八話「おねんねは終わり」
「馬鹿野郎!サラに当たったらどうするんだ!」
『知らねぇよ、んなもん。ていうか、お前のガキならこれくらいで死なれちゃ困る』
「おい。お前、僕の娘と殺り合う気か?言っておくが付きまとうならばいつでも殺してやるが」
『おうおう、いつになくやる気じゃねえか、っと、その前に、あいつをどうにかしねぇとな。ほれ、お前のガキ、生きてんぞ。ていうか、かすり傷一つ付いてねぇ』
「当たり前だ、僕とシャロンの子供だからな」
『ちっ、惚気はいいんだよ。それより来るぞ……』
その瞬間、光でできた槍がソノスの頬をかする。ツゥとソノスの頬から血が垂れてくる。
『おおコわ。やっぱ俺、あいつとの契約、切ってよかったぜ~』
そんなことを呑気につぶやくソノス。
「お前……どうやって契約を解いた」
神がソノスに聞くと、ソノスはケヒヒと悪戯な笑いを漏らし、目を見開く。
『それはぁ!お前ごときに教えるわけねぇよ!!"テイル"とかいう神様よぉ!ヴィルのガキ、伏せてな!! 破壊音!!!』
ボッ!という音とともにすさまじい爆風があたり一面に吹き荒れる。瓦礫が舞い、刃のように鋭い空気がテイルとサラに襲い掛かる。砂埃が舞い上がっているので、サラとテイルの様子がわからなくなる。
『これでやっただろ』
「馬鹿野郎!これじゃあサラが!」
『お前はあのガキを舐めてんだろ。お前がこんなんで死ぬわけねぇのに、あのガキが死ぬわけねぇ』
「本当にお前は馬鹿だな!あの子は半分が人間だ!」
そんな風に二人が言い合いをしていると、段々と砂埃が晴れてくる。そして見えた景色は、衝撃的な物だった。
「がっ、ぐっ……」
サラがテイルの腹を思いっきり貫いていた。テイルは苦痛の表情を浮かべており、右腕も千切られている。そして、テイルが持っていたケイトの魔石はサラの左手に所持されていた。
「"これ"は、あなたが持ってていい物じゃない」
そう言ったあと、サラは無慈悲にテイルの左手も捥ぎ取る。できるだけ再生できないようにぐちゃぐちゃにする。そうしてサラは、テイルの心臓をつぶすために、胸にゾブリと腕を突っ込んだ。
「サラ!止めろ!」
「お父さん、止めないでよ……この神がいたら悪魔どころか人間が滅ぼされちゃう……」
そう言ってサラは腕に力を込めた。もうすぐ心臓がつぶれる。そんなところで、ソノスとヴィルは焦ったように言い放った。
『「神の心臓をつぶすのは逆効果だ!」』
その瞬間、ピタリとサラは止まる。そして、糸がプツンと切れたようにその場に倒れこんだ。どうやらオドを使いすぎてしまったようだ。ひとまず安心したヴィルが、サラを抱えてその場から立ち去ろうとする。すると、どこからともなく大量の魔物がやってきた。
「下等種が、僕の前に立ちふさがるのか?」
ヴィルがそう脅した。しかし、どこか様子が変だ。これだけ圧をかければ普通の魔物は逃げていくものだが、そんな様子が一ミリもない。
そんな時、ヴィルの後ろからとてつもない気配を感じた。
『おいヴィル!』
「わかってるよ!」
そうしてヴィルは瞬時に後ろの気配から逃げるために防御結界を張る。すると、バキバキという音を立てて、いとも簡単に防御結界が割られた。
「あっぶない、サラに傷がついたらどうするんだ!」
そうして初めてヴィルは後ろを向いた。
「っ……?!」
その瞬間、ヴィルは目を見開いた。あれだけボロボロになったのにも関わらず、まだ再生し続ける神。ヴィルの記憶だと、あれくらいボロボロになった神は死に向かうはずだ。
「まだだ、貴様、貴様の娘を寄越せ……」
『ヴィル!そいつは魔力量の多いやつを狙ってる!お前のガキも狙ってた!だから早くそいつをどこかへやれ!』
「くっ!」
そう言われ、ヴィルは王城から離れていく。そして、ノティーツィアが待機している場所まで戻っていく。それにソノスもついて行った。そうして着くなり、ヴィルはノティーツィアに問い詰める。
「ノティーツィア。あの神の目的を教えてくれ!それとその方法!」
「ちょっと待って……目的はもう知ってる。人間界の人間と悪魔を根絶すること。方法は……人間は魔力濃度が高い場所で生きられない。だから世界中に濃度の濃い魔力を蔓延させればいい。悪魔を滅ぼす方法は……まぁ、プリ―タスだけ殺せればあとは楽勝らしい」
そう言ってノティーツィアは気を失っているサラが持っている魔石を一瞬にして取り上げる。
「だけど、とりあえず希望はまだあるかもね」
にやりと笑ってノティーツィアはその魔石をとある場所に持っていく。とある場所とは、エタ―ルミナスが寝かせられている場所だ。エタ―ルミナス、ナトゥーラ、サームノムはプリ―タスと供にテイルと戦い、プリ―タスに逃がされてノティーツィアの元へやってきた。が、傷が深く、今まで安静にしていたのだ。
「エタ―ル、エタ―ル。起きて」
「っ…ん、な、なに……ってここどこ!?」
「私の隠れ家。そんなことより、これ、治せる?」
「魔石?誰の?ま、まさかプリ―タス?!」
「違うよ。だけど、プリ―タスくらい大事な人材。いや、人じゃない……天使だから"天材"かな?」
「天使?神の味方じゃないの。私は嫌よ」
「だけど、このままいけば私たち、負けるよ」
そう言ってノティーツィアはその魔石をポイッとエタ―ルミナスに放り投げた。そして、「よろしく~」と言ってエタ―ルミナスのいる部屋を出ていった。
「なんで私がこんなこと……」
ブツブツとそうつぶやくエタ―ルミナス。そうしてその魔石をじっと見つめ、はぁ、とため息をついた。そして、それを思い切り振り上げて、地面にたたきつけようとした。
「鎖」
その瞬間エタ―ルミナスの腕に鎖が絡みつき、振り上げていた腕をガッチリと固定する。
「エタ―ルミナスさん、やめてください」
「サラ……」
ゾッとするようなサラの冷たい声。あの優しい子からどうやってそんな声がするのだろうと不思議にも思う。
その瞬間、エタ―ルミナスが持っていた魔石が一本の鎖によって取り上げられる。それはサラの方へと運ばれ、サラが大事そうに手に取った。
「ごめんなさい。悪魔が天使の味方をしたくないのもわかっています。だけど、この子は私の友達なんです。……これは、わがままです。どうか、お願いします。この子を、助けてください。お願いします……お願いします……」
「……」
そうして今度は頭を下げて頼み込むサラ。魔石になった状態から元の体に戻せるのは、エタ―ルミナスの異常しかないからだ。
「…………それなら、悪魔たちのルール。契約を結びましょう。あなたのそのお友達を助ける。その代わり、あなたはあの神がつけている首飾りを取ってきなさい」
「い、いいんですか?!」
「ええ。でも、首飾りを取ってこないと、契約が成立しないわ。もし破ったのなら、言うことを何でも聞いてもらうからね?」
「わかりました……ケイトを、助けてくれるなら、十分すぎます……」
嬉しすぎて泣き出しそうになっているサラをエタ―ルミナスは部屋から追い出し、すぐに自分の異常を使い始める。本当は天使なんかに使いたくはない。なぜなら、最愛の人が神陣営に殺されたのだ。
「……それでも、あの性悪な神よりは、サラの友達っていう天使の方がいいのかしら?」
しばらく考えてエタ―ルミナスは決断を出す。異常を使う準備はできた。そして、最後の一言を、魔石を包み込むように詠んだ。
「蘇生」
その瞬間、緑の光が魔石を包み込む。やがてその光はだんだんと大きくなっていき、頭くらいの大きさになると、そこを中心に人間の形に広がっていく。緑色の光はやがて白色へと染まっていく。その白色の光は、肌へと、髪へと、目へと、羽へと……それぞれの色へ色づいていく。
「起きなさい。あなたのおねんねの時間は終わりよ」
そう言ってエタ―ルミナスはムギュッとケイトの頬をつまんだ。
「ん、んぎゅ……にゃ、にゃに……」
起きたことを確認したエタ―ルミナスはさっさとケイトを自分がいる部屋から追い出し、鍵を閉めて体を休めるために布団にもぐった。




