないを、あげる。私が、素敵だと思ったものにかける、例えるなら……そうね……ヴェールかしら。 "霊布(パーリウム)"」


 その瞬間、一瞬だけ世界がふわりと光に包まれたような感覚がして、すぐに元の見え方になる。


「さ、いってらっしゃい……私は、ちょっと、休んでるから……」


 そう言ってプリ―タスは四人の背中をトンと押す。すると、勝手に四人の足は勝手に動き出す。神と戦うというのに、なぜか恐れが無い。むしろ、自信が沸き上がってくる。


「ごめん、なさい……あなたたちに、こんな事、任せてしまって……本当は、私がやらないといけない、のに……」


 そう言ってへたり込むプリ―タス。あの四人は、力は神以上だ。しかし、それ以上に経験が足りない。強敵と戦う経験が。だから、プリ―タス"たち"が経験してきたことを、霊布(パーリウム)というヴェールに流し込み、それを四人にかぶせた。これで経験不足はマシになるはずだ。


 もう、段々と手足がしびれてきて、意識も薄くなっていく。プリ―タスがこれからできるのは、ただ待つのみだ。

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